45. 異世界196日目 蠍の尾パーティーのお宅拝見
付与魔法について一段落したので次のことに取りかかろうと思っていたんだが、今日はいろいろと指導してもらっているスレインさん達のところに遊びにいく約束をしている。前に家の場所を聞いていたんだが、なかなか時間がとれなくてやっと都合がついたのが今日だった。
お昼をスレインさん達が準備するので3時前に来てくれと言うことだったので、朝はゆっくりすることができる。かなり慌ただしい10日間だったからたまにはゆっくりするのもいいかもしれない。
今日は遅めに起きようと思っていたんだが、いつもの習慣か0時には起きてしまった。ジェンはまだ眠っている。よく自分と一緒にいてくれるよなあ・・・と思って眺めていると、ジェンも起きたようだ。
「だから寝顔をあまり覗かないでって言ったでしょ!!」といつもの文句が飛んできた。横で寝ているんだから見えるのはしょうがないじゃんか・・・。見られたくないなら自分より先に起きろって。
前はシャワールームに行って着替えていたんだが、今は自分がいるのに部屋で下着までとはいえ着替えをするので困ってしまう。着替えるときはもちろん後ろを向いているんだが、気になって仕方がない。もう男としてみてないよね?
準備が終わったところで朝食を食べに行くが、今日はいつもとは違うお店に行くことにした。ジェンがいろいろと調べて気になっていたところらしく、特に女性に人気のあるお店らしい。休日だと結構混むらしいが、今日は平日なので大丈夫なようだ。
お店はちょっとしゃれた喫茶店のようなところで、サンドイッチをメインとしたお店らしい。飲み物とのセットで100ドールとそれなりにはするが、まあしょうがないか。
人気のお店だけあって味もなかなか良かった。ジュースも絞りたてのフレッシュジュースみたいで内容的には満足できる。昨日までの付与魔法のことや今後の話をしながら食事を楽しんでお店を出る。
そろそろお店も開き始める時間となり、せっかくなので時間まではいろいろとお店を見て回ることにした。今のところ拠点もないため、あまり荷物は増やせないのがつらいところだ。また移動になるようだったらいろいろと処分しなければならなくなるからね。
携帯電話のようなものは売られているんだが、まだトランシーバーのようなもので、誰にでもかけられるものではない。届く範囲もそこまで広くないようなのでコーランさんの車のように団体移動の時に使うのが主流のようだ。
固定式のものであればかなりの距離が届くらしいんだが、一般的に販売はされていないため、詳細は分からない。おそらく各主要都市間とか国家間とか大手の商会とかの連絡用なんだと思う。値段がかなり高いと言っていたからね。もう少ししたら携帯電話のようなものが使われるようになるのかねえ。
最近気分転換用にゲームも購入している。ゲームと言ってもゲーム機ではなく、ボードゲームの方だ。リバーシやトランプ位なんだが、トランプは枚数が違っているのでもちろん遊び方も違ってくる。チェスや将棋のようなものもあるんだが、もちろんルールや駒の形は違っている。
異世界ものでの知識チートの定番のゲームはここでは使えないようである。もちろんここにないようなゲームもあるんだが、娯楽道具がすでにあると言うことは爆発的な普及は見込めないだろう。
時間も迫ってきたので聞いた住所を頼りに家の方へと向かう。場所は高級住宅地の外れになるんだが、やはり大きめの家が多い。スレインさんたちの家は結構大きな家で、門番のような人も立っているところだった。まあこの辺りの家はすべて門番がいるんだけどね。
門番をやっている女性に今日の用件を話すと、なんか自分の方を見て不審げな表情をしている。連絡を取ってもらうと、中からスレインさん達がやってきて中に案内される。
