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空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
55/61

55話・そなたと共に生きていきたいのだ


「でも、もしこの場に鵜野がいたら……? わたしと鵜野、見分けがつくと思う? あなたはどちらを選んだ?」 

「ずい分と私は信用されてないのだな。見分けくらいつくと言ってるだろう。例え、そなたが讃良と言う名の別人だったとしても、私はそなたを見つけられる」



 げんに例の事件では、彼女を見て讃良だと思ったくらいだ。それだけ私はそなたに傾倒してるのだがな。と、友尊はため息をついた。その様子を見ていた讃良がだってと、言う。



「不安なんだもの。こうして今あなたといても、あなたはわたしを通して、鵜野を見てるかもしれないって思うから」

「安心しろ。私はそなたしか見てない。過去も今もこれからも。私の気持ちは揺るがない」

「友尊」

「逆にそなたが心配だ。向こうの世界には垢抜けた男が沢山いるようだからな。そなたが目移りしそうで」

「わたしはそんなに惚れっぽくないわ」

「どうかな?」

「もお」



 友尊にからかわれて、一歩踏み出そうとした讃良は前のめりに倒れかけて、彼の胸の中に落ち着いた。



「きゃあっ」

「ほおら、言ってる側から」

「友尊がからかうからでしょ」



 両腕をつかまれ、讃良は照れくさくて、わざと突き放すように言えば、肩のあたりに友尊が顔を寄せてくる。



「だから目が離せない。ふたりで燕の巣を見つけた時のことを覚えているか?」

「覚えてるわ。あの時、友尊が翼がどうのと、難しいことを言い出したときよね? わたしは意味は分からなかったけど肯いたら、友尊が恥かしそうにしていたのは覚えてるわ」

「そなたは覚えてないのだな。私にとっては、人生初の告白だったというのに」

「ええっ、いつ? わたし友尊に告白されていたの?」



 讃良の反応に、友尊は笑った。



「共に燕の巣をみつけた時だ。燕は(つが)いで子育てをする。そなたは私の大事な片翼だ。大人になったら、そなたと妹背の契りを結ぼうと約束したではないか?」

「ごめんなさい。よく覚えてなくて…… 燕の巣を見つけたことは覚えてるんだけど、そんなこと言ってた?」

「どうも余の伝え方が間違っていたようだ。単刀直入に伝えておけば良かった…… 恰好つけた余の立場がないではないか?」

「ごめんなさい」



 友尊はがっかりした様子を見せたが、讃良を見つめ頬を両手で挟み込むと、愛おしそうに顔を寄せた。



「私はそなたが好きだ。そなたと共に生きていきたいのだ」

「友尊……」


 重なり合ったふたりの背後から声が上がり、ふたりは即座に離れた。


「聖上。そろそろお時間になります」


 不破が迎えに来た。友尊が舌打ちして、空気の読めない奴め。と、呟いたのを聞いて讃良は可笑しくなった。このあと友尊は執務があって、宮城(みやしろ)に戻らなくてはならない。友尊は共に帰ろうと振り返ったが、讃良は先に帰っていて。と、伝えた。


「わたしもう少しここにいるわ」

「そうか…… では後で迎えを寄越そう」


 友尊は、讃良の気持ちを組んでこの場に残し、不破を従え帰っていく。讃良の警護の為に幾人かの警護の兵と、世話をする為の女房は残ったが、讃良は人払いを命じた。


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