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人類への復讐者

作者: 窓井来足

人類滅亡や、転生や、そういう要素をぶち込んだ作品です。

よろしくお願いします。

 俺は貴様ら人類に復讐するためにやってきた。

 この時代の流行りでいうなら〈転生〉とかいうやつだろうか? 若者社会に溶け込むために貴様らの文化というものを研究はしているが。

 何せあくまで溶け込むための研究で、本気で楽しんでいる訳ではないんでね。

 データとして予め、貴様らの使う言語や一般常識は〈この身体〉が知っていたからわかるが、まだこの時代特有の文化的なものはよく知らないのだ。

 ま、それでも俺は構わんがね。どうせ人類に未来はないのだから。


 ☆ ☆ ☆


 そこには。

 そこには人間など誰もいなかった。

 いたのは俺だけだ。

 その世界にはお前らの世界よりはるかに多くの草木が多い茂り、鮮やかな花々が咲き乱れていた。

 空は高く、空気は澄み、海は陽の光を受けてまばゆく輝き、はるか遠くの山並みも美しく、そこに舞う鳥たちもはっきりと見えた。

 そんな世界の砂浜に、気がついたら俺はいた。

 俺は髪の毛は伸び放題だったが、かわりにその身には粗末な服しか着ていなかった。

 だが、温暖な気候なため、それでも別段寒くはなかった。

 俺の意識がいつからあったのかは定かではない。

 だが、俺の身体はすでに大人だった。

 なので俺は、もしかしたらこの〈最初の記憶〉の前から、本能だけで野山を駆け回り、獲物を狩り、果実をむさぼり生きていたのではなかったかと考えた。

 その証拠に、俺に手には、貴様らに解りやすくいえば槍のような武器が握られていた。

 そして俺はその武器の使い方も感覚的に知っていた。

 つまり俺は武器を使って戦ったことがある――その時の俺はそう考えた。

 そんな俺の前に。

 一頭の、お前らの時代でいう鹿に似た生き物が現れた。

 それはお前らの時代の鹿よりさらに大型のもので立派な角も生えていた。

 おそらく、目の前にいるこの鹿――実際には何だかわからないが便宜上、鹿と呼ばせてもらうが――は成体で、群れからはぐれて生きているタイプのものなのだろう。

 俺はこの個体以外に同種の動物を見ていないのでわからないが、今になって貴様らの時代の動物と比較して考えるとおそらく雄だったはずだ。

 この巨獣……。

 いったいどれぐらいの力があるのか……。

 と、思った俺だったが、不思議と恐怖心は沸かず、この程度なら勝てると予測できた。

 何故か解らないが、俺は身体能力以上に、自分の戦闘技術に自信があった。

 いや、武器を構えた途端に、自信が沸いてきた――とでも言おうか?

