27話・まさか二人が?
友尊は逆に女性も男性同様、勉学に触れる機会を増やすべきと考えて、そのように政策も変えてきたが、国民全員に行き渡るまで、まだまだ年月がかかりそうだ。
「御代のことは心配するな。車持の皇子に速やかに払わせる。それまで待ってくれるか? 必ず二、三日後には皆の手元に賃金が渡るよう取りはかろう。約束する」
「ありがとうございます。宜しくお願い致します」
友尊の頼もしい言葉に、石工たちは頭を下げて帰っていった。
「あなたさまは、また厄介な仕事を増やされて」
不破が同情したように言う。車持の皇子は大叔母にあたる女性が、先々代の帝の目に留まり寵妃になったことで、下級役人だった祖父が地位を引き上げられて、他の大貴族とも肩を並べられる位の家柄になった。
車持の皇子の父はやり手だが、溺愛して育てた息子は甘やかされて育った事で、政治には興味がなく、いつも女性の尻ばかり追い回していると聞く。
「仕方ないだろう。これがわたしの性分だ。でも先祖の聖帝にはまだまだ及ばないぞ。聖帝は、国の民が貧しくて食事すら満足に食べてないと知って、皆が税金を支払える様になるまで税金を免除されたりしたからな」
「あなたさまの御世ではその政策は無理ですね。被害対策の備蓄や、海外からの防御の為の資金が必要ですから」
「もちろんだ」
不破に言われるまでもなく、友尊には税金免除の対策は、取れない世の中になってきているのはよく分かっていた。
「しかしどちらの姫君なのだろうな? 蓬莱の玉の枝を所望した姫というのは」
「気になるのですか?」
「いけないか?」
「いけなくはありませんけれど、なんだか訳ありな感じが致します。深追いはなさいませんように。ではわたくしはこれで失礼致します。お休みなさいませ」
「ああ」
仕事に忙殺されていた友尊は、気持ちは拝殿へと向かっていたが、石工たちのこともあり、今夜は館の褥で寝ることにした。讃良のもとへは明日の朝一番に向かえばいいだろうと思って。それだけ疲れていた。
(とうとう帰って来なかった……)
毎朝寝起きの悪い讃良を、友尊が起こしてくれていた。それなのに今朝は帰って来なかった。母は昨晩遅く友尊が帰ってきて、ここ二、三日は帰りが遅くなると伝えていたらしい。いつの間に帰って来たのか分からないが、鬼道の穴は讃良の部屋に繋がってるのだし、帰って来たなら、一言声ぐらいかけてくれてもいいじゃないかと思う。
讃良がふて腐れて朝食をとっていると、母は相変わらず暢気に、友尊さんは今朝は早く出かけたようね。と、友尊を擁護でもしてるような発言をして、讃良の心がささくれ立った。
友尊とは胸元にキスしてしまった日以来、一緒にいる時間が減った。友尊は向こうに残してきた仕事が溜まっていると言い、母には大学での同好会の集まりだとか、大学祭の準備だとかの理由で家をあけていることが増えた。
それでも毎朝、朝食の席にだけは顔を出してくれていたので、讃良も気が緩んでいたのかもしれない。朝帰って来ないなんて出会った日から一度もなかったことだ。
(何かあったのかも?)
憂鬱な気持ちで学校の校門まで来た讃良は、ポンッと肩を叩かれて振り返った。
「讃良。おはよっ」
「貴子。おはよう」
「どうしたの? さっきから呼んでるのに、全然気がつかないし」
学校指定のバックのほかに、スポーツバックを肩に引っさげた貴子が、讃良の顔を覗きこんでくる。
「そうだったんだ。ごめん。考え事してて」
校門を並んで歩き出すと、貴子が思いがけない話をふってきた。
「ねぇ、昨日の話だけど、やっぱり真知の彼氏だよね?」
「えっ……?」
「ほら昼休み時間に話したじゃん。カッコいい人と真知が歩いてたって」
「ああ。貴子のイケメンファイル№0037?」
「そうそうその人。バスケ部でも真知の彼氏が話題になってるんだ。あたしら部活で帰りが遅いから、校門前で真知の帰りを待ってる人を目撃してさ。それがあの人だったの。驚いたよ。真知は美人だし彼氏がいないのが不思議なくらいだけど、どうして彼氏の存在をあたしにまで隠しちゃうかね」
「……それ本当の話なの?」
「あれ? 讃良知らなかった?」
讃良なら真知と付き合い長いから、あたしには言えなくても、讃良には当然話してると思ってた。と、貴子は言った。
「嘘…… まさか……?」
「讃良?」
頭のなかが空洞になったように、周りの声が入ってこない。真知の彼氏ってまさか? 昨晩帰って来なかった友尊。生徒会で帰りの遅い真知。
(まさかふたりが?)
「ここの所、何度か見かけるから、確実に彼氏だと思うんだけどね」
─お母さん。友尊さんと真知ちゃんが一緒にいるのを見たのよ。
昨日聞いた母の言葉が脳裏に蘇った。視界が讃良をあざ笑うかのように、ぐにゃりと歪んだと思ったら、ぐらりと体が傾いだ。耳元で貴子の悲鳴のような声が上がった。
「きゃあ。讃良っ」




