1話・ウノノとさらら
さらさらさらさらさらさらさささささ…。
青い空の下、笹の葉が風に揺られて音を立てた。この竹林は六歳の讃良のお気に入りの場所。今日も鼻歌を歌いながらシャベルで穴を掘っていると声をかけられた。
「なにしているの?」
「たからものさがしをしているの」
「たからもの? そんなところにうまっているわけないじゃない?」
「そんなことないよ。きれいなこいしとか、かせきとかみつけることができてたのしいもの」
穴掘りに夢中になっていた讃良は、相手に言い返そうとして顔を上げたところで固まった。そこにいたのは着物を着た少女だった。でも彼女が知る着物姿とはちょっとばかり違っていてひな祭りのお人形のように、菱餅のように色を重ねた桃色の着物を上着のように羽織り、土の上に裾が長く広がっていた。その下には朱色の袴らしきものが覗く。髪は長く背に垂らし耳ぎわで一筋すくってリボンで結んでいるのが、可愛らしいと思った。
「あなただれ?」
讃良はてっきり話しかけてきた相手は、クラスメートのうちの誰かかと思ったのだ。竹林は讃良の実家である朝凪家の私有地だ。大人たちはそれをよく知っているので勝手に入って来る事はないが、近所の子供たちはいい場所見つけたとばかりに入って来ることもあった。
ところが目の前にいる少女は初対面のはずなのに初めて会った気がしなかった。なぜだろうと思いながら少女を見ていて気が付いた。
彼女は自分にそっくりだったのだ。
「わらわはうのの。あなたはわらわによくにている。あなたのなまえは?」
「わたしはさららだよ。なんだかなまえもにているね」
お互いに相手の顔や体をじろじろ眺める。讃良は聞いた。
「ねぇ、すきなたべものは?」
「すきなのはなしとほしがき、あとくるみ」
「わたしもすきだよ。じゃあ、きらいなものは?」
「いわしに、わらび」
「わたしもきらい。わらびなんてにがくておいしくないよね?」
「そうそう。まったくおいしくない。きがあうわね。ではこれはどう? さすがにこれはあなたにはないでしょう?」
そう言いながら鵜野は、ちらりと着物の裾をあげた。彼女の左足首には皮膚の引き攣れたような痕があった。
「わらわにはこのような、みにくいやけどのあとがあって……」
「わたしにもあるよ。それ」
讃良は鵜野の告白にハッとしながら着ていたズボンの裾を捲って見せた。讃良の足首にもそれと同じものがある。場所は鵜野とは反対側の右足首。
こんなにも自分と酷似した人物がいるだなんて讃良はビックリした。
「ここまでにてるだなんて、まるでふたごみたいだね。わたしたち」
「そうね。よくにすぎてる……」
彼女の呟く横顔が一瞬だけ大人びて見えて、讃良は目が離せなくなった。
「そうか。だからなのね… わらわがここにたどりついたのは…」
讃良には意味が分からない事をいって、納得してるようだった。少女の姿が揺らいでいるのに気がついた讃良は、思わず少女の袖を掴んだ。手を放したら少女は、どこかに行ってしまいそうな気がした。
「どこにいくの?」
「おわかれみたい…」
少女の姿が空気に溶けるように消えていく。膝から下はすでに消えていた。讃良はこのまま別れてしまったら、もう会えないように感じだ。
「いやよ。いかないで。うのの」
「そんなかおをしないで。またく……」
そう言って掻き消える寸前、少女が向けた顔には微笑が浮かんでいた。




