51話・鵜野が亡くなったのは父のせい?
「お父さん? お父さんなの?」
「そうだ。こんな格好をしてるから分からないか?」
「どうしてそんな格好してるの? お父さんはこちらの世界の人だったの?」
向こうの世界では見慣れない父親の姿に、讃良は別人のようだと困惑する。
「阿倍の御行? いや……」
真知はその場に控え、上座から友尊は腰を浮かしかける。彼の知る男はいつも覆面をしていた。顔に醜い痣があるからだと本人は周りの者に言っていたが、その男の顔には傷ひとつなく、鋭い目つきが印象的な男は、友尊の知るもう一人の男によく似ていた。
「大天の叔父上か?」
先代の帝に後継と見なされていた時期もあったのに、反逆の意思ありと見られ、吉野へと隠遁に追い込まれた元将軍の叔父がそこにいた。
「叔父上が讃良の父? それはどういうことです?」
「聖上。すべて私からお話致します」
その場に膝をつき、頭を垂れた叔父は下心などないというように、恭順の意思を表すように、臣下の礼をとった。
「讃良と鵜野は私の娘です。ふたりは双子でした」
「叔父上、ここは評定の場ではありますが、人払いしてあります。ここには他に誰も見知った者はおりません。今までのように、どうか余のことは甥としてお話して下さいますように」
「感謝する。聖上。私は神器の鏡の力を用いて、あの世界とこちらの世界を行き来してました。理由はあちらに残して来た妻と子に会うためです」
「それで真知は頑なに叔父上を庇おうとした…… 真知はやはりあなたと主従の契約を結んでいたのですね?」
「先帝が…… 兄上が、私を後継者と認めていた時に神器と契約した。真知の力を用いて別の世界を覗いた時に、讃良の母を見初め、こちらの世界とあちらの世界が繋がるように仕向けた」
その話の先をなんとなく友尊は察した。その結果、叔父は吉野に追われ、友尊が天位につくことになったのは。
「父上は、叔父上と叔母上の仲を反対してたのではないですか? 向こうの世界の女と別れなければ、後継者から剥奪するとでも言われたのでしょう? 叔父上はそれは出来ないと断り、吉野に隠遁させられた」
「その通りだ。いつから聖上は気がつかれた?」
あちらの世界へと繋がる鬼道の穴の存在に、いつ気がついたのだ。と、叔父に問われ、友尊は言った。
「想像に過ぎませんでしたが、讃良と鵜野姫がそっくりなことで、もしかしたらと思ったのです。余が鬼道の道を手繰ったときに同族の気配が感じ取れたので」
「さすがは聖上。兄が自慢していただけある。私の気配が感じ取れたとは」
この国の英雄と目されたひとに褒められて、友尊は気を良くした。
「叔父上に余は憧れていました。武勇に優れ、臣下たちの信頼も厚い叔父上が、天位につかなかったのは、余にとって不思議な事でした。ひょっとしてなにか複雑な事情があるのではと思っていたのです」
「私は兄上の反対を受けながらも、妻のもとに通うことを止めなかった。そのことを知った兄の怒りを買ってしまったのだよ。他の神器は兄に返還したが、真知はわたしのもとに自らの意思で残る事にした。そのことが尚更兄の不審を招き、その結果、吉野へと行く事になった」
行く事になった。と、いう発言に、友尊は眉を顰めた。
「叔父上は自ら吉野行きを望んだのですね? 鵜野の為ですか?」
「君にはなにもかもお見通しのようだ。鵜野を亡くした私は、兄に娘の菩提を弔いたいから吉野に行かせて欲しいと頼み込んだ」
叔父の苦悶の表情に、友尊ははっとした。
「鵜野が亡くなったのは…… 父が?」
「いいや。私が悪いんだ。あの子をひとり残して遠征に出かけてしまった。どんなに寂しく悲しかったことか」
「お父さん」




