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空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
41/61

41話・わたし達以外に誰かいるの?

 上から見下ろしている友尊が、讃良の手をとって、手の甲に口付ける。こちらを見つめる視線が痛いくらいだ。胸がどきどきしておさまらない。


「讃良……」


 この先どうなるのか分からない展開に、そわそわしながらも目を閉じかけた讃良の耳に、小声で「おい。押すなよ」と、いう声がどこからか聞こえて来た。「ちょっと静かに」という声もした。


(気のせい? まさかこの部屋にわたし達以外に誰かいるの?) 


 友尊を伺えば、ぷるぷると震えた様子の友尊が、起き上がっていた。拳を握り締めたまま、部屋の隅に置いてあった几帳に近付く。


「そこで何をしている。出て来いっ」


 声音は怒りを抑えているように感じられた。讃良が成り行きを見守っている先で、几帳の影から二、三人の男女が出てきて驚いた。白い直衣を着た男性に、小豆色の(から)(きぬ)に桂を着た女官と思われる年輩の女性、直衣姿の凛々しい容姿をしているが、気難しそうな男がぞろぞろと出てきた。


「まさか今までのこと全て見られてたの? いやぁ」


 恥かしさのあまりその場にしゃがみこんだ讃良に、哀れな目線をくれた友尊は、覗き見していた男女を睨み付けた。


「そなた達はなんということをしてくれたのだ」

「いや。その…… 聖上…… 患者の具合が気になりまして」


 と、言うのは讃良がこの国に着て、診察してもらった医者なのだろう。白い直衣を来た中年の男性が、ご容赦を。と、謝罪する。


「申し訳ありません。私たちはただ…… その後如何かと…… 決して、聖上のお気に障る様なことをしようとしたのではなくて、そちらのお方の様子が気になりまして……」


 年輩の女性も、讃良の具合がどうか気になったのだと、伝えようとしていた。


「お二人とも、なぜそのように(かしこ)まるのですか? 我らはただ、聖上が女人を連れ帰ったということで、心配していただけじゃないですか」

「そなたもそのなかにいたとは……! 不破」


 男女が気まずそうに顔を見合わせる中で、平然とした様子で進み出た者がいて、友尊は頭を抱えていた。


「聖上がいけないんですよ。今まで女人を遠ざけておしまいになるから、女人には興味がないのではないかと皆が思い始めた矢先に、女人をお連れになったんですからね。どんなお相手なのか気になりますよ」

「悪いのは余か……?」


 自分達の情事を目撃しようとしていた人たちを前に、不機嫌になる友尊に、讃良は居たたまれなくなった。この場で自分の思いを、露にするのは子供じみているようにも思えたが、皆から興味本位の目で見られているのは耐え難かった。



「もう嫌。わたし帰る。お願い。わたしを家に帰して。友尊」

「讃良。済まぬ。悪かった」

「ううん。友尊は全然悪くないから。友尊のいる場所が知れてよかった」



 友尊がこの世界に連れて来たことを、後悔するように謝罪する。讃良は友尊に対して怒ってはいなかった。友尊の世界にちょっとでも触れたことが嬉しかった。ただふたりきりの所を、知らない人たちに覗かれて気分を害しただけだ。

 苛立ちを秘めた瞳で、讃良の気持ちを汲んだ友尊は仕方ないと呟いた。それを見ていた中年女性が慌てて進み出た。




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