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先代の巫女(演技派ヘルパー)



 千年の歴史で知られる、アルファ王国。

 その地にて、異世界人を召喚する、儀式の準備が進んでいる。





 アルファ神殿、奥の間。

 五百人は入れるであろう、白を基調とした空間。

 王族でさえ、巫女の許可なく立ちいることは許されない、神聖な場所。


 天窓から射しこむ光が美しい。

 中央、床には召喚陣が刻まれている。

 壁には装飾品としても見事な、光が灯るマジックアイテム。


 一番奥には祭壇があり、巫女が祈りをささげている。


「いよいよですね」

「はい」


 異世界人召喚の間。

 人ばらいを終えて、いま、ふたりの女性だけがいる。

 十六歳の娘と、初老の女性。

 儀式をとりおこなう巫女と、先代の巫女である。


 異世界人がやってくる時期が近づき、すべてを知っている先代の巫女が、舞台の様子をうかがいにきていた。


「今回はどのような方々がこられるのでしょうね」

「ええ、素直な人たちだとよいのですが」


 聞き分けの悪い乱暴な人たちであったらどうしましょう。

 うふふ。

 ふふっ。

 巫女たちは微笑みをみせあった。


「ところで先代さま。部屋の装飾のほうはこのような感じでよいでしょうか?」

「ええ、素敵だとおもいますよ。さきほど見せていただいた神官たちの衣装も、好印象をいただけるとおもいます」


 巫女が気軽に相談できる相手は、先代の巫女をおいて他にはいない。

 先代としても、孫のような存在に頼られるのはうれしい。


「予行演習のほうは十分ですか?」

「いえ、ひとりでは、なかなか難しくて」

「ならばお手伝いしましょう」


 足腰に衰えをみせない先代の巫女が、すたすたと中央に移動する。

 しばし待機して、気持ちをつくる。


「……こ、ここは?」

「ようこそおいでくださいました。異世界の皆さま」

「異世界ですって?」

「はい。みなさまは、世界の亀裂に飲みこまれて、この地に流されてきたのです」

「まさか、あのときの……私たちはどうなるの?」

「ご安心ください。皆さまはこの地、アルファ王国で保護させていただきます」

「元の世界には帰れないの?」

「私どもの力では……」

「そんなっ!?」

「ですが、可能性ならございます」

「教えてください」

「かつて魔王を封印した勇者、先代の異世界人が残した言葉にはこうあります……元の世界に帰還する方法は、魔王が眠る地にある、と」

「勇者? それに、魔王ですって?」

「この世界は、皆さまのいた世界とは異なり、モンスターがはびこる世界」

「モンスター!?」

「そして異世界人である皆さまは、悪を打ち払う力をもった存在」

「私たちに、そんな力が……?」

「もし、皆さまに戦うご意志がおありならば、お願いいたします。この世界を救ってください。襲いくるモンスターの恐怖から、この世界を!」


 アルファ王国の王族には、神託として伝えてある。


 異世界人は十人前後あらわれるでしょう。それぞれに素質を秘めてはいるものの、戦う意志がともなうとは限りません。平穏を望むものには、無理に戦いを強要せず、暮らしていけるだけの援助をしていただきたい。また、すべての異世界人が善意をもつとはかぎりません。悪意をもった異世界人があらわれる可能性もあるとおもわれます。そのときは内々に処理いたしますので、ご安心ください、と。


 巫女は、先代にたずねた。


「世界を救ってください、という台詞は必要でしょうか?」

「これまではとは違い、それほどの危機ではありませんからねえ」

「はい」

「ですが、何人かの異世界人には協力していただかないと」

「厳しいでしょうか?」

「おそらくは」

「ならばやはり、真実は伏せ、世界を救っていただくために皆さまを召喚した、という説明のほうがよろしいでしょうか?」

「無難かもしれませんね。この世界の常識に沿っていたほうが、混乱も少ないでしょうから」

「異世界人の方々を説得して、常識に合わせてもらうのも大変ですものね」


 巫女と先代は、祭壇をテーブルがわりにして、紙に台詞を書き出す。


 神々の導きによって、世界を救う力をもった異世界の皆さまを召喚しました。

 アルファ王国で保護させてもらいます。

 戦う意志がおありならば、どうか、世界を救ってください。

 元の世界にもどるには、魔王が封印された神代のダンジョン、オメガを攻略せねばなりません。


「このような流れでよろしいでしょうか?」

「ええ、ですが、すべてを一度に説明する必要はありませんよ。まずは落ち着いてもらうことが第一です。とりあえず安心してもらい、相手の質問にこたえるという形で、少しずつ説明すればよいでしょう」

「ありがとうございます。それとですね」

「はい」

「勇者という称号はどういたしましょう? 世界の常識に沿うならば、英雄と伝えるべきでしょうか?」


 五百年前の戦いでは、アルファ王国にあつめられた異世界人である、勇者たちの活躍が乏しかった。活躍したのは勇者と同じ、黒い瞳と黒い髪をもつ、異世界人。神々による救済の網をすり抜けて、世界の片隅に流されてしまった少年。


「カオリさまが救い、導き、鍛えあげられた英雄、ヤクモさま」


 世界に秩序をもたらした最大の功労者は、ヴァルキリーとなるであろう、英雄と呼ばれていた。人々の記憶が薄れはじめたころに広まった物語には、ヤクモという名も、勇者という称号も使われることはなかった。


