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 シーナから逃げるように格納庫へとやってきた。といってサポートシステムであるシーナから逃げる事なんてできないのだが、気分の問題だ。切り替える必要があった。

 移動は転送によって一瞬で終わる。

 格納庫に鎮座する今の愛機は、ソードフィッシュ型偵察艇。その名の通り、シルエットはカジキを思わせる。

 船体の前方へと細長いアンテナが伸びていて、船体自体は流線型。全長は10mほどで、アンテナが2mを占める。本体部分は車2台分くらいか。

 高さは3mほどで、その上部には背ビレを思わせるアンテナが並んで立っていた。胸ビレの辺りには、可動式のパラボラアンテナが左右に付いていて、船体の後端には、尾ビレを思わせる縦に長いブースターがついている。

 宇宙船なので大きな翼もなく、まさに魚といった形になっていた。


 その腹部にあった粒子砲は取り外されて、電磁波を照射するヒートブラスターに換装。また尾ビレの左右には追加で補助ブースターを付けているのが、俺のカスタマイズとなっている。



 格納庫は無重力となっていて、地面を蹴るとかるく体が舞い上がり、船体前方上部にあるコックピットへとたどり着く。

 コックピットは魚の頭の中といった感じで、球体の中に椅子が一つ浮かんでいるように見える。

 その椅子に座ると、コックピットが閉じて、球体の内面がディスプレイへと変化。周囲の様子を映し出す。

 椅子に座った後、足の間に現れたサブディスプレイを操作して、採掘任務のリストを表示した。


「任務が増えてるね、狙い通り」


 星系の探査が終わった事で開拓度が上がり、最初には無かった難易度の任務が並んでいる。この辺はβテストでも同じだったので、予測できていた。


「マスター、この船は積載量が少なく、採掘には向きませんが」

「ああ、分かっている。だから受けるのは、希少金属の採取任務だ」


 俺はリストアップされた中から、汎用素材ではなく、探すのが難しいレアメタルの採掘任務を選んでいく。


「こいつのレーダー性能なら、範囲を絞れば希少金属も探査可能。任務自体に大まかな採取場所が表示されるから、現地に行きさえすれば狙いの物が掘れるって寸法よぉ」

「はぁ、よく考えつきますね」

「俺だって無駄に3ヶ月を過ごした訳じゃないさ」


 βが終わってから俺は、製品版に向けて色々と脳内シミュレートは行っていた。ずっと採掘で過ごしたβ時代、それをより効率的に進めるにはどうしたらいいかを考えてきた。

 一つは船を大きくして、一度に積載量を増やす方法だ。採掘で一番無駄になる時間というのは、採掘場へと移動する時間だ。その間にできることは少ない。一応、小惑星の位置を確認して、効率の良いルートを選定するという時間に充てる事もできるが、そこを突き詰めてもそこまでの速度アップにはつながらない。

 となれば行き帰りの速度を上げるか、行き来の回数を減らすかを焦点に時間を短縮するしかない。

 積載量を増やすのは、回数を減らす上で妥当な手段だ。しかし、ありきたり。


 では行き来の時間を減らすにはどうしたらいいか。移動速度を上げていくしかないが、そうすると積載量を減らしてでも、そこにブースターを追加していくのが一つの方法だ。

 しかし、それでは1回辺りの収穫量は減ってしまうのであまり効率的ではない。


 ならば少ない収穫量でも十分な報酬を得る手段はないかと考えた時に、思いついたのは希少金属に狙いを絞る方法だ。

 β時代の経験では、大量の汎用素材を採った中に、ラッキーヒットで希少金属が入っていたという感じだった。

 希少金属はその名の通り、希少であるが故に任務達成時の報酬も、余剰分の買い取り価格も、汎用素材の何倍にもなるので、積載量が少なくても大丈夫。それを狙って採る方法があれば、これは稼ぎにつながるはず。


 そういう予測を持っていたので、中古で機体を探した時に、探査能力がずば抜けた機体が目に止まったのだ。

 昨日の星系探査の時に、小惑星の側へと寄った際、広域探査では小惑星としか記載されなかったレーダーも焦点を絞った詳細探査に切り替えれば、含有成分までかなり細かく探査できるのを確認している。

