25話・真知に恋人?
「まあ。そうね。確かに聞いたことなかった……」
真知が讃良を追及するのをかわそうとしてか、友尊が真知に訊ねる。
「真知と、言ったか? あ…… 真知さん。讃良とはいつ知り合ったんだ?」
小声で讃良が「さん付け」を要求してると、真知が笑って言った。
「ふたりは仲がいいんですね。真知でいいですよ。讃良とは七つの時に知り合ったんです。ちょうどその時、こちらに父が医院を開いて家族で引っ越して来たので。見知らぬ土地に来て寂しい思いをしていたら讃良に出会って、すぐに友達になってくれて……」
「じゃあ、讃良とはその時以来の付き合いになるのか? ここに来る前はどこにいたんだ?」
「……滋賀です」
「産まれてからずっと滋賀か?」
「不躾に何を聞いてるの。友尊止めなさいよ。変な身辺調査みたいな聞き方」
「変な身辺調査とはなんだ? 私は純粋に真知の事が知りたいだけなのだ」
「はあい?」
それはいったいどういう意味に受け取ればいいんだろう? 讃良は困惑する。目の前の真知は逆に聞き返していた。
「友尊さんはどこの出身なんですか? その話し口調とか、ずい分個性的ですけど?」
友尊は押し黙った。ほうら、相手のことを根掘り葉掘り聞き出そうとすると、そんな目にあうんだから。こちらは聞かれると都合の悪いことばかりなのに。と、いう目線を友尊に向けると、友尊はにやりと笑った。
「滋賀だ」
へっ? 讃良と真知の声が重なる。真知はどこか引きつった顔をして言う。
「そうなんだ。奇遇ですね」
奇遇でもなんでもない。友尊の言ってることは、口から出任せだ。讃良は内心ハラハラする。
「だから滋賀と聞いて、驚いてな。勝手に親近感がわいたのだ。済まない。聞かれてまずい事があるようならばもう聞かぬ」
友尊は讃良の頭をぽんぽんと叩いてきた。
「やめてよ。髪の毛乱れるじゃない」
「悪かったな。勉強の邪魔をして。私はもう退散するゆえ、ゆっくりして行ってくれ。真知どの。そなたは讃良にとって大事な友人だとよく分かった。これからもよろしく頼む」
友尊の尊大な言いかたに圧倒されたのか、真知は目をぱちくりさせた。
「は…… はい……」
「では失礼する」
すごすごと引き下がった友尊の背を見送って、讃良は苦笑した。
「ごめんね。驚くよねぇ……」
「シスコンのお兄さまから、讃良とのお付き合いの許可が出たということでいいのかしら?」
真知が可笑しそうに笑った。
「友尊さんて可笑しな人ね。面白いわ」
その時、讃良は気がついてなかったが、友尊と真知の間に変化が生じていた。のちにそのことで自分が悩む事になろうとは、讃良は思ってもみなかった。
二週間後。昼休み時間、いつものように真知や貴子と、中庭の花壇脇のベンチで三人仲良く座ってお弁当を広げていると、突然思い出したように貴子が切り出した。
「ねぇ。真知さ、昨日駅前にいなかった? カッコいいイケメンと一緒だったでしょ? あのひと彼氏? 親密そうだったからデート中かと思って声かけるの遠慮したんだけど」
「えっ? 真知いつの間に? 彼氏できたの? わたしの知ってる人?」
讃良は真知と十年来の付き合いだ。彼氏が出来たなら教えてくれてもいいのに。水くさいじゃないと、いう目で真知を見れば、真知は首を振った。
「彼氏なんかじゃないよ。道を訊ねられたから教えただけ」
「え? 一緒に歩いてたじゃん?」
「あれは…… 行く先が同じだったから案内しただけだよ」
貴子は信じられないと言う様に言う。真知は否定した。
「そっかぁ。彼氏かと思ってガン見しちゃったよ。かなりのイケメンだったよ。彼は№0037に登録っと」
「へぇ。貴子のイケメンセンサーが発動するくらいだから、よっぽどのイケメンだったんだね? そのひとわたしも見たかったなぁ」
貴子はイケメン好きで、自称イケメンコレクターでもある。イケメンを探すのが趣味で、好みのイケメンに出会えた日は、心のファイルに登録するそうだ。
その話はそれで終了し、たわいのない昨晩の音楽番組の話題に移ったが、その時、真知は、何か考えているような素振りを見せたことに、讃良は気がつかなかった。