「名前を知られていないのは、名乗らなかったからでしょうか?」

「各地で暴れまわっていたという話もありましたからねえ」


 黒髪の女。

 黒い鱗をもつ黒髪の少女。

 黒髪の少年。


 兇悪なモンスターを蹴散らしてまわる、逃亡犯たち。


「ガンマ地方にあった国を潰滅させたのは、カオリさまですよね?」

「竜王かもしれませんが、どちらにせよ、ヤクモさまではないでしょう」


 伝えられる物語には、破壊活動など記されていない。

 黒髪の女と黑い鱗の少女については、影も形も存在していない。


 吟遊詩人が伝えていた話や、異世界人の伝記を参考にしたとされる、作者不詳の夢物語。アルファ王国に召喚された、ひとりの異世界人が、楚々として気品ある凛とした麗しい乙女と、清らかで美しく可憐でチャーミングかつエレガントな乙女に支えられながら、兇悪なモンスターを蹴散らし、魔王を封印して、世界に秩序をもたらしたという、英雄譚。


 娯楽作品として、世界中に広まった。


 その後、死霊術師がもたらした新たな混乱、国家間の戦争、亜人たちとの抗争もあり、記録と記憶の大半が風化して、三百年も経過すれば、物語は伝説となり、いまでは史実であったかのように語られている。


「影が薄かっただけで、ほかの勇者さまも頑張っておられたのにねえ」

「はい」

「英雄と区別するためにも、勇者の称号は復活させたいところです」

「では神託という形でなんとか、いえ、こうなったら、勇者という称号をギフトとして授けていただくよう、神々にお願いしてみます」

「ああ、そうですね。それがよいとおもいます」


 巫女たちは神々に祈りをささげ、都合よくやってくれるように願った。





 五百年周期で、次元の異なる二つの世界が重なる。

 濃い世界から薄い世界へ、エネルギーが流れこむ。


 その激流に巻きこまれ、流れついた異世界人が元の世界に帰還するには、世界の重なる期間中(こちらの世界で約1年の間)に、空間と時間軸を定めたうえで、エネルギーの激流に逆らえるだけの強いエネルギーをもって、転移術を行使しなければならない。


 成功させるには、神々の助力が必要不可欠となる。


 神々の助力を得るには、試練を乗り越えて、資格を得る必要がある。

 神々に認めてもらわなければならない。

 できるだけ、多くの神々に。


「神代のダンジョン、オメガを攻略することができれば、認められるはずです」


 少なくとも、ダンジョンマスターとなる資格は得られる。


「オメガを攻略するためには、最低でもS級冒険者ほどの実力が不可欠となります。多くの兇悪なモンスターを倒し、多くのダンジョンを攻略する。世界の秩序の回復に貢献しないかぎり、挑むことすらかなわないダンジョンですから」


 よほどのことがないかぎり、多くの神々の助力をえられる。


 異世界への転移術。個人の魔力でどうにかなるものではない。アルファ王国に召喚された時点で、制限時間はほとんど残っていない。次の周期を待つ必要もある。五百年の時を生きのびるには、さまざまな手段があるものの、ダンジョンマスターとなるのがもっとも確実。ダンジョンマスターとなれば、莫大なエネルギーをため込むことも可能となる。しかし、帰還に必要なエネルギーは、助力する神々の力と数によって変動する。世界の秩序を回復させて、多くの神々に認められないかぎり、五百年あっても難しい。


「帰還の条件を知らなくても、ほとんどの方は、こちらの世界を選ばれる」

「だいたいの望みは叶いますからねえ」


 条件を知ったうえで、あきらめない人物はまずいない。


 巫女たちは想う。

 もうすぐ帰還を果たすであろう人物について。


 十六歳の娘が感じるのは、世界を救ってくれた恩義と、別れの寂しさ。

 先代の巫女もまた、その感傷を共有する。


 未練を振り払うように、先代の巫女が声をかける。


「次は別のパターンでやってみますか?」

「……はい」

「ご注文は?」

「それでは、なぜか全部わかってるパターンでお願いします」

「俺の時代がキターというやつですね。わかりました。まかせてください」


 すべてを知っている、神々の手先。

 巫女が表舞台に立ち、先代の巫女は裏方として蔭から支える。


 もっとも、望まれるならば、舞台に上がることもやぶさかではない。


 異世界人を正しき方向へ導く謎の人物。

 先代の巫女は、そういう役どころを狙っていたりする。





 五百年に一度、文明が滅んできた世界。

 異世界人の協力なくして、侵略者を追い払うことができない世界。


 千年もの間、ひとつの国家が生きのびるなど、奇跡であった。


 神々の計らいにより、世界が徐々に強くなってきた結果ではある。

 しかし、ひとりの異世界人の尽力がなければ、ありえない結果でもあった。


 千年前に流され、巫女たちに保護された異世界人たち。

 彼女たちの協力によって、当時の世界は救われた。


 激しい戦いのなかで生命を落とした者がいた。

 アルファ王国の祖となった者がいた。

 ダンジョンを攻略しつづけた者がいた。

 ドラゴンとともに旅をする者がいた。

 ロマンスに溺れた者もいた。


 ほとんどの異世界人は、この世界で生きることを選んだ。

 彼女だけが、元の世界にもどることを選んだ。


 千年前にあらわれた異世界人、カオリ。


 世界に秩序をとりもどした勇者。

 ダンジョンマスターとなって四百年ほど眠りつづけた、元勇者。

 五百年前、ふたたび世界を救うために奔走した、彼女はいま、こちらの世界で、眠りについている。

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