23話・兄妹はいけなくて保護者ならいいの?
讃良は母に冷やかされているのが分かっていたが、ここで友尊に真面目に否定されるとは考えてもみなかった。母はにやにやと彼を促がす。
「あらどうして? 友尊さん?」
「讃良とは兄妹になりたくない」
「あら」
母は何か悟ったようだが、讃良は自分が拒否されたように感じて、息苦しい思いに駆られた。
「讃良もそうだろう?」
「えっ。うん」
友尊に同意を求められて、讃良は肯くことしか出来なかった。友尊は自分をどう思ってるのか。友尊の気持ちが分からない。讃良に気のあるような行動を見せたと思えば、兄妹のような近しい間柄にはなりたくないと言う。
口を噤んだ讃良に代わって、母が友尊と嬉しそうに会話してるのをぼんやりと見つめながら、讃良は震えそうな手に力を込めて、箸を進めるのに努めた。
「お嬢さ~ん。真知さん、いらっしゃいましたよ」
食後のお茶を頂いてると、外で水撒きをしていた真部さんが、庭からリビングに声をかけてくれた。讃良が玄関に向かうとなぜか友尊もついて来る。
「どうしてついてくるのよ」
「讃良は何を仕出かすか分からないからな。見届ける責任がある」
讃良が昨晩、謝って胸元にキスしたことをまだ根に持っていたらしい。友尊から意味ありげな目線を送られ、讃良は馬鹿にしてと不愉快になった。もしかしたらさっきの母への発言も、自分がキスしたことへの嫌がらせかも? と、考えたら、真剣に悩んでいたのが馬鹿みたいに思えてきた。
「もお。もうあんなことしないもの。それにあなたどうして布団のなかにいたの?」
「私がこちらに来た時に、そなたが魘されているのが見えたから、起こそうとしたのだ。そなたがわたしを布団に引き入れたのだぞ」
自分が讃良の布団のなかにいたのは正当防衛だと、友尊は言いたいらしい。讃良に非難される覚えはないと、言いたげの友尊に、讃良はげんなりした。
「いつあなたの許可が必要になったのかしら? わたしの保護者にでもなったつもり?」
「保護者か…… それも悪くない」
兄妹はいけなくて保護者は良いだなんて、讃良には友尊の気持ちはよく分からない。
「本気で受け取らないで。もう。あっち行ってて」
「讃良が世話になっているのだ。従兄の私が挨拶するのは当然だろう?」
「別にいいわよ。友尊はリビングにいて」
「そういうわけにも行くまい。礼儀に反するからな」
「何言ってんの。大丈夫よ。挨拶なんていいから……」
言い争いながら、リビングを出て行くふたりを、ホースを握ったまま庭先から顔を覗かせた真部と、窓辺に立った讃良の母が注目する。
「なんだかんだ言って仲が宜しいですよね」
「そうね。本当の兄妹みたいだわ」
「でもあれでは坊ちゃんが、少しお気の毒ですね?」
まだまだ目が放せないわね。と、二人は顔を見合わせた。
「真知。いらっしゃい」
「おはよう。讃良」
玄関のドアを開けて出迎えると、真知は讃良に笑いかけながら、その後ろにいる人物に気がついて瞠目した。友尊は真知を直視した後で、まるで敵でも見るような目つきで睨み付けていたからだ。
「そなたが讃良の友人か?」
「……はじめまして」
真知がどういうこと?と、でもいうように讃良に目線を寄越す。
「こちらのおかたは?」
「わたしの従兄なの。色々と事情があってね。急に同居することになったの」
讃良は苦笑し、取りあえず紹介することにした。
「紹介するわね。彼はわたしの従兄の友尊、大学一年生よ。よろしくね。彼女は真知。わたしの大親友よ」
真知に険しい目を向けたまま、友尊は問いかけた。
「そなたは讃良と一体、どういう繋がりがある?」
「何を言い出すの? 友尊。真知はわたしの大事な友達なんだから変な事言わないで」
「いつも讃良とは親しくさせて頂いております。あがらせて頂いても宜しいでしょうか?
讃良のお兄さま」
「そなたに兄と呼ばれる筋合いはない」
「ちょっと…… 友尊」




