第二十七話 犯人は○○?
(落ち着け、考えろ!冷静になれ!)
セイジの心臓はバクバクと鼓動し、頭から汗が流れ出る。
(ヤスが町長を殺した?リューラン会の命令で?いや、ゾンビ化した人間は殺しても仕方がない...駄目だ!リューラン会が町長を殺したことが問題だ!)
もし、ヤスが、リューラン会がどんな理由であれ町長の首を切っていればステラはリューラン会の排除を行う。そうすれば悪所の人間の制御不能になり、街は破滅する。
最悪のケースがセイジの頭をよぎる。しかし、同時にセイジには疑問が浮かぶ。
(待てよ、ヤスが殺したとしてなんでその凶器を持ってる?一番に疑われるじゃないか?そもそも凶器か?ていうかヤスは馬鹿だぞ?)
セイジは慎重にヤスに尋ねる。
「ヤス...その剣って...」
「この剣ですか?町長の屋敷にあったのをかっぱらってきました!」
ヤスは馬鹿だった。
「なんてことを!またリューラン会の立場が悪くなるぞ!」
「ヤスがまた馬鹿やってるー」
ヘリスは怒り、リヴィアは笑う。
「ここだけの内緒にしてくださいよ。もともと一本しかないところから拝借したので、装飾剣セットそのものがなくなってることに気づいてないはずです」
「剣の銘でバレるだろ!」
「しまった!!」
ヘリスがヤスの完全犯罪をあっさり論破するなかで、セイジは疑問が増える。
(いや、あそこにあったのは二本セットのはず...)
「ヤス、それを盗んだのはいつ?」
「みんなでステラのお嬢さんと家政婦のミルダさんを救出した時っす」
それはおかしかった。セイジが屋敷に飾ってあったのを確認した後に盗んだのなら、ヤスの発言は辻褄が合うが、その前に一本しかなかったのはおかしい。誰かがヤスより少し前に盗んだことになる。しかし、ステラの屋敷はヤス達が訪れるまでゾンビだらけのはず。ヤスより前に盗むなんて不可能である。
「ヤス、その時、町長の遺体は?」
「町長ですか?あれはびっくりしましたよ。屋敷に突入したら首が切られて死んでいるんですから...」
(ヤスの証言ではステラさん救出時にはすでに死んでいた...じゃあ、リューラン会じゃないのか?装飾剣が凶器かはわからないが、馬鹿なヤスにそれを持たせるはずないし、暗殺に関わる場面にヤスを居合わせるはずもないし...)
謎は深まるが、セイジはヤスが犯人の可能性はとりあえず薄くなったと考察した。
バコン!!
突如、鈍い音が鳴り響く。
「何の音?」
「ゾンビの声じゃないよな...」
「多分、殴った音じゃないかな」
セイジだけがなんとなく察することができた。
コンコン
数度の鈍い音がした後、セイジ達の前にある扉をノックする音がした。
「お待たせしまシタ。周辺のゾンビハ片づけまシタ。出てきても大丈夫デス」
アレックスの声が扉の向こうから聞こえたので、恐る恐る扉を開けてみる。
そこには獣人ゾンビの姿はなく、アレックスだけが立っていた。アレックスのボディには引っ掻かれたような傷はいくつかあるが、パーツの欠損などの目立った損傷はなかった。正確には、倒れて動かない獣人ゾンビが傍らにいた。
「セイジ様ノ言う通り、コレが役に立ちまシタ」
そう言って、アレックスは左手を見せる。左手には木材や布で補強されたプロテクターが付いていた。
セイジはアレックスがスピードで獣人ゾンビに負ける可能性を考え、あえて補強した左手を噛ませ、動かなくなったゾンビを仕留めるよう提案していた。さながら警察犬用の訓練で使っているであろう腕の防具であった。
「ツリーハウスには材料ガたくさんあったのデ、簡単に作れましタ」
「素手で倒したのか?」
「半分イエス、半分ノーです。ツリーハウスに登ってきたゾンビは刃物で倒しました。最後の彼ハ刃物が壊れたので素手で倒しまシタ」
素手でゾンビを倒したと知り、唖然とするヘリス。
「本当に凄いな!やはりこれ...じゃなくてアレックスは世紀の大発見だったんだ!」
ミュージオがアレックスをまじまじと観察しながら興奮している。
「褒め言葉でショウカ?ありがとうございマス」
「ともかく早く脱出しよう。全部倒したわけじゃないんだろ?こっちに来る前に逃げるぞ」
セイジが会話を中断させ、全員で森の外へと走り出す。
(しかしアレックスを仲間にできたのはデカイ!彼の機動性とパワーはゾンビ世界にとっての切り札になりえる...)
セイジは今後のことも模索しながら一目散に森を駆け抜ける。
―数分後―
森を抜けて馬車を停めていた場所に辿り着く。先に森を出ていたリューラン会組員はすでにアズマのところに行かせているため、人の姿はなく、セイジ達が乗ってきた馬車とヤスの馬、そして獣人ゾンビに襲われた組員の馬だけが取り残されていた。
「セイジ、アレックス、ミュージオ、馬車に乗れ!リヴィアとヤスは馬で先に行け!」
セイジが馬に慣れていないこと、ミュージオが衰弱していること、アレックスは乗ったことなさそうということをヘリスは考慮し、一瞬で判断を下す。
「先に行くね、セイジ!」
「お先に失礼します!」
リヴィアとヤスが先行して馬で駆けていく。
「デハ、馬車に乗らせてイタダキマス」
アレックスが馬車に乗ろうと近づくと、
ヒヒーンッ!!
馬車に繋がれた馬が暴れ出す。
「アレックスが怖いのか!」
馬からすれば、いや、人間からしても見たことのない存在であるアレックスの姿は恐ろしく感じても仕方がない。
しかし、馬の鳴き声を聞き、
「■■■■■■!!」
森の奥から獣人ゾンビのうなり声がする。
「まずい!今ので気づかれた!!」
「申し訳ございまセン。私が馬を怖がらせたみたいデス...」
「いいから乗れ!!」
ヘリスは暴れる馬をなんとか制御し、馬車を走り出させる。




