第二十二話 乱入者
―数分後―
セイジ達が森に入って数分、ゾンビに遭遇することはなかった。
「ゾンビはうまく誘導されてるみたいだね」
「作戦はうまくいってると願いたいけど...」
通ってきた木々の上には監視小屋のような場所がいくつかあったが、生きているエルフもゾンビもいなかった。しかし、血痕や木に残された爪痕など争った形跡は多々あったことから、ゾンビの襲撃を受けていたことは判明した。
「もうすぐ集落付近だ。ゾンビがいるならそこに集中しているはずだ」
ヘリスが全員に気を引き締めるように言う。いくら大音量の蓄音石で誘導されているとはいえ、知能が低下しているゾンビは音に向かって一直線な動きしかできない可能性がある。ゆえに、どこかにはまったりして集落から動けていないゾンビもいるかもしれないのだ。
集落への警戒を再認識し、セイジ一行は集落に無事辿り着いた。
集落にはセイジ達の城塞都市のような壁はなく、事前情報の通り、ツリーハウスを橋で連結させて集落を形成していた。地表にも建物がいくつかあり、木の上に運べないようなものを貯蔵する倉庫や観光用の博物館のような大型の建物が目立っていた。
「みなさん、予定通り三人組に分かれて木々などに隠れながらエルフゾンビを索敵してください」
セイジが到着と同時に指示を出す。必ず孤立しないようにするための三人組体制だが、セイジの班だけは四人だった。
セイジ、リヴィア、ヘリス、そしてヤスだった。ヤスが間違えてこちらに来てしまったため、セイジ班に組み込むことになった。
「セイジ、あそこ!」
リヴィアが遠くの高台を指さす。そこにはエルフゾンビがいた。エルフゾンビは蓄音石の音が鳴る方向を向いて、ツリーハウスの落下防止の柵に引っかかっており、セイジ達に気づいていない。
「やっぱりいたか。作戦はうまくいっているみたいだね。リヴィア、頼める?」
「任せて」
そう言うとリヴィアは弓を構えて矢をエルフゾンビに向けて放つ。矢は見事にエルフゾンビの頭に命中し、エルフゾンビはその活動を停止する。
「ここまで音から遠いと流石に移動まではしていないが視線を音に向けることはできるみたいだな」
ヘリスも作戦に感心しながらゾンビを索敵して弓を放っている。他のリューラン会の組員もゾンビの排除を順調に行っていた。
―アズマサイド―
アズマ達は森方面から出てくるゾンビの迎撃を行っていた。蓄音石に誘導されたゾンビが蓄音石に触れて音を止める可能性を排除するためであったが、群がってくるゾンビは大した数ではなかったので、持ってきた弓や槍で容易に対処可能であった。
「組長、そろそろ蓄音石の魔力が尽きるころです」
リューラン会組員がアズマにそう言うと、蓄音石は魔力切れで機能を停止した。
「もう限界か。蓄音石を回収して拠点まで撤退するぞ!」
現在の全員の立ち位置としては、
森(セイジ達)―蓄音石―アズマ達―拠点となっている。
本来、蓄音石は使い捨てを想定していたが、アズマはこの迎撃戦において一人たりともゾンビを蓄音石に近づけさせていないため、蓄音石は無傷であった。今後も何かの役に立つと思い、回収のためにアズマ達は森に近づく。
「何か森から走ってきます!」
森方面に先行していた組員が叫ぶ。アズマが叫んだ組員の先を見ると、確かに何かがこちらに向かって走ってきている。まだ遠いので正体はつかめないが、そのシルエットから人間でないことはわかる。
『それ』はまず背が低かった。否、低いというより、低い姿勢をとっていた。近づいてくることで分かってくるが、『それ』は四足獣のように四つ足で向かってきていたのだ。
「狼か?何にせよセイジ達や他の人間じゃなさそうだな」
アズマの判断は早かった。悪所の長として、武闘派の人間としての最適最速解であった。
「『あれ』に向かって弓を放て!!」
号令とともにリューラン会の組員達は矢を放つ。『それ』は走っていたため、矢は簡単には当たらなかったが、矢を避けることはなかったため、数十発の矢の雨には耐えきれず、『それ』は沈黙した。
アズマは動かなくなった『それ』に警戒しながら近づき、『それ』の正体が判明する。
「狼...じゃない...そういうことか」
『それ』を間近で見たアズマは全てを理解し、組員に命令を与える。
「拠点に急いで戻るぞ。数名は馬を用意して俺についてこい!森の裏手に行く!」
慌てて移動の準備を開始するアズマ達。
(『これ』がまだ森の中にいるとしたら、セイジ達が全滅する!)
『それ』の正体は狼の顔や体毛を持ち、服を着て、手足を持っている人間。エルフに並ぶファンタジー世界の住人、いわゆる「獣人」であった。しかし、アズマ達が殺した獣人は明らかに腐っていた。




