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異世界黙示録〜ISEKAI OF THE DEAD〜  作者: might
World Gone Bye
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第八話 作戦会議

集会所の中央にあるテーブルにライボン、征司、リヴィア、そしてライボンが声をかけた4人の男が集まる。


「なんで俺まで参加するんだ?」


 ボンドと呼ばれる江戸っ子を連想させるガテン系の中年の男が口を開く。


「それは俺のセリフだよ。日陰者の俺が街の命運を決める会議に呼ばれても街の連中が不安がるだけだろう」


 アズマと呼ばれる明らかに一般人じゃない威圧感を持つ男が不満を述べる。


「今は緊急事態じゃ。不満や不安があるじゃろうが話を聞いてくれ」


 メンバーの愚痴をなだめるライボン。


「集会所にある物資ではどんなに節約しても二日程度しか生きられない。おぬしらに集まってもらったのは、それぞれの組織のリーダー格だからじゃ。おぬしらが話に乗ってくれれば、自動的に街の住民の大半が動いてくれるだろう」


(そのリーダー格たちを一言で会議の席に集められるライボンさんの信頼度は凄いな)


 征司がライボンの凄さに感心を抱いていると、


「今起きている現象について誰よりも知識を有している者を連れてきた。紹介する、征司じゃ。詳しい話は省くがこの街に迷い込んでしまった遠い国から来た旅人じゃ」


「!?」


 いきなり会議のメンバーの視線を受けることになり、驚く征司。


「旅人?」


 会議メンバーは困惑と疑いの目を征司に向ける。それは当然の反応であり、この緊急事態によそ者は信用されることなどありえない。


「征司のことはわしが保証する。彼はわしとリヴィアをすでに二度も救っている」


 二回。脱出の件とロープリフトの件。

 ライボンは作戦立案したことを救ったことに持ち上げ、征司の信頼度を上げようとしている。


「ライボン先生が信用するなら私も信用しよう。セイジと言ったか、この現象を説明できるのか?」


 騎士の格好をしたレインという男が征司に質問をする。


「はい。僕はこの現象を知っています」


 征司が答える。


「君はこの現象に遭遇したことがあるのか?」


「ありません。僕が知っているのは今起きている現象が僕の国で伝わる作り話と全く一緒だということです」


 ライボンの作った設定に合わせるように発言を考える。転生のことはややこしそうなので話さないが、嘘を語っているわけでもなかった。


「作り話~?」


 ボンドが眉を顰め、明らかに信用していないという顔をする。


「はい。僕の国でも空想のお話です。実際に起きたことがあるなんて聞いたこともないです。しかし、この現象は話の設定と完全に一致しています」


 周囲の疑念の目を向けられても征司は自分が話すべきことを語る。


「聞かせてくれ。この街で起きていることを。おとぎ話とはいえ、我々の国ではこんな現象、思いつきもしないことだ」


 レインが征司の話を真摯に聞こうとする。


「ありがとうございます。まず、バリケードの向こう側で徘徊している者たちを僕の国では『ゾンビ』と言います」


 征司は自身の知るゾンビの特徴を説明し始めた。


 数分後。説明を終えて、会議メンバーは全員話の整理をするためか黙り込んでいる。その間にライボンは征司に会議メンバーの紹介をしてくれた。


 レイン。街の治安維持を任される警備兵のトップ。以前は王都で王直属の護衛騎士をして、自ら辞職した過去を持つ。


 ガウ。警備兵のナンバー2。20代後半ですでに副長を任される実力者。弟も最近、警備兵になったらしい。


 ボンド。街の大工たちの顔役。大工には高所で仕事をする軽業師が多いため、街の奪還の機動力になるのではないかと声をかけた。


 アズマ。街の悪所を取り仕切るリューラン会の会長。ぶっちゃけ極道の人。ライボンの元教え子。


 ゾンビ現象におけるもっとも恐ろしいことの一つは昨日までの味方が死ねば敵になってしまうこと。家族や仲間は嫌でもゾンビになった人を殺さなければならない。死んでいるとはいえ、大切な人に武器を向けるのは相当な覚悟がいる。だが、ゾンビになった者たちは容赦なく牙を向けてくる。残酷な世界である。


