表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
21/61

21話・キスされた


 立て膝で前髪をかきあげながら、やれやれと友尊は呟く。その胸元に赤く痣が出来ていた。つけたのは自分と気がついて真っ青になった。


「ごめんなさ~い。知らなかったこととはいえ、本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ……」

「もういい。寝相が悪いにもほどがある。これからは気をつけろ。心臓に悪い」


 ひたすら詫びる讃良を、友尊は制した。


「今度こんなことがあったら、それなりの罰を受けてもらうぞ」

「……どんな罰?」


 ベッドに座っていても、自分より上背(うわぜい)のある友尊を見あげれば、やや不機嫌ぎみの顔が歪んでほくそえんでいた。


「それなりの報復をする。その時に許してくれと懇願してもけして手加減はせぬ」


 どこかいたぶる事を楽しみにしているような、友尊の一面を見た気がして、讃良は怖ろしくなり、今後友尊を怒らせるような行動をとるのは、やめようと肝に銘じた。


「許してください。もう二度とこのようなことは致しませんっ」

「許すのは今回だけだからな」


 ベッドの上で正座し、三つ指ついて頭を垂れた讃良を、友尊はきょとんとした目で見ていたが、笑って許してくれた。


「でも友尊。いつの間に戻ってきてたの? あなたあっちに帰ったんじゃなかったの?」


 夕食の後、友尊はあっちの世界に帰ってくる。また明日の朝来ると言い残して、例の穴から向こうの世界に帰ったのを讃良は見送ったのだ。

 友尊がここにいるのはひょっとして、自分の世界に帰られなかったのではないかと思い始めていた。



「いいや。帰った」

「ならどうしてここに?」  

「忘れ物を取りに戻った」

「そうだったの。じゃあ、取ってきてあげる。それって何? どこに置いてきたの?」



 讃良は友尊の代わりに、忘れ物を取りに行こうとベッドから降りた。今は夜中で向こうの世界の衣服を着たままの友尊を、このまま部屋から出すよりも、この家の勝手が分かっている自分の方が、身動きが取れやすいだろうと判断したからだ。

 讃良の腕が後ろから引かれた。



「いや。その必要はない」

「大丈夫なの? 大切なものじゃないの? 取りに戻ったくらいなんだから」

「もういい。用件は済んだ」

「帰るの?」



 残念な気持ちで問えば、友尊が言った。



「また明日の朝、会えるではないか」

「そうだけど…………」

「そなたは(こく)な娘だな。あんなことをされて、余が平静でいられると思ってか? 余は辛抱したのだぞ。褒美(ほうび)くらい欲しいものだ」

「褒美? 謝罪じゃなくて?」

「まだ。分からぬのか?」


 友尊が腹ただしそうに背後から抱き寄せ、片手で讃良を上向かせた。近付く瞳には危険な色が現れ、顔を寄せてくる彼を讃良には拒む事が出来なかった。


「………………!」

「時間切れのようだ。行ってくる。大人しくしてるのだぞ。朝食までには戻ってくる……」


 唇に柔らかな吐息を感じた瞬間、友尊は消えていた。取り残されて、しばらく茫然としていた讃良だったが、あることに気がつくと例の穴に叫ぶのだった。

 

「友尊ったら。いつからわたしの布団の中にいたのよ──っ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