32話・わたしが聞きたいのは、あなたが真知をどう思ってるのかってこと
「友尊…… いつからそこにいたの?」
「いま帰ってきたところだ。私に会えなくて寂しかったのか?」
友尊は茶化すような仕草で、讃良の顔を覗きこむようにして、ベッドに腰かけていた。
「さ・淋しくなんて…… ないから…… それより出てってよっ」
讃良は泣き顔をそれ以上、見られたくなくてだき枕を振り回す。よせ。と言いながら、友尊は直撃を避けた。
「讃良。何を怒っている?」
「怒ってなんかない! 部屋から出て行ってっ」
「おいおい。着がえくらいさせ……」
「自分の部屋ですればいいでしょう?」
讃良は、鬼道で空いた穴の側に置いてあった着がえを友尊に投げ付け、追い払った。友尊が出て行くと、悔しさのあまり布団の中でひとしきり泣いた。それからいつの間にか泣きつかれて寝てしまったようで、母が顔を覗かせた。
窓から西日が指している。夕焼け色に部屋の中が染まっていた。
「讃良ちゃん。もうじきお夕食の時間になるけどどうする? 食べれそう?」
「……いらない」
「そう。でも何も食べないのは良くないわ。お粥ならどう?」
讃良はとても食べる気にはならなかったが、母を心配させているのも分かっていたので、肯いてみせた。その後の友尊の様子が気になって母に訊ねる。
「友尊は?」
「友尊さんには讃良のこと話しておいたわ。かなり心配してたわよ。後で友尊さん寄こすわね」
「お母さん」
「友尊さんの彼女の件気になってるんでしょ? 友尊さんに直接聞いたほうがいいわ」
母はふたりでよく話し合いなさい。と、言って部屋を出て行った。母は何となく察していた様だ。讃良が倒れた直接の原因は友尊にあると気がついていて、そのことについて二人で話しあえといわれたが、だからと言って自分で真相を聞く勇気もない。
真知と付き合っていると、もし友尊から告げられたなら、それを受け止めていられる状態でいれるか自信もない讃良は、大きくため息をついた。
「……どうしよう」
その機会はすぐに現れた。
「入るぞ」
軽いノックとともに、お盆を手にした友尊が現れた。お盆の上にはお粥が乗っている。ベッド横の勉強机の上に、お盆を置くと、ベッドの上に上半身を起こしたままの讃良を、気遣い顔を覗きこんできた。
「具合はどうだ?」
「なんでもない」
「なんでもないわけないだろう? 私に何か言いたいことがあるのだろう? 叔母上から聞いた」
「お母さんから? なんて?」
「讃良から話があるから聞いてやって欲しいと言われた」
母にお膳立てされては、話さないわけには行かなくなってしまった。讃良は逃げ場を失った心境で口を開いた。
「友尊は…… どう思っているの? 真知のこと」
「真知どの? 讃良の親友ではないのか? 違ったか?」
お前は何を言いたいのだというような目を、友尊が向けてくる。
「真知は親友だけど…… 違うの。わたしが聞きたいのは、あなたが真知をどう思ってるのかってこと。つまり女性として特別に好きなのかどうか……」
「ははん。焼きもちを焼いてるのか? 従妹どのは」
「友尊。茶化さないでっ」
友尊がにやついて讃良を見る。苛立つ讃良は声を荒げた。
「真知のこと好きなの? どうなの?」
責めてかかる讃良に、友尊は大きくため息をついた。
「まあ。とりあえず食え。話はそれからだ」
ベッドに腰かけると、お粥の入った椀を持ち、レンゲですくったお粥を、讃良の目の前に差し出した。
「ちゃんと食べないと頭が回らないぞ。だからすぐ短慮になる」
「自分で食べれるわよ」
自分の行動を咎められふくれると、友尊が照れくさそうに言った。
「遠慮するな。それに余がやってみたかったのだ。叔母上が言っていたが、惚れた者同士がこのように、相手が具合が悪くなると、世話を焼くのだろう?」
「え……? もう一度言ってくれる?」
友尊が母に何やらたきつけられて、こちらの世界では惚れている者同士が介抱しあうと、勘違いしてるようだが、自分の勘違いだろうか? 讃良は友尊を凝視した。自分に惚れていると言わなかっただろうか?
「もう言わぬ。さあ。食べろ」
照れ隠しなのか、友尊がレンゲを突き出してきた。
「お前は痩せすぎだ。これ以上ほそるな」
答える代わりに、讃良はメレンゲを頬張った。友尊は嬉しそうに微笑んだ。




