55話・そなたと共に生きていきたいのだ
「でも、もしこの場に鵜野がいたら……? わたしと鵜野、見分けがつくと思う? あなたはどちらを選んだ?」
「ずい分と私は信用されてないのだな。見分けくらいつくと言ってるだろう。例え、そなたが讃良と言う名の別人だったとしても、私はそなたを見つけられる」
げんに例の事件では、彼女を見て讃良だと思ったくらいだ。それだけ私はそなたに傾倒してるのだがな。と、友尊はため息をついた。その様子を見ていた讃良がだってと、言う。
「不安なんだもの。こうして今あなたといても、あなたはわたしを通して、鵜野を見てるかもしれないって思うから」
「安心しろ。私はそなたしか見てない。過去も今もこれからも。私の気持ちは揺るがない」
「友尊」
「逆にそなたが心配だ。向こうの世界には垢抜けた男が沢山いるようだからな。そなたが目移りしそうで」
「わたしはそんなに惚れっぽくないわ」
「どうかな?」
「もお」
友尊にからかわれて、一歩踏み出そうとした讃良は前のめりに倒れかけて、彼の胸の中に落ち着いた。
「きゃあっ」
「ほおら、言ってる側から」
「友尊がからかうからでしょ」
両腕をつかまれ、讃良は照れくさくて、わざと突き放すように言えば、肩のあたりに友尊が顔を寄せてくる。
「だから目が離せない。ふたりで燕の巣を見つけた時のことを覚えているか?」
「覚えてるわ。あの時、友尊が翼がどうのと、難しいことを言い出したときよね? わたしは意味は分からなかったけど肯いたら、友尊が恥かしそうにしていたのは覚えてるわ」
「そなたは覚えてないのだな。私にとっては、人生初の告白だったというのに」
「ええっ、いつ? わたし友尊に告白されていたの?」
讃良の反応に、友尊は笑った。
「共に燕の巣をみつけた時だ。燕は番いで子育てをする。そなたは私の大事な片翼だ。大人になったら、そなたと妹背の契りを結ぼうと約束したではないか?」
「ごめんなさい。よく覚えてなくて…… 燕の巣を見つけたことは覚えてるんだけど、そんなこと言ってた?」
「どうも余の伝え方が間違っていたようだ。単刀直入に伝えておけば良かった…… 恰好つけた余の立場がないではないか?」
「ごめんなさい」
友尊はがっかりした様子を見せたが、讃良を見つめ頬を両手で挟み込むと、愛おしそうに顔を寄せた。
「私はそなたが好きだ。そなたと共に生きていきたいのだ」
「友尊……」
重なり合ったふたりの背後から声が上がり、ふたりは即座に離れた。
「聖上。そろそろお時間になります」
不破が迎えに来た。友尊が舌打ちして、空気の読めない奴め。と、呟いたのを聞いて讃良は可笑しくなった。このあと友尊は執務があって、宮城に戻らなくてはならない。友尊は共に帰ろうと振り返ったが、讃良は先に帰っていて。と、伝えた。
「わたしもう少しここにいるわ」
「そうか…… では後で迎えを寄越そう」
友尊は、讃良の気持ちを組んでこの場に残し、不破を従え帰っていく。讃良の警護の為に幾人かの警護の兵と、世話をする為の女房は残ったが、讃良は人払いを命じた。