 あとは任務に指定された希少金属を、小惑星帯の中で探せば無事に任務完了となるはずだ。




「シーナ、発進シーケンス」

「了解、マスター。発進シーケンスに入ります。コンディショングリーン、格納庫内の気圧を低下……」


 シーナの返答と共に、格納庫内の照明が暗くなっていき、正面にある格納庫の扉が開いていった。

 開拓ステーションの外周部分が、各プレイヤーの格納庫になっていて、そこから発進するまでは無駄な事故をなくすためにオートで進行していく。

 格納庫の扉が開ききると、3本の棒状の物が伸び、根本から順番にランプが灯っていく。

 ガコガコッと船内に固定フックが外れる音が響き、視界がふわりと揺れる。ゆっくりとした速度で格納庫内を前進し、3本の棒の真ん中へと移動する。これがリニアカタパルトになっていて、磁力に引っ張られながら、徐々に加速していく。


「遊矢、いっきまーす!」

「ゴブ運を!」


 妙な響きのシーナの声を聞きながら、ブースターに点火。更に加速が増していく。VRゴーグルでは流石にGまでは感じられないが、視界が振動していて手からは握ったスティックの振動も伝わってくる。

 やがて一定速度に達したところで、加速は収まり静寂が訪れる。宇宙空間ではほとんど抵抗がなく慣性のままに飛行できる。加速すればするほど速度もでるのだが、そうなると今度は減速しようという時にもエネルギーが必要となってくる。

 また加速しすぎれば、小石一つが弾丸よりも早い速度でぶつかってくる事にもなるので、思わぬダメージを受ける事にもつながるので、一定速度までしか加速しないのが普通だ。



 そうした等速運動を続けるうちに、やがて目標である第3惑星の輪っかへと到着。土星の様に輪の付いた第3惑星は、それなりの大きさを持っていて重力もある。あまり近づき過ぎると引っ張られる事にもなるので、注意は必要だ。

 一定距離まで近づいた所で、レーダーを広域から詳細探査へと切り替える。こうする事で小惑星を構成する物質までが探査可能となり、目的とする希少金属を含有する小惑星をピックアップできる。


「目的となる小惑星をマーキング」

「はい、マスター」


 赤く色づけられた小惑星へと船体を寄せていきつつ、ヒートブラスターで加熱していく。電磁波によって原子レベルで揺さぶられ、加熱していくのは電子レンジと同じ原理だ。電子レンジと違って水分子だけではなく、構成する物質によって波長を変えて熱するので、効率はいい……らしい。


 輸送船に比べて偵察艇は機動性に優れているので、小惑星帯の中でも機敏に動けた。スムーズに機体を寄せて、溶融、回収が格段に早くなっている。ただコアの出力に不足があるらしく、長時間ブラスターを照射していると、エネルギー警告が出るようになっていた。


「輸送船は積載量の分、コアの出力も大きかったからな」

「ブラスター系の武器はコアから直接エネルギーを放出するので、一般の武器より消費が激しいです」


 そういった事を確認しつつ、高機動を活かす事でより近くから細かく照射を当てていき、オーバーヒートを起こさないように作業を進めていった。


「うう〜ん、この軽快さに慣れると、輸送船の操艦ができなくなりそうだ」


 と、その時、コックピットの全天パネルが赤く点滅を始めた。


「他次元生物の反応を検知、これは……通称、ゴブリンです!」


 シーナの声にサブディスプレイを確認すると、ゴブリンの情報が表示される。ずんぐりとした前かがみの二足歩行で船に取り付いて拳で殴ってくるらしい。亜人というよりは、猿っぽい印象を受ける。

 小惑星帯などに集落を作って集団生活をしているとの事だ。


「って、グズグズしてたら囲まれるぞ」

「レーダーに感、マーキングします」


 全天モニターに敵を示す赤いマーカーが灯っていく。機体の右側から5体ほど迫っていようだ。


「これは……逃げるが勝ちか」

「そうですね、ゴブリンは小惑星を足場に飛び回りますので、ヒートブラスターを当て続けるのは難しいかと」


 ヒートブラスターは電子レンジと一緒で、温めるには一定の時間が掛かってしまう。他次元生物にダメージを与えるには、高出力で一気に焼き切るか、動けなくして長時間当て続ける必要があった。

 幸いにしてゴブリン型は、小惑星帯から出てくる事は無いようなので、第3惑星の輪から飛び出せば問題ないはずだ。

 俺は進路を決めて、ブースターに点火。一気に加速して、窮地を脱出する。偵察艇では戦闘なんて期待しない。その分、早く相手に気づくことができる。

 欲張らずに逃げの一手で事なきを得た。


「ゴブ運ついてましたね」

「ゴブ運って、そういう事かよ。わかりにくいわっ」

ストックによる連続投稿はここまでになります。

以後は不定期連載になるかと……ご容赦ください。

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