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空の鏡と聖上の恋人  作者: 朝比奈 呈
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13話・帰って来た友尊


 青空の下、白い入道雲がもこもこと沸き立つ。蝉は暑さを(あお)るように鳴き、立っているだけで汗をかくほど暑い日、讃良は少女と河原に下りて遊んでいた。この辺りは川の上流になるので、流れは早かったが底は浅く足を取られるほどでもない。

 キラキラと湖面が日を浴びて輝くなか、麦わら帽子が二つ並んでいた。


「見て。見て」


 河原で足を浸し岩に腰かけていた讃良は、隣に並んで座る物知りの友達に、珍しいものを見つけたと指差す。


「あそこ何か飛んでる。トンボみたいな変な虫」


 川べりの隅に二、三、飛んでゆく弱々しいトンボみたいなものを指さして教えると、少女が答えをくれた。



蜉蝣(かげろう)だわ」

「かげろう?」

「あの姿で数日間生きて、卵を産むと数時間で死ぬの」

「ええ。そんなの可哀想。卵を産んだらその日のうちに死んじゃうの?」

「そういうこともあると思う」

「そんなのひどい……!」



 仕方ないことだと少女は言った。自然の摂理なのだと。讃良と同じ年の少女は、時々讃良が分からない言葉を持ち出した。気紛れにその言葉の意味を教えてくれる時もあったが、この時は教えてくれる気にならなかったようだ。


「じゃあ、卵を産まなきゃいいんじゃない? 産まなかったら長生きできる?」

「それは無理よ…… それでも長く生きれるかは分からないし」


 讃良の言葉に、少女は首を振った。


「わらわも蜉蝣と似たようなものかも知れないわ。この生は借り物で……」


 少女の言葉は悲しみを帯びていた。讃良は思わず少女を抱きしめていた。


「そんな悲しいこと言わないで。わたしたちは誰かの犠牲になる為に生かされてるわけじゃないよ。自分の為に生きてもいいんだよ」


 なんだか偉そうなことを言ってしまったけど、少女は一番その言葉を欲しているように思えた





「……ら。……さら。讃良」


 耳元で呼ばれた讃良は、ぼんやりと目を覚ました。すぐ目と鼻の先に友尊の顔がある。


「友尊っ」

「泣いてるのか?」


 不思議な穴から顔を覗かせた友尊が手を伸ばしてくる。指が讃良の眦に触れた。


「何? 別に泣いてなんか……」


 驚いて頭を上げようとした讃良は、瞬時に先ほどの衝撃を思い出して、自分が今いる場所を思い出した。消えてしまった友尊が気になって、穴に向かって顔を近づけていたのだった。気まずそうに後退する讃良に続くように、昨日と同じ狩り衣姿の友尊が穴から這い出てきた。


「初めてここから出た時、勢いあまってそこの所に頭を打ちつけた。かなり堪えたぞ。これはこの場所から移動出来ないのか?」 


 ベッドの下から出た讃良を追って、友尊が出てくる。結った髪に手をやり、縛っていた髪を解いてしまうと、肩に手をやりながら、ああ。凝った。凝った。と、言っている。


「あなたってやっぱり…… そこの穴から出入り出来たのね?」


 マジックアートのような穴から、友尊が実際に出てきたのを目にした讃良は、友尊が別の世界から来た人間なのだと改めて認識した。



「嘘だと思ったか?」

「だって………… 実際にあなたがそこから出入りするのを見たわけじゃないし、その穴は何かの仕掛けでもあるんじゃないかと思って」

「余はそんなに暇でもない」



 友尊は着ていた狩り衣を脱ぎ始め、上半身裸になった。鍛錬でもしてるようには見えないのに、体は引き締まっていて余分な脂肪は見当たらない。相手の体を観察してしまったことに気がついて、気まずい讃良は声を荒げた。


「ちょっとぉ。なにするのよっ」

「着替える」


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