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異世界黙示録〜ISEKAI OF THE DEAD〜  作者: might
World Gone Bye
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第五話 音響

「リヴィア、助けに戻ってきたことには本当に感謝しておるが、それは危険が大きすぎる」


「でも、他に方法がないですよ。私が集会場に行ったみたいに屋根から屋根を飛ぶのには、先生を担いでは難しいですし........」


(そうか、エルフ特有の身のこなしで、森の木から木へ飛び移るように屋根を渡って助けを呼びに行ったのか)


 征司はエルフの身体能力に感心しながら、脱出方法を考える。しかし、思考を遮るように不快な音が響いてくる。


――――バン!バンバンバン!


「■■■■■■■■■!!」


 先ほど征司がゾンビを確認した窓からガラスを叩く音と言葉になっていないうめき声が聞こえる。だが、さきほど確認した『イーロン』だった者の声だけではなく、複数人のうめき声が聞こえる。カーテンが閉じているため人数の確認はできないが、ゾンビ映画を観ている征司にはカーテンの向こう側の情景が容易に想像できる。

 しかし、今一番心配するべきことはゾンビの数ではない。


「まずい!窓が壊される!」


 征司はバリケードになりそうなものを慌てて探し出そうとするが、


「心配ない。その窓はそう簡単には壊されんよ」


 ライボンが征司を落ち着かせようとする。


「その窓の強度を魔術で一時的に上げておる。数十分は効果があるだろうから、静かにしてやり過ごそう」


「魔術って便利ですね」


 征司は落ち着きを取り戻し、脱出方法へと思考を切り替える。


(何よりもまず知っておきたいのはゾンビの生態だ。死人に生態というのもおかしなことだが、僕の知っているゾンビの認識とどう同じか、どう違うかが知りたい)


「そうだ!」


 征司は何かを思いつき、音がする窓へと向かう。


「何か思いついたんですか?」


 リヴィアの問いかけに答えず征司はカーテンを開ける。


「何してるんですか!?」


 リヴィアは理解ができないという表情で征司に怒鳴る。

 カーテンを開けた窓の向こう側には征司が予想していた通り、窓に群がるゾンビの集団がいた。10人はいるだろうか、手を窓に当てては滑らせ、また窓に手を当てている。


「ひっ!?」


 怒りだしていたリヴィアもおぞましい情景をみて小さな悲鳴をあげる。

 征司はゾンビ達を見ながら窓を正面にして左右に動き始めた。


「何をしておるんじゃ?」


 リヴィアと違って冷静なライボンは征司に問いかける。

 征司はカーテンを閉めて答える。


「ゾンビが集まってきたのはリヴィアさんが屋根から落ちてきた音を聞いて集まってきました。そして、窓越しのゾンビたちは左右に動く僕を目で追っていました」


「五感の確認か」


「そうです。死人なんで五感の機能は停止しているはずなんですけど、正常に機能しているようでした」


「正常に機能しているなら増々やっかいなんじゃないか?」


「はい。でも、五感はあっても頭を使ってはいない。現に屋内に人間がいることを確認できてもドアから入ろうとはしていません。それに五感があるということは、眩しい光をあてればちゃんと眩しがるはずです」


「なるほど、ぞんびの機動力を削ぐ方法はいくらでもあるということか」


「????」


 征司とライボンがゾンビ対策を練っているが、色んな出来事が立て続けに起き、リヴィアは困惑していた。

 征司はリヴィアにも解るようにゾンビについて説明をし、三人で本格的な脱出のプランを練る。


「ライボン先生、眩しい光と大きな音を出す魔術はありますか」


 征司はライボンの魔術の技量を確認する。


「あるにはあるが、光を出したらわしも怯んでしまうし、音を出してもわしが音源なのでわしに寄ってきてしまうの」


「そうですか....」


 ライボンを救出するのにライボンを囮にするわけにはいかない。別の方法はないかと征司は模索する。


「何か遠くに音を出す方法はないですか?音が鳴る装置とかありませんか?」


「音を鳴らすものか........」


 何かないものかと、ライボンが考え始めるとリヴィアが答える。


「蓄音石はどうですか?」


「おぉ!それがあったの」


「ちくおんせき?ってなんですか?」


 聞きなれないものについて征司が尋ねる。


「魔術を使った道具の一種じゃ。蓄音石に向かって喋ると、込めた魔力の時間に応じて音を記録して、記録した音を出してくれる道具じゃ」


「そんなボイスレコーダーみたいな道具があるんですか!?」


 機械文明を脱出方法から思考の外側に置いていた征司は驚く。


「ぼいすれこーだー?」


 ライボンとリヴィアも聞きなれない言葉に疑問を浮かべているが、征司は二人に尋ねる。


「それはこの家にありますか?」


「記録済みの一個しかないですよ」


「音が鳴り続けるならそれで大丈夫です」


「どう使うんですか?」


 使い方について聞いてくるリヴィア。


「それを遠くに投げてゾンビの視線を僕らから逸らし、その間に脱出します」


 蓄音石という道具の使い道として、この状況において最適解とも言えるべき使い方をリヴィアに説明する征司であったが、リヴィアは不機嫌な表情を浮かべて、


「私の熱唱した生歌が記録してあるんですけど........」


 恩師ライボンを助けるためとはいえ、街中に自分の歌が響き渡り、しかも、ゾンビが群がってくると思うと複雑な気持ちになるリヴィアであった。

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