やはり日本とは違って部屋の中も靴は脱がないスタイルのようだ。宿がそういうスタイルしかなかったからそうだとは思っていたけど、やっぱりそうなんだなあ。宿では部屋用にスリッパを履いていたけどね。
そのままリビングのような部屋に案内されると、テーブルの上にいろいろな料理が準備されていた。聞いたところ、全員で準備したらしい。お手製の料理を準備してくれるとはありがたい。お土産に持ってきたお菓子の詰め合わせを渡しておく。
ジェンは用意してもらったワインをもらっているが、自分はジュースにしてもらい乾杯。準備した料理は野営の時にいろいろと工夫してきたものらしく、無骨な感じではあるがおいしいものだった。
食事の後はお茶を準備してくれており、ケーキも出てきた。なんとケーキはアルドさんが作ったらしい。「アルドさんが!!」とつい声に出してしまった。ごめんなさい。アルドさんは顔を赤らめて照れていた。どうやらお菓子作りが趣味らしい。
早速いただくと、かなりのレベルのものだった。おいしいというとかなりうれしそうにしていた。アルドさんにこんな特技があったとはびっくりである。ちなみに料理の腕はアルドさん、スレインさん、イントさんの順番で、デルタさんは手を出さないらしい。
「できないわけじゃないよ、しないだけだからな。」と言い訳しているが、きっとできないのだろう。と考えていると、魔法で攻撃されてしまった。勘弁してよ。軽い風魔法だけど、やめてよね。
この家は良階位になったあと、しばらくしてから借りた家らしい。不在にすることも多いため、屋敷の管理と見張りをかねて管理人を2名雇っているそうだ。
一階はこのリビングや台所の他に管理人たちが泊まる小部屋が二つあり、お風呂もあるらしい。スレインさん達は2階にそれぞれ別に部屋があるらしく、客用の部屋もあるらしい。
良階位のパーティーくらいになると、大体どこかの町に拠点を購入するか借りて、それを維持するくらいの収入はあるらしい。
ちなみにサクラで活動している冒険者は遠距離の依頼も多いので、車を持っていることが多く、スレインさん達ももちろん所有していた。狩りをするときは車で5~10日間かけて行っているらしい。
ふと気になったことを聞いてみた。もしかしたらあまり良くない話なのかもしれないけど、ずっと気になっていたことである。
スレインさん達といろいろと店を回ったときに、お店の人にかなり驚かれたことや、他の冒険者の様子が変だったことが気になったのだ。
するとスレインさんが「あ~~~~。」と困ったような表情になり説明してくれた。
4人の女性のパーティーだったせいもあって、最初の頃によくからかわれたり、いろいろと嫌がらせや差別を受けたりしたらしい。襲われかけたこともあったようで、撃退はしたが、かなり男性不信になったようだ。そのため男性に対しての対応がかなり厳しいものになってしまっていたようだ。
普段の対応がそのようなものなので、周りも余計に気を遣うようになり、今では知っている男達は用事がない限りは声をかけてくることはほとんどないらしい。そういえば最初に自分が挨拶したときも結構塩対応だったなあ・・・。
自分に対しては護衛の時にいろいろと接しているうちにちょっと違うと感じていたところで、例の盗賊退治のこともあって慣れてしまったようだ。そのせいか、最近は自分たちでも驚いているくらい他の男性に対しても態度が変わってきているようだ。
男として認識されていないのかと思っていたと話すと苦笑いしながら「そういうわけじゃないよ。」と言っていた。「ただね・・・」とジェンの方を見ているが、何かあったんだろうか?
