60話・お父さんは過保護
秋から冬へと季節が巡り、冬が去って春へと季節がかわり、桜が散って葉桜となった頃、讃良は高校二年生なっていた。讃良の家でも変化があった。食卓を囲む人数がひとり増えた。讃良の隣の席には自称大学二年生の友尊がつき、讃良の向かいの席には母が、友尊の向かいには出張から帰って来たことになっている父が座る。父が帰って来てから会話が増え、さらに食卓が明るくなった。食卓は一人よりも二人、二人よりも三人、三人よりも四人がいいと思う。
最近の鵜野家は、四人で食卓を囲むのが当たり前のようになっていた。
「母さん。お醤油とってくれないか?」
「あら。あなた。少し塩分は控えめになさったら? おひたしがそれでは醤油付けになってしまうわ」
母は小松菜のおひたしに、父が醤油をかけすぎてるのを見咎める。父はけっこう味が濃いほうが好みだ。なんにでも醤油をかけるので、母は自分の作った料理に、ケチをつけられたように感じられて、あまりいい気がしないらしい。
昨晩も肉じゃがにもドバドバ醤油をかけて、母に嫌がられていたのに、今朝も懲りずにどっぷりかけている。
「母さんの料理は美味いよなぁ」
と、言うものの、母は食卓についてから、何度目かのため息をついている。讃良は友尊と顔を見合わせ、失笑を漏らした。
「友尊。今日は帰りは何時くらいになる?」
「そうだな。審議が何事も無く終われば、夕食までには帰って来れると思う。讃良の方は?」
「わたしは試験休み期間だから、家にいるけど」
「じゃあ、一緒に向こうに行くか?」
「えっ? いいの?」
「あらあら二人とも新婚さんみたいね。いいわね。初々しいって」
母がふたりのやり取りを見ていて、茶々を入れる。父は無愛想に却下した。
「駄目だ。讃良は母さんと家にいなさい」
「え~。どうして?」
「どうしてもだ。いいね? 友尊くん」
「……はい」
父は友尊に念押しをした。あちらの世界では友尊に仕えている立場の父も、こちらの世界に来ると、叔父風を吹かせるようになった。
友尊と讃良がお互いの思いを伝えあってから、父は頻繁に家に帰って来るようになり、午後八時になると、友尊をあちらの世界に帰るよう促がすようになった。婚姻前の男女が一つ屋根の下で寝ているのは不謹慎だと言うのだ。ふたりにとっては、大きな障害が立ちはだかっている状態だ。
母は讃良の気持ちを知ってるので、二人を容認してくれている。
「まあ。あなたったら横暴だわ。私があなたと出会ったのは十六の時でしたのに」
「母さんっ」
「それに初た………… も………… むが……」
「な。急に何を言い出すんだ。母さん」
父が慌てて母の口を押さえにかかる。母はいやいやをして抗った。
「お父さん。ふたりは向こうの世界では、認められている仲じゃないの? どうして邪魔をするの?」
「まだ男女交際なんて讃良には早い。高校生なのに男女交際に現を抜かして、学業がおろそかになるようでは困る。讃良が大学を出るまでは駄目だ」
「お父さん。それはいつの頃の話? 讃良をお嫁に出すのが惜しいからって留めてたら、行かず後家になっちゃうわよ。花の命は短いんだから」
「母さんは淋しくないのか? 讃良が嫁に行ったら二人きりになってしまうんだぞ」
「いいじゃない? お父さん。あなたには私がいるんだから」
「母さん…………」
いい年した父親が母親に慰められている姿を見て、讃良は呆れた。母が目配せしてくる。




