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空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
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4話・夢は繰り返す


「真知。ありがとう」


 借りたノートを真知に返し、帰り仕度をしていると、真知も鞄を手に取る。



「讃良。今日は金曜日で部活ない日でしょ? 一緒に帰ろう」

「あれ? 真知。生徒会はいいの?」

「今日は書記の受け持ちの仕事ないから平気」



 学年一の秀才と誉れの高い真知は、一年生ながら生徒会で書記を任されていた。肩までの長さに切りそろえた髪が揺れる。讃良はやや茶色がかった地毛がくせ毛なので、真知の黒髪でストレートな髪質が羨ましく思う。



「真知の髪、さらさらでいいなぁ」

「何言ってんの。讃良は可愛い顔していて皆が妹にしたい女の子、ナンバーワンなのに」

「なに。それ? わたしは特別可愛くないのは自分でもよく分かってるし、そんなこと言ってくれるのは真知だけだよ」



 讃良は両親に似ていない容姿を嫌っていた。顔立ちが派手なせいで、外国人とのハーフなのではないかと邪推されることも多く、いらぬ憶測を招く原因でもあった。


「真知のような美人だったら良かった…」

「本当にそう思ってるの?」


 真知が探るような目を向けてくる。


「讃良。家で何かあった?」


 真知は勘が鋭い。小学校の時からそうだ。父親が讃良の母の主治医で、幼い時からの付き合いもあるせいか、讃良が家庭で複雑な思いを抱いてる事を察しているらしい。


「何も…」


 誤魔化そうとする讃良にそれ以上、追及するのは好ましくないと思ったのだろう。真知は話題を変えてくる。



「おばさまは体の具合はどう?」

「今は調子がいいみたい。発作も起こしてない」

「そう。良かった」



 讃良の母は身体の弱い人で心労がたまって寝付くことも多く、讃良は家政婦の真部(まなべ)さんに面倒を見てもらって育ってきた。


「讃良。あなた何か心配事でもあるんじゃないの? 夜寝れてる?」


 真知の声は気遣いに満ちていた。讃良はそんな深刻な問題じゃないと、首を振った。



「大丈夫。ただ変な夢を見てね…」

「変な夢って?」

「ここのところ毎晩、くり返し見る夢なんだけど、自分が小学一年生くらいの時の夢で、内容が同じ夢なの」



 讃良がウンザリしたように言うと、真知は興味が惹かれたように言った。



「同じ夢をくり返し見るのは、意味があることらしいわよ。何か深層心理に隠されている 事が表面化する場合に見るらしいわ。同じ人って亡くなった人が出てくるとか?」

「亡くなった人ではないけど… ひとりの女の子よ」

「知ってる子?」

「うん。わたしが小学生の時、よく遊んでいた子。小学五年生になった辺りから遊ばなくなって今まで忘れてたんだけど…」

「小学五年っていったら、私がこっちに越してきた頃だよね?」

「たぶん真知とはすれ違いになって紹介してないような気がするよ。真知に出会ってからはその子と疎遠になってたしね。今ごろどうしてるのかなぁ? あの子」

「なんて名前?」

「えっとなんだっけ? 思い出せない… 日本人形みたいに可愛い子だったんだけど」



 讃良は脳裏に引っかかった、女の子の情報を引き出そうと試みたが無理だった。ずいぶんと会ってなかった分、記憶も風化したようで女の子の名前さえ思い出せない。



「讃良が覚えてないんじゃ、そんなに仲の良い子でもなかったのかしら?」

「そんなことないよ。毎日、遊んでいたもの」

「そんなにむきになって言わなくても……」



 真知に苦笑され、讃良は自分の反応に驚いた。



「あ。ごめん」

「いいよ。私も知らなかったとはいえ、無神経なこと言ったし」

「夢を見るまでその子のこと忘れていたのに、わたしって勝手だね」



 讃良が夢の住人に対して罪悪感を覚えていると、真知が言った。



「でもその子、讃良に何か訴えたいことがあるのかもよ」

「そうなのかなぁ? 今更、何か頼まれても困るけど」

「無視したら恨まれて出て来るかもよ。讃良」



 真知がふざけて俯き、後ろ髪を前顔に垂らした。両手を柳のようにかたどらせる。


「うらめしや~って」

「うわあ。嫌だ。真知。例の恐怖映画見すぎだから。怖い~」


 怖がる讃良に、真知の悪戯は続き、きゃあ。という叫び声が、夕焼け色に染まった通学路の先で容赦なく弾けた。



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