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空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
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7話・彼が忍びこんできた?!


 深夜。讃良は寝付かれずにいた。何度も寝返りをうっているうちに、眠気がすっかりとんでしまったようだ。とても寝れそうに無い。と、ため息をつくと、暗闇の部屋の天井に青白い光りの矢が真っ直ぐに伸びていた。カーテンの隙間から差し込んだ、月明かりのせいらしい。今晩は満月なのだろう。


 誰もが寝静まった家の中で起きているのは讃良一人。辺りは静寂すぎて、昼間の様子と違いなんだか怖く思えてきてしまう。


(早く寝てしまおう。余計な事を考えるから寝れなくなるんだわ)


 どうしてなのか。目を閉じれば、あの若者の顔が浮かんできた。昼間の出来事が気になって仕方なかった。真部さんには狸か狐に化かされたんだろうと茶化されてしまったが、あの後、彼はどうしたのだろう? 無事、病院に行けたのだろうか? 


 かなり苦しそうだったけれど。それにしてもあの青紫の着物は彼によく似合っていた。と、思う。着物の合わせから覗いた緑色のさし色が、彼の顔立ちをいっそう際立たせていた。若手の俳優さんなのかもしれない。あの平安時代の衣装がよく似あっていた。



「あ~あ。あの人の名前ぐらい聞いておけば良かったかなぁ?」

「起きてるのか?」

「へっ? 今のなに? 幻覚? 誰かの声が聞えたような?」



 讃良はベットから跳ね起きた。自分の呟きに誰かが応えた。それも耳のすぐ側で。この部屋には自分しかいないはずなのに。この部屋に誰かがいた。


「うわあ。嫌だいやだ。なにこれ? わたしどこかおかしくなった?」


 布団を頭から被ろうと引っ張ったとき、何かに引っかかったようにビクともしなかった。それどころか重みさえ感じられる。


「いいや。そなたは病んでなどいない。そなたは余の声を聞いただけだ」


 足先をひんやりとしたものが触れたと思ったら、讃良は悲鳴を上げていた。


「きゃああ!」

「大声を立てるな。人が来るではないか。結界を張ってて良かった」


 讃良の叫び声に驚いたのか、離れた所に男が転がっていた。


(強盗……! 部屋に忍び込んでいた? いつから? )


 男が起き上がって、警戒する讃良に近付いてくる。



「そなたは何者なのだ」

「あなたこそ誰よ。他人の部屋に勝手に忍び込んで。警察呼ぶわよ」

「これはなんと気が強い。あれと似ているだけある」



 相手の声音に聞き覚えがあるような気がすると、覚えのある香の匂いが鼻にふれ、讃良はまさかと唇を戦慄(わなな)かせた。夜中とはいえ、讃良は相手に向き合って驚いた。見覚えのある平安時代の衣装らしきものが見えた。



「あなた… ひょっとして昼間の?」

「覚えていたか。気がつかれぬうちに処理しようと思ったが…」

「処理ってなにを?」



 相手から物騒な言葉を聞いた気がして、讃良は不安になった。


「なんでもない。そなたには関係ないことだ」

「失礼なひとね。さっきから何なの? わたしの部屋に勝手に忍びこんで来て。それにここがどうしてわたしの家だと分かったの?」


 男の言葉に、苛ついた讃良は声を荒げた。男は讃良の勢いに押し黙った。


「ちょっとなんで黙ってるのよ。名前くらい名乗りなさいよ」

「…友尊(ともたか)だ」


 渋々男は名乗った。讃良は昼間のことを思い出し聞いた。



「わたしは讃良。そういえばあなた身体は大丈夫なの?」

「あれはほんのかすり傷だ。問題ない」

「一体どこから来たの? この部屋にいつからいたわけ?」



 讃良の部屋は二階にある。讃良の部屋の窓は閉めてあったし、男が侵入するとしたら、一階のどこかの部屋の窓が開いていて、そこから侵入したのかもと思ったのだが、友尊の話は讃良の想像をはるかに超えていた。



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