24話・讃良の従兄にこんなに素敵なお兄さんがいただなんて知らなかった
真知は馬鹿馬鹿しいと取り合わなかったが、友尊は真知を気に入らないらしい。二人のの間で火花が散ったように感じた。無言でにらみ合うふたりに挟まって、おろおろする讃良を見かねたのだろう。母が助け船を出してくれた。
「あら真知ちゃん。いらっしゃ~い。待っていたのよ。どうしたの? ふたりともそんな所で立ち塞がって。真知ちゃんが中に入れないでしょう」
母の言葉で、滞った空気が生き生きと動き出した。
「お邪魔致します。おばさま」
「友尊。ちょっと……」
ようやく玄関からなかに入れた真知が、母に挨拶している間に、讃良は友尊の腕を引いてリビングに連れて行く。
「真知が帰るまで、リビングでテレビでも見てゆっくりしてて。お願い」
友尊は了解したというように、ソファーに腰を降ろす。時間つぶしになればと、新聞を渡すと、紙面を読み始めた。
讃良はどっと疲れた表情で、真知と階段を上がる。階段を上る途中で、自分の部屋のなかの鬼道の穴の存在を思い出した。友尊は鬼道で出来た穴は呪術者にしか分からないと言っていたから、多分真知には見えないだろうとは思ったが、讃良はそこに一応、クッションを置いて隠した。
真知は讃良の行動を気にするでもなく、部屋の中央に置いてある丸テーブルの上に教科書を広げた。
「はい。寝過ごした分。今週はここからここまでよ」
「ごめんね。驚いたでしょ? 変な奴で」
讃良は真知と向かい合う形で床の上に腰を降ろした。
「ああ。あの従兄さんのこと?」
「うん。友尊っていうんだけど、ちょっと変わり者というか個性的な人でね。気を悪くしたらごめんね」
「ううん。カッコイイ人じゃない。讃良にあんな素敵な従兄がいるなんて知らなかった。驚いた」
「そお?」
「讃良のことよっぽど可愛いんだね。構いたくてしょうがないって顔していた。極度のシスコンなのね。だから讃良に近付くひとを、警戒しちゃうんじゃないかしら?」
真知の言葉にそんなやつではないけどね。と心の中で呟きながら、讃良は苦笑いを浮かべるのに止めた。
コンッ。コンッ。部屋のドアがノックされる。
「はあい」
真部さんかと思い、ドアを開けた讃良の目に飛び込んできたのは、いかにもウェイターよろしく立ってる友尊だった。彼は初めての経験だと思うのに妙に似合っている。
イケメンは何でも見栄えよくなってお徳だわと、讃良は内心で感心する。
友尊の手にしたお盆の上に、ティーセットとお菓子のパステルカラーのマカロンがのっていた。
「叔母上が仲直りのしるしに持っていけと……」
母の思惑が読めたが、当の本人は謝る気はなさそうだ。とりあえず本人の気持ちは後回しにして、部屋の中へと友尊を促がした。
「どうぞ。さっきのような態度はやめてね」
友尊の手からお盆をあずかると、讃良は部屋のなかの真知を振り返った。
「友尊がね、さっきのこと真知に謝りたいんだって」
「だれがそんなことを…………!」
「お母さんに仲直りのしるしにって、これを持たされたんでしょう?」
軽く友尊を睨めば、友尊は口ごもった。お盆を持ち上げてみせると、渋々頷く。
「真知も気にしてないって言ってくれたから、ほら謝って」
テーブルの上は、真知が気を利かせてくれて、片付けられていた。そこへティーセットがのったお盆を置きながら、友尊を促がす。友尊は頭を下げた。
「すまぬ。大人気ない態度であった」
「本当にごめんなさい。悪気はないのよ」
讃良も友尊の隣に来て謝ると、真知はもういいと断わった。
「気にしないで下さい。讃良とは小学生からの付き合いなんです。でも知らなかった。讃良の従兄にこんなに素敵なお兄さんがいただなんて。なんで教えてくれなかったの?」
「う~ん。まあ。その。今まで真知に聞かれたことなかったしね」
過去真知に親族について聞かれなかったことを幸いに、讃良は苦しい言い逃れをした。