「ほら、おぬしたち、いつまでも黙り込んでないで何か言わんか!」


 ライボンが集会メンバーに発言を促す。


「セイジ君、君はライボン老師とリヴィアを二度、君の立案した作戦で助けている。現状の打破に何か策はないか?」


 一番最初に口を開いたのはレインだった。


「隊長!よそ者を信用するんですか!?」


 待ったをかけたのは副長のガウだった。


「ガウ、今はよそ者を信用するしないの状況じゃない。人間と彼ら...セイジ君がいう『ゾンビ』との闘いだ。セイジ君は人間で、こちら側だ。ゾンビたちよりは信用するに値する」


 副長のガウをなだめるレイン。


「けど、彼の話は曖昧です。同じ作り話を知っているだけのよそ者に策を求めるのは危険です!!」


 それでも喰らいつき、レインに異を唱えるガウ。


「もし、彼がこの現象を起こした犯人だとして、なぜ彼はここにいる?ゾンビがセイジ君自身も襲ってくるならなぜ安全圏にいない?街の住民の全滅を待ってから街に入ればいいだろう。わざわざ危険地帯に踏み込む犯人はいない」


「その通りだな。住民の殺害が目的ならゾンビに任せるだけでいいし、何かの強奪が目的なら全員死んだあとに来ればいい。ゾンビではできないような細心の注意を払うような目的なら、そもそもゾンビを使うなってことだしな」


 レインに同調したのはアズマだった。


「わかりました...隊長の指示に従います」


 ガウは不満ありげな顔だが、二人に諭され、静かになった。


「話を戻そう。セイジ君、何か策はないか?」


「策を考えるにはまず、情報が欲しいです。僕はガウさんの言う通りよそ者です。この街のこと、いえ、この国の常識すら知っているか怪しい。教えてください。街のことを」


 レインは少しだけ微笑み、


「いいだろう。まず、何が知りたい?」


「何よりも数の多いゾンビの全てを相手にすることはできません。従ってゾンビを街の外に誘導することが最善だと思います。さっきも述べたようにゾンビは音と光に集まります。この街で大きな音、光をだす道具や建物は何かありませんか?」


「大きな音と光をだすものか...」


 集会メンバーは何かないかと悩みだす。

 少し考えてリヴィアが、


「鐘はどう?」


「鐘?」


「教会の鐘。あれなら町中に音が届くよ」


「なるほど、いつも時間を知らせる教会の鐘か。たしかにあれなら街のどこにいても音が伝わる」


「しかし、教会はここと大門のちょうど真ん中あたりだぜ。ゾンビどもを外には追い出せないぞ」


「だが、教会に集中してくれれば、大門に散らかっている瓦礫を撤去する時間は稼げるぞ」


「そのあとはどうします?通りやすくしても、教会に集中したゾンビが出て行ってくれなければ、意味がない。集会所の人々全員を街の外に逃がすのは不可能だ。第一、街の外が安全かどうかもわからない」


「街の外は危険でしょう。ライボンさんから聞きましたが、街にやってきた馬車の搭乗者が死んでゾンビになったということですから、街の外の者たちがゾンビになってしまう何かを運んできていることになります。外でも同じような現象が起きていると考えるべきでしょう。ここは幸いにも城塞都市。現在、ゾンビに突破されている状態ですが、一度追い出せれば、今後の侵入を防ぐのは容易になります」