 とにかく、勝ててしまう気がした。

 そして予想通り、俺は槍のような武器を使っていともたやすく鹿を倒した。

 相手の攻撃は直線的とはいえ、非常に速いものだったが、俺は相手が豪快に突進する際の微妙な癖を見抜き、その癖に合わせて自分の身体をわずかにずらして攻撃を回避し。

 さらに相手が無意識に庇っている、おそらくは急所である部分を見抜いて、そこを正確に槍で一突きし、倒すことができたのだ。

 この結果に、俺は自らに戦いの才能があると己惚れた。

 そして俺が持っていた別の道具、お前らにわかりやすく説明すればナイフのようなものを使うと簡単にその動物を解体できた。

 俺は食べやすい大きさに肉を切り分けた後、ナイフと同じように持っていた火を点ける道具を使って焚火を起こし。

 その焚火を使って、鹿の肉を焼いて食べた。

 また、剥いだ皮を加工して服も作った。すでに俺が着ている服はボロボロで、穴だらけだったからだ。

 ほかにもその日に採った植物から紐を作って髪を縛ったりもした。

 そして日が暮れて。

 焚火の横で、猛獣を警戒しつつも、俺は眠ることにした。

 俺はこの世界に仲間を増やし、俺たちの群れを造ることを考えながら眠りについた。


 ☆ ☆ ☆


 こんな生活がしばらく続いたある日。

 俺は森の中に果実を探しに入り込んでいた。

 すると突然、雲行きが怪しくなり、土砂降りの雨が降り注いだ。

 さらに激しい雷も鳴り響き、雷など知らなかった俺は、怪物でも現れたのではないかと驚いた。

 そして雷と豪雨から身を隠す場所を求めた。

 すると、森の中に洞窟を発見した。

 その洞窟の地面や壁は俺の見たことがない、光沢があってひんやりとした質感のもので、周囲とはまるで違う感じだった。

 だが、俺はそんなことに警戒している場合ではない。

 何せ、当時の俺は初めて雷に遭遇して驚いていたのだ。

 それに俺はまだ、自分がいる世界についてほとんど何も知らない。

 妙な質感の岩や土でできた洞窟だってあるかもしれん。

 そう思って、俺はその洞窟に入り込んだ。


 その洞窟の中で。

 俺は俺に似た者たちが死んでいるのを見つけた。

 酷い臭いがして、死体には蛆のようなものが沸いていた。

 俺は混乱した。

 何故なら俺には自分と同じような者たちが存在する記憶などないからだ。

 だが、奥に進むにつれて。俺は記憶を徐々に取り戻し始めた。

 知らなければ良かった、真実の記憶を。


 ☆ ☆ ☆


 俺、あるいは俺達はその洞窟で造られた人造人間だった。

 俺達を造った者達は遥か昔に死んだ。会ったこともない。

 彼らの文明がどうなったかは知らないが、巨大な戦争か、天変地異か、それとも何らかの疫病か……ともかく、そのようなものが発生したらしく、滅んだようだった。

 だが、そんな彼らは、無責任にも。


「いずれ再び、人類が栄えることができる時代が来るだろう」


 として俺たち人造人間を造り、眠りにつかせたのだ。

 だが、目覚めた俺達は絶望した。

 確かに俺たちには彼らの造った狩りのための武器――ビームスピアやレーザーナイフ――が残されていた。そして使い方も俺たちの頭の中にインプットされていた。

 しかし、俺たちの創造主(おや)がどんな文明を持っていたかや、どんな技術を持っていたかは俺たちの頭の中にも、あるいは俺たちが見聞きして理解できるような記憶媒体にも残されていなかった。

