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空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
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49話・火傷の痕


「友尊さま。お早いお帰りで。讃良さまは如何なされました? 矢上どのが興奮したご様子でいらっしゃいましたが?」

「あ。忘れていた。そっちもあったか」



 友尊は、讃良が鬼道との兼ね合いで、強制的に元の世界に戻されたのだが、事情をよく知らない矢上から見れば、目の前で讃良が消えて大変驚いたことだろう。しかも讃良が去ってすぐに友尊が追いかけたので、そのことについて彼女には説明をしていない。


「これはどういうことなのか、わたくしにもご説明頂けますよね?」


 不破も矢上の話を聞いただけでは、半信半疑だったようで、真摯な瞳が友尊に讃良の素性を教えて欲しいと訴えていた。



「聖上─────」

「ああ。噂をしてたら丁度よくいらっしゃいましたね」

「聖上はお戻りでしょうか?」

「矢上どの。今お戻りになられた所ですよ」



 息を切らして矢上が現れる。矢上は友尊の乳母だった人で、実の母のように気心は知れている。讃良を側に置きたいと願った時から、(きさき)が住まうことになる館を任せて来た。



「白湯をどうぞ」

「ありがとう。あの。聖上。讃良さまとは一体どのようなお方なのでしょう? あのお方はいまどちらにおいでなのですか?」



 不破に白湯をすすめられ、喉をうるおして人心地ついた矢上は訊ねた。


「讃良はこの世界とは別の世界に住む娘だ。余が見初めてこの世界に連れて来たが、どうやらへそを曲げて、月の向こう側の世界へ帰ってしまったらしい」


 真相に嘘を織り交ぜて言うと、矢上は信じたようだった。



「まあ。やはりそうではないかと思ったのです。この国の者にしては品がありましたもの。ねぇ。不破どの。どうしましょう。讃良さまは月の住人だったのですね。もう月に戻られてしまったら二度とお会いできないのでしょうか? 困りましたわ」


 矢上に話を振られた不破は憫笑(びんしょう)し、友尊に嫌味を言う。



「聖上は女人の気持ちの機微(きび)(うと)いですからね。おおかた讃良さまの嫌がることをなさったのでしょう。早く謝って戻って来て頂いたら如何ですか?」

「そうですわ。聖上。讃良さまを泣かせるようなことをしてはいけませんよ。若いお嬢さんは気が強く見えても、けっこう繊細なんですから。あ…… もしかしたらあれでしょうか?」

「あれとはなんだ?」

「讃良さまには足には火傷の痕がありましたでしょう? それを友尊さま、勝手にご覧になりました?」

「いや。特に見てもないが? それが何か?」

「聖上は慌ててらしたからお気づきになられなかったのでしょう。若いお嬢さんは、自分の身体に傷があったらものすごく気にするものです。ましてそれを好きな相手に、見せるなんて堪えられないはずですわ」

「火傷のあと?」



 矢上の話を聞いていた不破は、奇遇ですね。と、首を傾げた。


「確か讃良さまによく似ておいでの、鵜野姫も足に焼けどの痕がありましたよ」

「火傷……」


 友尊はある事実に思い当たり、頭の中で警鐘が鳴り響いた。




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