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帝国の姫君(グレートプリンセス)


 千年の歴史を誇る、アルファ王国。

 その地にて、異世界人を召喚する、儀式の準備が進んでいるという。


 王都に潜入していた各国の諜報員たちは、ただちに情報を本国に伝えた。


 異世界人。

 それは英雄の素質を秘めた存在。

 五百年前、魔王を封印したとされる、英雄のなかの英雄。


 この世界に、ふたたび異世界人がやってくる。


 その一報は、国家の繁栄をねがう王族たちに、驚きと喜びをもって迎えられた。拡大するモンスターの襲撃、新しいダンジョンの誕生に、彼らは頭を悩ませていたのだ。


 ダンジョンとは、財宝やアイテム、モンスターを発生させる、世界の裂け目であると考えられている。魔力と魂を喰らって成長するとされ、最奥にある核を破壊しないかぎり活動をつづける。

 適切に管理できれば富を生み出すものの、ダンジョン内で生まれるモンスターを放置すれば、いずれは外へあふれ出し、周辺地域に大規模な損害をあたえるとされている。

 魔王が支配した暗黒の時代。

 ダンジョンからあふれだすモンスターの群れが、世界を蹂躙したという。


 異世界人が召喚されたなら、モンスターを蹴散らし、管理できないダンジョンを制覇し、貴重な武具やアイテムといった、多くの富をもたらすであろう。

 各国の王族たちは、そのように期待して、吉報であると断じた。


 しかし、一時の興奮が過ぎれば、喜んでばかりもいられない。 


 英雄のなかの英雄。人間社会を守護する、最高戦力。 

 味方であれば頼もしい。

 反面、敵となれば、これほど恐ろしい存在はない。


 人はモンスター以外とも争い、血を流す、愚かな生き物である。


 はたして異世界人は、アルファ王国に属するのであろうか? そうであったとされてはいるが、どこにも属さなかったという伝承も、異種族と手を結んだとの伝承もある。

 もしも敵国に属したら。

 もしも我が国に属したなら。

 己の配下とできたなら。


 国家の繁栄を願う王族たち、己の欲望を満たさんとする者たちは、喜び、恐れ、企み、動きだそうとしていた。





 ベータ帝国を支配する皇帝、バーバリアン三世は、豪奢な玉座で報告をきいた。


「王都に秘蔵されていた歴史書によれば、五百年に一度、儀式が行われております。これまでに二度、今回で三度めの召喚となります」


 アルファ王国が秘匿してきた歴史。

 皇帝直轄の諜報部隊は、他国の機密情報を調べ上げていた。


「世界に広く伝えられております物語では、異世界人とは五百年前、魔王を封印した英雄、ただ一人でありますが、実際は何人もの異世界人が召喚されていたようです」


 数が正確ではない。

 皇帝の指摘に、臆することなく報告はつづく。


「召喚の儀式とは、完全に制御できる代物ではないらしく、世界のどこかに召喚されてしまった異世界人がいた可能性もあるようです」


 兇悪なモンスターを討伐し、魔王を封印し、ダンジョンを制覇する……土地によっては、女性であったとも、いくつもの国家を滅ぼしたとも伝えられていた。人物像が噛みあわない、数多くの伝承が存在する理由が知れた。


「私はもとより、異世界人複数説を支持しておりましたので」


 鼻を鳴らし、皇帝はたずねる。

 我がベータ帝国においても、召喚の儀式は可能であるのか、と。


「さすがに召喚の秘術までは……我らの誇る諜報員でも専門外。かろうじて、神の力によってなされる召喚法、とまでは判明いたしましたが、我々では、再現は不可能かと」


 バーバリアン三世は、野獣のごとき見た目とは裏腹に、短慮ではない。


 召喚が不可というならば、潔く捨てる。

 異世界人を己の陣営に加えるための、次なる方針を考えねばならない。


「ひとつ、気になる記述がございます」


 バーバリアン三世は眉をひそめた。

 動揺を知らぬ男が、気になる、などという言葉を口にしたことに。

 警戒する皇帝に、忠臣は告げた。


「千年前に召喚された異世界人を、五百年前に召喚された異世界人が封印した、と」


 アルファ王国が秘匿していた歴史の真実。

 その意味するところを考えれば、異世界人の扱いについては熟考を要する。





 英雄であれ何であれ、巨大な力をもつことは確かである。


 危険があるからといって殺すなど早計。

 敵に回さず、味方とする。


 召喚の場にあらわれなかった異世界人を見つけだして保護する。しかし、世界のどこに召喚されるのかは不明である。英雄の素質をもつとはいえ、助力がなければ高確率で死ぬであろう。自力で生き残ったとすれば、保護するといっても通じない。反発される可能性も高い。


 アルファ王国で保護されるであろう異世界人を、取り込むことが最優先。

 相手の望むものを与える。

 男であるならば、美しい姫を用意しよう。

 ベータ帝国の支配者である、皇帝の娘を与えるという手段もある。

 王族の娘とは、本来、そういうもの。

 しかし、バーバリアン三世の娘は、その程度の器ではなかった。


 豪奢なマントをひるがえし、バーバリアン三世は廊下を歩く。


 護衛が四人、前後を守護する。

 屈強な男たちの向かう先に、豪奢なドレスを身にまとう者がいた。

 ベータ帝国、第一皇女。

 その立ち姿に、臆する様子は微塵もない。


「お父さま、いえ、陛下」


 智謀にすぐれる王族のひとり。

 バーバリアン三世の娘は、すでに異世界人の情報をつかんでいた。


「わたくしも皇帝の娘。

 帝国繁栄のためならば、この身を捧げる覚悟はできております」


 悲鳴をあげるドレス。

 ふくれあがる胸筋、背筋、三角筋。

 日々棍棒をふりまわし、鍛えあげられた極太の筋線維がそこにはあった。

 巨大な鬼系モンスターに殴られても折れやしない、巨木のような首筋が、モンスターを殴り殺す巨大な腕、巨大な拳が、戦闘力の高さを証明している。


 娘の覚悟にうなずき、一礼する娘をあとにして廊下を歩きながら、バーバリアン三世は熟考する。


 我が娘に、需要はあるだろうか?

 異世界人が男であるのは前提として、好みはどうか?

 需要はあるのか?

 世界の美姫を欲しいままにしたという伝承もある。

 美醜の基準は同じとしても、好みに差があるのも当然といえよう。

 ならば我が娘にも、需要はあるのではないのか……。


「……ねえな」


 ベータ帝国皇帝バーバリアン三世は、我が娘を見張り、けっして異世界人のまえに出ないようにせよ、と配下の者たちに命じた。

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