14話・寝顔をみる間柄
戸惑う讃良の前で気にすることなく、朝着ていたTシャツを被る。下半身にぶら下がっている衣服をとりさろうとした友尊に、讃良は反論を試みた。
「きゃああ。あなたには遠慮ってものがないの? 嫁入り前の娘の目の前でっ」
「うるさい。喚くな。すぐに済む」
友尊はぶつぶつ呟く讃良に、今まで着ていた狩り衣を投げて寄越した。
「ちょっ…… 何するの」
「畳んでおけ。それまでには着がえ終わる」
「はあ? あなた何さまのつもり? 畳んでおけじゃないでしょう? せめて畳んでくれないかなって、そこはお願いすることでしょ?」
讃良は、顔にまともに彼の脱ぎ捨てた狩り衣を受ける形となり、地団駄踏んで抗議した。
「済まぬ。畳んでくれないかな? これでいいか?」
「う~。頭にくる──『ご飯ですよ』野郎めっ」
上半身は母が貸したTシャツに着替えた友尊を見て毒つくと、友尊は余裕の笑みを浮かべて、讃良に顔を突き出してきた。讃良は不愉快になったが、手の中のいかにも高級そうな衣服を、そのままにはしておけなくてたたみ始めた。
「ずいぶんと手慣れているな」
「小さい頃仲良くしてた友達が、あなたと似たような着物を着ててね、着物が汚れると大変だから、わたしの服を貸して遊んでた時があるのよ。そのときにその着物のたたみかたを友達から教わったわ。はい。これでいいでしょ?」
着がえが済んだ友尊が、讃良が手際よく自分の衣服をたたむのを関心して見ている。讃良は綺麗に畳んでしまうと、友尊に差し出した。ところが友尊は受け取ろうとしない。そればかりか無茶なことを言い出した。
「ここに置かせてくれ」
「はあ? 何を勝手に決めてるの」
「戻る時は突然だから、着がえは持参できないのが面倒だ。帰ってきたときに、ここに出るわけだから、着がえがあれば助かる。用意しておいてくれ。従妹どの」
「なぜわたしがそんなことをしなくちゃならないの?」
「そなたが余の帰りを待って待ちくたびれて、そんな所で寝てしまったと知ってしまったら、いじらしくてな。そのような女子に余は弱いのだ」
「わたしは待ってたわけじゃない。ただあなたが何も言わずに消えたから、いつ帰ってくるのか聞きたかっただけよ。けして待ってたわけじゃないんだから」
讃良がわざと不機嫌に言い放つと、友尊は自信満々に言った。
「嘘だな。余が去って淋しかったのだろう。泣いていた。可愛いやつめ」
「違う。あれは…… 夢を見たのよ」
「余の夢か? 夢の中で泣かせてしまうようなことをしてしまったか? 済まなかった」
「違うって言ってるでしょう。自信過剰な人ね。違います。わたしの友達の夢」
讃良が噛み付くように言えば、友尊が気がついたように言う。
「余と同じような着物を着た者か?」
「そうよ。あなたと同じような着物…… だからかしら? わたしあなたと会った時、初めて会ったような気がしなかったのよね」
「それは口説いてるのか?」
「ち・が・う。あなたのような不思議なひとをみても、自然に受け容れてしまったということよ」
「ほほう。そなたは我らの間には、妹背の縁が繋がっていると言いたいのだな?」
「妹背って?」
なるほど。納得した友尊が頷く。嫌な予感しかない讃良は訊ねてみた。
「寝顔を見る間柄ということだ。確かに余もさっきそなたの泣きながら寝入っている顔を見てしまったことだし、責任をとらねば……」
さらりと言われて、讃良は顔を赤らめた。妹背という言葉には彼が言った以上の意味がありそうな気がしたが、あえて追及はしないでおく。それ以上突っ込んだ話になったら、自分が平静でいられるか分からない。




