第四話 エルフの少女
エルフ‐容姿端麗。不老。森で生活をし弓矢を得意とする。容姿の特徴としては尖った耳と金髪で描かれることが多い、空想上の亜人種。ファンタジー世界を代表する存在といえる。
征司は自分には呟き癖があるのではないかと呟いてから後悔し、本人を目の前にして、綺麗だと言うなんてナンパしているようなものなんじゃないかと、第一印象を悪くしてしまったと焦った。
しかし、エルフの容姿をした少女は眉をひそめて警戒するわけでもなく、頬を赤らめて、
「えっ!?あっ!?はい、ありがとうございます」
初対面の男に褒められて混乱しながら照れていた。むしろ呟いたことが彼女の警戒を解くことになったようだ。征司も自分がしたことを理解し、顔を赤らめる。
「は、はじめまして、歩見征司と言います。ラ、ライボン先生、こちらの方は?」
征司はあえて少女に尋ねるのではなく、ライボンに尋ねた。無意識にナンパ行為をしてしまい、エルフの少女を見るのが恥ずかしいというのもあるが、初対面の人間は警戒されやすいので共通の知り合いを通したほうが打ち解けやすいことと、特殊な事情でここにいる征司をライボンならうまく言いくるめてくれると思ったからだ。そして、頭の切れるライボンならそれが可能であると踏んだ。
ライボンは征司の伝えたいことを理解したのか、
「彼女はわしの生徒、リヴィアじゃ。リヴィア、こちらの青年、征司は遠方の国から来たばかりのところを奴らに襲われて、うちに逃げ込んできたところだ」
征司は即席のでっちあげ話に合わせて、
「まだこの国のことをまるで知らないので、不作法な行動をとるかもしれませんが、よろしくお願いします」
堅苦しい言葉になってしまったと思いながら挨拶を済ませた。
「これは、これは、ご丁寧に。よろしくお願いします」
エルフの容姿をした少女、リヴィアも征司の丁寧な挨拶に倣って、ぺこりと頭を下げた。
異世界にもお辞儀の習慣があるんだと思いながら、征司は現状について話を進めた。
「リヴィアさん。1人で助けを呼びに行って、1人で戻ってきたようなんですけど、ライボン先生を助ける手段が何かあるんですか?」
征司とリヴィアのあいさつのなかで、他の人間が現れることはなく、リヴィアは1人で帰ってきている。何か救助の手筈が整っているはずであると思い、征司は質問した。すると、リヴィアは自信満々な表情で答えた。
「特にないよ」
「………………」
「………………」
ライボンと征司は二人して言葉を失った。
「集会場に辿り着いて、助けを求めたんだけど、皆、バリケード作りとか、負傷者の手当てとかで手一杯で、ライボン先生のところまで人手を回すことができない状況だったんですよ。だからせめて私だけでも先生のもとに戻らなきゃと思って」
そうだとしてもどうして自信満々に答えた?と二人は心の中で思った。
「でも、こんなものを持ってきましたよ」
リヴィアは落下したときの瓦礫を、正確には瓦礫と思ってたものを掴み、二人の目の前に出した。
「帰りはこれのせいでぴょんぴょん飛ぶわけにはいかなかったですけど」
それは木製の簡易的な荷車だった。車輪が左右に二つだけ、馬が引くのではない、人が手で引くタイプの荷車で、子供用のおもちゃにも見える、小柄な人が1人やっと乗れるかどうかの大きさのものだった。
ひょいと、華奢そうなリヴィアの腕でも持ち上げられる荷車を手に、リヴィアは、
「これに先生を乗せて、駆け抜けましょう」
ゾンビ映画を観たことがあるものなら、その行為がどれほど危険なことか分かるであろう。いや、観たことがないライボンでも分かった。




