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空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
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22話・讃良の兄は断る


 約束通り友尊は、朝食まで帰ってきた。休日ということもあり割りと遅めの朝食だ。

 本日の鵜野家の定番朝食メニューとして、食卓にあがったのは焼きシャケに海苔、ごぼうサラダにご飯と、ワカメと豆腐のお味噌汁。


 友尊は「いただきます」の声もそこそこに、もくもくと讃良の隣で箸を進めた。讃良は夜中の出来事を思い出し、友尊と顔を合わせずらかったが、彼がいつものように接してくれたので、それほど気恥ずかしい思いはしなくて済んだ。それでも自分の仕出かした出来事は、無かったことには出来ない……

 讃良がつい友尊を横目で伺ってしまうと、真部さんに訊ねられた。


「お嬢さん、今日は真知さんとお約束の日でしたっけ?」

「真知? あ…… 今日は二週目……!」


 讃良はカレンダーに目をやり、今日は第二週目の日曜日だと気がついた。第二、第四週目の日曜は親友の真知が、讃良の勉強を見てくれることになっている。

 中学一年の時、成績が芳しくない讃良を心配した母が、讃良の友人で成績優秀の真知を見込んで、勉強のおさらいをしてくれないかと頼み込んだ結果だ。


「誰か来るのか?」

「うん。友達が来る事になってるの。友尊はどうする?」


 友尊に聞かれ、今日は来客があるから、その間は自分の部屋には入れないと暗に告げたつもりの讃良だったが、友尊は讃良の交流関係に興味を持ったらしい。


「友達って誰だ? 家に来て何をする?」

「真知さんとおっしゃって、讃良お嬢さんの学校のお友達ですよ。礼儀正しいお嬢さんでお勉強を見てくれてるんですよ。あそこの赤坂医院の院長先生の娘さんで、先生は奥様の主治医なんです」


 真部さんは友尊の疑問に、親切に応じる。


「勉強を見てもらってるって…… その真知という友人は勉強の講師なのか?」

「ううん。違うよ。真知は友達。真知は賢いから分からない所を教えてもらってるの」


 友尊にはそう言ったが、最近は讃良も勉強のコツをつかんで来たので、おかげさまで成績も向上し、真知に教わるのは授業で居眠りして聞き逃した分だ。復習に付き合ってもらっていると言った方が正しいかもしれない。


「讃良は向上心があるのだな。感心した。勉強なら私がみてやってもいいが」

「坊ちゃんは現役大学生ですものね。お嬢さん。良かったですね、頼もしいお方が側にいらして」


 真部がキッチンに向かったのを見届けて、讃良が小声で囁いた。



「真知が来たら、友尊は自分の部屋にいてね。もしも、真知がいる前で姿が消える事態に陥ったら、あとあと面倒だから」

「それは大丈夫だ。鬼道によってこちらに滞在が可能な時間は、こちらの時間にしてせいぜい8時間程度だ。その時間を越えると、強制退去という形であのように姿が消えるが、そなたの友人が訪問中に私が付き添っても、急に姿が消えることは無い」

「それは確かなの? わたしといる時は二度ほど姿消えたじゃない?」



 讃良が半信半疑な様子で聞くと、友尊は白状した。


「実は最初にこちらに来た日から、何度かあちらの世界とこちらの世界を行き来してみて気がついた。昼間に姿が消えたのは…… 初回は術が定着してなかったから失敗に終わったが、二度目はすぐに戻って来て、そなたの寝顔を見ていたからだ」

「ええ…… じゃあ、もしかして夜中に布団に入っていたのは意図的な……?」


 讃良があ然としてると、お気楽な声が割り込んできた。母がキッチンから、お盆に二人分のお茶を乗せて運んできた。



「あらあ。ふたりとも内緒話なんかして。ずい分と仲良しさんなのね?」

「お母さん」

「叔母上」

「そうしてると本当の兄妹みたいね。いっそのこと友尊さん、讃良のお兄さんになってくれないかしら?

 この子も一人っ子より、兄弟が出来た方が嬉しいもの」

「お母さんっ」



 讃良の母は、もう一人子供が欲しかったが、体が弱くて無理だった。その為、養子も考えたことがあるが、親戚の目があって断念したのだ。


「それは断わる」

「友尊?」


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