10話・どうしてあなたがわたしの従兄になってるの?
「うちには空いてる部屋が幾つかあるし、大学にはうちから通えばいいのよ」
「お母さん」
「讃良ちゃんは反対なの? さっきからどうしたの? 浮かない顔で」
少し軽率ではないかと口を挿もうとした讃良に、母は反論を許さなかった。
「実はね、お父さまにも電話で連絡しておいたのよ。友尊さんをうちで預かったらどうかしらって? そしたら友尊さんが側にいてくれるなら、用心も兼ねて安心だっておっしゃってたわ。という訳だからいいかしら? 友尊さん」
「特に異論はない。むしろそうしてもらったら助かる…」
「友尊。ちょっと」
「良かったわ。友尊さんならそう言ってくれると思ってたの」
母が友尊から了承を得て微笑む。讃良は友尊の食事が済んだところで彼の腕を引いて立ち上がった。
「ねぇ。ちょっと来て」
「あらあら。仲がよろしいことで…」
それを見た真部が母と顔を見合わせて笑っている。変な誤解を受けたようだ。讃良は否定した。
「違うわよ。そんなんじゃないから」
二階の自分の部屋へと向かう讃良たちを、階下から母たちが伺う気配がある。一気に階段を駆け上がると、讃良は友尊を自分の部屋に押し込んだ。
一応、廊下を確かめ母達が聞いてないことを確認する。ドアを閉めた途端、讃良はキリッと友尊を睨み付けた。
「これはどういうことなの?」
「どういうこととは?」
「ふざけないでよ。どうしてあなたがわたしの従兄になってるの? お母さんたちに何かしたの?」
「ま。讃良。落ちつくがいい。興奮状態では話の半分も正常に聞いてるのかあやしいものだ。ははあん。朝食もしっかりとっていないから頭がうまく機能してないのだな?」
友尊が讃良のベットの上に腰を降ろす。自分の隣をとんとんと叩く。ここに座れと言いたいらしい。もともとこれは自分のベットなのに。と、讃良はぼやいた。
「讃良は太ってはないぞ。それ以上、痩せてどうなる? だからしっかり朝食はとれ」
「それは…… まあ。その…… ありがとう」
友尊の隣に腰を降ろすと、ダイエットする必要はないと言われて気をよくしかけた讃良だったが、おかしそうにこちらを見ている友尊と目があって身構えた。
「それよりも。これが落ち着いていられて? 昨日出会ったばかりの人が、昨晩いきなりベット下から現れたと思ったら、異世界と繋がった穴が空いてるなんて言われて、今度は従兄になって現れたんだから、説明くらいしてもらいたいものだわ」
友尊ははあ。と、ため息をついた。
「ありていに申せば、あの後、そなたが寝てしまって困った余は、状況確認の為、周囲を視察にこの部屋の外へ出たら、そなたの母に出くわしたのだ。誰かと問われて正直に身を明かす事は出来ないゆえ、急遽、そなたの従兄だということにしたのだ」
「それって、視察というより家捜ししてたってことじゃ… しかも出くわしたって… 夜中に怪しい物音がしたらお母さんだって起きてくるわよ」
「仕方ないだろう。見ず知らずの場所に来て、そなたは平静でいられるか? 状況が改善されるのを、誰かが助けてくれるのを黙って待っていろとでも?」
友尊に言い返されて、讃良は何も言えなくなった。彼はこの世界の人でないのだと、改めて思い知らされた一言に、頭を殴られたような思いだ。
「……鬼道とかいう術を使ったの?」
「そうだ」
「そうだって。簡単に言うけど、それって記憶を操作したってことでしょ? 後から脳とか変な影響出ないでしょうね?」
「大丈夫だ。後で何か支障が出るようなヘマはしてない。友尊という存在の記憶を新たに付け足したようなものだから、余がこの世界から去る時には、その付け足した分の記憶が剥がれるだけだ。なんの支障もない」
「あなた落ち着いてるのね。あなたって幾つなの?」
「十九だ。そうでもない。この世界は初めてだから不安もある。この世界に来たとき、初めて会ったのがそなただったから利用させてもらった。だがそなたがそれが嫌だと言うなら出て行くしかあるまい?」
ずい分と落ち着いて見えたから、二十代半ばなのかと思ったら、讃良と三つしか年が変わらないとは思ってもみなかった。讃良は同世代のよしみで心配になった。