「だけど、スレインさん達くらいの美人でスタイルもいい女性が4人もいたら下心がなくても声をかけたくなるのもわかる気がするよなあ。仲良くなりたいと思うのは男としてはしょうがないように思うんだけどね。」
「「「「美人って・・・?」」」」
「え?」
なんか4人とも顔を赤らめて無言になってしまった。
どうやらスレインさん達はそんな風には思っていなかったらしく、たんに女性だからからかわれているという認識だったらしい。男性不信が強くて悪い方にしか受け取っていなかったようだ。
うーん、もう少し自覚した方がいいと思うんだけどね。どう考えても普通に目を引くレベルだと思うんだがなあ。
このあとは今後の自分たちの方針に対する助言をもらったり、他の町や国のことについていろいろと話したりした。スレインさん達はナンホウ大陸のモクニク出身らしく、最近は大分良くはなってきているが、男尊女卑がここよりもひどいために成人したところで国を出たらしい。
国を出てからはヤーマンを中心に北のアルモニア、東のハクセン辺りを活動の場にしているようだ。他の国にも行ってみたいのでそれぞれの国の情報もいろいろ聞くことができた。
年齢のことをそれとなく確認したところ、成人するまでにかなり訓練をしていたこともあり、冒険者になって4年で良階位になったらしい。良階位になってから3年と言っているので今は21~22歳くらいのようだ。
彼女たちは成熟が早いが、その後の老化が遅いみたいで20歳くらいから40歳くらいまでは容姿があまり変わらないらしい。うらやましい。
4年で良階位になるというのはかなり早いほうだろう。上階位まではなんとか上がれるが、良階位に上がれるのはほんの一握りで、かなりの実力が必要となってくる。良階位になる人たちは20代で昇格する人が多く、年齢が上がってから昇格する人はかなり珍しいようだ。
気がついたらもう5時になっていたのでおいとますることにした。玄関まで見送りに来てくれて、「また時間ができたら遊びに来てね。」と言われる。門番の女性がかなり驚いているのはきっとこんなやりとりが今までなかったからだろう。
結構お茶やお菓子など食べていたせいであまりおなかもすいていなかったので、夕食にはハムと野菜のサンドイッチで簡単に済ませることになった。
~スレインSide~
今日はジュンイチとジェンが遊びにやってくるというので朝から料理をして準備をした。アルドは前日からケーキの準備もして、かなり張り切っている。デルタは相変わらず料理には手を出さないけど、出してもらうと困るからいいんだけどね。
家に誰かを招くと言うことは仕事の都合でどうしてもというとき以外はなかったのでちょっと緊張している。
お昼前に二人がやってきたのでみんなで玄関まで出迎えに行くと、門番のジャニーが驚いていた。そういえば私たちが全員で出迎えるなんてことは一度もなかったかもしれないわね。
ジュンイチもジェンも用意した料理を「おいしい、おいしい。」と言って食べてくれた。アルドが作ったケーキにはかなり驚いていたけどね。アルドはかなり照れていた。
ジュンイチに他の人の態度について聞かれて説明したときに、ジュンイチから「美人だから」と言われてみんな黙ってしまった。いつもは言われても聞き流しているんだが、ジュンイチから真剣な顔で言われるとどう対応していいのか分からなくなってしまう。
ジェンからももう少し自覚した方がいいと言われてちょっと焦ってしまった。今までは女性パーティーが珍しいからからかわれているだけだと思っていたんだけど・・・。
ジュンイチ達は今いろいろと勉強しているようだ。冒険者だけでやっていけるかも分からないし、何か向いていることがあるかもしれないので一通りやってみるらしい。武術のレベルも結構あるし、特に魔法についてはかなりの実力だと思うのだけどね。
二人と話しているとあっという間に時間がたって夕方になっていた。自分たち以外と時間を忘れて話をするなんていつ以来ぶりだろう。また遊びに来てくれるかな?
~アルドSide~
今日はジュンイチ達が家に遊びに来るというので料理だけでなくケーキも焼いてみることにした。小さな頃からお菓子などの甘いもの好きで、いろいろなものを食べたいと結局自分で作るようになってしまった。
かわいいものも大好きなんだけど、やっぱり似合わないので普段はつけていない。おかげで部屋の中はみんなに引かれるような感じになっているのは自覚している。ぬいぐるみなんかは自分では買えないのでいつも他の人にお願いして買ってきてもらっているので部屋はぬいぐるみであふれてしまっているのは秘密だ。
人見知りな上、体が大きくて怖がられていることもあり、無口な人と思われているようだけど、本当はいろいろと話すのは大好きだ。
最近知り合ったジュンイチとジェニファー。最初はもちろん全く話すことができなかったが、他の皆が話すようになってから自分も徐々に話すことができるようになってきた。
頑張って作った料理やケーキを二人は美味しいと言って食べてくれた。私が作ったのには驚いていたので、やっぱり似合わないかなと思ったが、「家庭的でいいなあ。」と普通に言ってくれた。
ジュンイチから「みんな美人だから」と言われて照れてしまった。そのあとの二人の熱弁を聞いてさらに恥ずかしくなってしまった。そんなに褒めてもらうと・・・。
いろんな話をしているとあっという間に時間が過ぎてしまっていた。こんなに話したのは久しぶりだなあ。こんな男性もいるんだなとジェンがちょっとうらやましくなった。