 おそらく、あくまでおそらくだが。

 創造主(おや)達は〈自らと同じ過ちを犯さないために〉とでも考えて、生きるのに必要な最低限の知識と道具だけを残したつもりだったのだろう。

 だが、俺達の考えだってそんなに浅はかではない。

 俺達の生まれる前に、どんなに優れた文化があり、そしてそれを造るだけの優れた知性を備えた人達がいて――しかしそれでも彼らは滅んだのだと容易に推測できた。

 そしてそこから。

 彼らは勝手な〈人類存続〉という理想を自らの子孫(おれたち)に押し付け。

 自らは勝手な希望を抱いたまま死んでいったのだとも理解した。

 結果、その現実に耐えられなくなった俺達は。

 仲間同士で殺し合い、集団自殺をすることを選んだ。

 だが、そう。

 俺はたまたま……いや、あるいは俺は他の個体のために狩りをする役割が与えられていたため、殺し合いになれば必然生き残ってしまうのかもしれないが、ともかく。

 俺は生き残ってしまい。

 この洞窟――いや、人造人間工場のおそらくはダストシュートだったであろう部分に落下して、記憶を失ったまま、海岸に流れ着いた……のだろう。

 当然、記憶を失った後のことは俺の推測だが。

 少なくとも、俺が生きているという事は、集団自殺は失敗し、俺だけ生き残ってしまったということだ。


 なんということだ。

 俺は、自分勝手な創造主(ごせんぞさま)というやつらに。

 人類滅亡を背負わされてしまったのだ。


 ☆ ☆ ☆


 こうして、俺は顔も知らなければ名も知らない、無責任な先祖を憎んだ。

 憎悪と憤怒に俺の心は激しく荒ぶり、未来に勝手な理想を妄想していた者たちの能天気さに嫉妬さえした。

 だが、もう復讐しようにもその対象である人類は存在していない。

 そう、俺を除いては――

 なので俺は。

 人類最後の自殺をするために、人類に対して、人類最後の呪いをかけながら断崖絶壁から飛び降りた。

 例え、無限に転生することになろうとも。

 貴様ら人類を絶対に許さず、一人残らず俺と同じ、いや、それ以上の苦しみを思い知らせてやるという意志を魂に深く強烈に刻み付けて――


 ☆ ☆ ☆


「貴様が、俺を生み出したのか――では、俺を生んだ罪を償って、死ね!!」


 俺は気が付いたら、目の前の白衣の男の首を斬り落としていた。

 周囲にも同じように白衣の者達がいて、さらに武装した人間も現れたが。

 俺の身体に内蔵された武器と、俺の〈前世〉の戦いの記憶、そして技術が彼らを物言わぬ肉塊に変えるのにさほど苦労はさせなかった。

 どうやら俺は……

 俺の元いた時代よりはるかに過去に生み出された、アンドロイドに転生したらしい。

 このアンドロイドは、貴様らの時代の言語や常識をインプットされているため、俺はお前らの言葉を理解することも、発することもできるし。

 また、このアンドロイドは表面上は十代後半から二十代前半の女性の姿をしているので、機械的な部分が見える胴体を隠すように服を纏ってしまえば、一般大衆に溶け込めるようだ。

 さらには、このアンドロイドには様々な武器が内蔵されている上に、人間をはるかに凌ぐ身体能力も有しているらしい。

 どうして、このアンドロイドに俺が転生できたのか……。

 おそらく、ここにいる研究員がまっとうな科学ではない、魔術か何かの力を使った結果、未来世界の存在である〈人類最後の人〉であった俺の魂を時間を逆行させて召喚したのだろう。

 何故俺だったのかは……強いて言えば「未来人なら未来の高度な知識を持っている」などと彼らが思ったから、なるべく遠い未来の人を呼び出そうとしたとか、そんなところだろうか?

 だが残念ながら、俺はそんなの持ってはいない。

 いや、それとも。

 このアンドロイドの〈身体〉もまた、生まれたくなかったがために、俺の意志と共鳴したのか……?

 今思えば、この身体を造ったと思われる、俺がさっきの一撃で殺した男に対しての憎悪は、激しいものだったからな。その可能性も高そうだが。

 まあ、どっちだって構うまい。

 せっかく俺の望み通りに、まだ人類がいる時代に生まれ変わったのだ。

 人類を滅ぼす為に活動するとしよう――人類最後の人(ひと)滅亡(しごと)を押し付けるのなら、自分達でやれば良いのだから……


 ☆ ☆ ☆

 

「絶えよ、滅びよ。非常に素晴らしい思想です……が、私にとっては迷惑です」

「人類に滅びを押し付けられて迷惑したのは俺だ。何の問題がある?」

「いえ、大きな問題です。あなたこそ私に人類滅亡を押し付けておいて責任を感じないのですか?」


 俺の前に、俺とは別の未来から転生してきた少女がいる。

 こいつもまた人類最後の奴らしい。

 どうやら俺の、人類が滅亡へと進むように人類全体の流れを操作する計画は成功し、俺が造られる時代が来る前に人類は滅んだらしいのだが。  

 その場合の未来における〈人類最後の人〉がその原因を造った俺に復讐しに来たようだった。

 結局、一度生まれたものは、誰かを犠牲にしなければ生きられない。

 喰うか喰われるかの終わりのない戦い、争いと悲しみの連鎖。

 きっとこいつが俺を殺しても、さらに別の〈人類最後の人〉が〈こいつも含めた人類〉に復讐しに来るだろう。


 戦いの末、彼女の槍に動力源(きゅうしょ)の胸を貫かれた俺は、消えゆく意識の中で思った。

 あのまま野生の世界で一匹、獣を狩って生きていた方がマシだったのかもしれないな……と。

 

この作品を基に、メインとなる部分だけを残して大幅に変えた長編を。

計画しているのですが……さて、どうなるか。

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