「では教会に集めたあと、どうやって追い出すかが重要だな」


「あるぜ、大きな音のでるもの」


「本当かアズマ!?」


「ああ、先生のお叱りを聞くのは面倒だが、状況が状況だしな。俺んところの密売品の中に大砲がある。それを大門でぶっ放せばいいだろう」


「大砲だと?リューラン会は戦争でもする気だったのか!?」


 アズマを睨むガウ。


「んなことしねーよ。俺たちは小心者の集まりさ。あくまで商売品。右から左に流して儲けるお仕事だよ」


 ニヤニヤとした表情でガウをなだめようとするアズマ。


「今は密売品のことは不問だ。使えるものは使おう。大砲はどこにある?」


「よし!隊長からの恩赦がでた、物事柔軟に対処しろよ、副長」


今度はガウを挑発するアズマ。


(なんだか、ヤンキーと委員長と先生みたいだな)


 征司は三人のやり取りをみてそう思った。

 そして、ライボンがまとめにはいった。


「決まったな。作戦を確認するぞ」


奪還作戦


第一段階

 ボンド率いる大工、軽業師連中は屋根を移動し、大門付近で待機。

 アズマのリューラン会は大砲の隠し場所まで移動し待機。

 レイン、ガウの警備兵たちは教会に移動し鐘を鳴らす。


第二段階

 教会にゾンビが引きつけられたら、

 ボンドたちは大門の瓦礫を回収。

 アズマたちは大砲の移動を開始、大門へ移動。

 レイン、ガウたちは教会の防衛兼囮役と大砲の護衛へ行く二手に分かれる。


第三段階

 鐘を鳴らすのをやめ、大砲で街の外を砲撃。

 大多数のゾンビが街の外へ出たら全員で大門を閉める。


「じゃあ僕は教会チームについていきます」


「あんたが出る必要はないだろう、武闘派の人間たちに任せろ」


 ガウが征司の参加に異を唱える。


「この作戦は集会場の守りを維持した状態で行うことが大前提です。だから少数チームなんです。僕はイレギュラー、知らない人たちと集会場の防衛を行うよりも不確定要素の多い奪還作戦に参加したほうが良いでしょう」


「怖くないの?」


 リヴィアが征司に問いかける。


「怖くないですよ。会ってばかりの皆さんですが、街の人々が死ぬのは見たくないです。協力させてください」


 きっぱりと恐怖を否定する征司。それを聞いてリヴィアは少しだけ黙り、


「私も教会チームについていきます!」


「!?」


 全員が驚く。


「リヴィアさん、こんな危険な作戦をあなたのような華奢な女性にさせるわけにはいきません!」


 ガウが征司の時よりも全力で否定する。


「この作戦が失敗したらどのみち集会所の全員が餓死かゾンビに食べられちゃうでしょ。それに私は華奢だけどボンド親分直伝のジャンプ術があるし、弓も使えるから役に立つよ」


 レインがリヴィアに決意の確認をする。


「リヴィア、人手は欲しいが、参加は自己責任だ。常に守ってやれるかはわからん。自分の身は自分でも守るんだぞ」


「はい!」


「よし、決まりだ。作戦を実行する!」


 ライボンが作戦開始の宣言をする。


「野郎ども、いつもの要領だ。街中を飛び回って、瓦礫を片付ける。それだけだ」


 ボンドが大工たちに指示を出す。


「ヤス!組の連中を集めろ、俺についてこい!」


 アズマがリューラン会の組員を集める。


「皆、兵士の本懐を遂げろ!」


 レインが兵士たちを扇動する。


 全員が行動し始めているなか、征司がリヴィアに近づき、


「リヴィアさん、どうして作戦に参加しようと思ったんですか?」


「さっき言った通りだよ。役に立てると思ったから、それに...」


「それに?」


 リヴィアは小声で、


「ちょっとムカついたから」


「?」


「さあ、行こう!セイジ!あと、さん付けはいいからね」


 わけがわからなかった征司だが、リヴィアに手を引っ張られ、教会チームの元へ駆け寄る。

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