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異世界黙示録〜ISEKAI OF THE DEAD〜  作者: might
Ultimate Choice
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第二十一話 ヤスと書いて○○と呼ぶ

―翌日―


 朝になって、セイジ達は二手に分かれた。アズマを中心としたリューラン会の大多数は拠点側に残り、セイジ、リヴィア、ヘリスとリューラン会組員の数名は森の裏手に回り、森を挟み撃ちにする形に動いた。


「お前たちが反対側に着けたかはこっちからじゃ確認できない。決めた時間が経ったら作戦を始めるぞ!」


「はい、そっちがスタートするまでは中には入らないので大丈夫です」


 セイジ達の作戦はこうだ。


 アズマ達は拠点側で大きな音を立てて陽動を起こし、森内の潜んでいるであろうゾンビ達を拠点側に意識が行くようにする。その間に反対側に移動したセイジ含む少人数で森に潜入。拠点側を向いているゾンビ達を後ろから奇襲し、森内の集落に辿り着き、薬草を採取し、森から離脱する作戦である。


「では、行ってきます」


 アズマに別れを告げ、セイジ達は移動を開始した。 


―拠点サイド―


 セイジ達が移動を開始してから数十分後、アズマが号令をかける。


「よし、そろそろセイジ達は森の裏側のはずだ。おめえら、蓄音石を起動しろ!」


「「「押忍!!」」」


 今回の陽動には、街の奪還にも使われた、音の録音と再生ができる魔術の道具、『蓄音石』が再び使われた。

 街に保存されていた数十個の蓄音石全てを使い、大音量のオーケストラで森のゾンビをおびき出す。おびき出せなくても、意識をアズマサイドに向けることができればいい。

 このように、ゾンビ誘導に大変便利な蓄音石を全て使ってしまうわけであるが、蓄音石自体はライボンの魔術師としての腕と、材料があれば簡単にできるため特に問題ではなかった。


「■■■■■■――――!!」


 森の手前に設置された大量の蓄音石が音を走らせる。アズマ達はこの音におびき出されたゾンビを、半日かけて築きあげた強固なバリケードを張った拠点から安全倒していけばいい。

 唯一の問題は蓄音石の魔力切れである。魔力が切れれば音は鳴らなくなり、森のゾンビは再び森の中を徘徊し、セイジ達を襲うかもしれない。


「あまり時間はないぞ、セイジ...」


 アズマはセイジの対ゾンビ知識の重要性を理解している。薬草を持ち帰れても、セイジが生存していなければ、リューラン会は、街の救世主を見殺しにした役立たずとして扱われる。リューラン会、そして街の悪所連中が暴徒にならないよう制御するためには、この作戦の大成功しかないのであった。だからこそ一人の人間としてではなく、組織の長としてアズマはセイジの身を案じた。


(腕っぷしがあり、まともな奴らをセイジ側に付けたから大丈夫だとは思うが...)


 アズマは自分のした準備と対策に問題はなかったか思い返すが、


「間違えてセイジ側について行った、ヤスだけが不安要素だな...」


 ヤスは馬鹿なのである。


―セイジサイド―

 アズマが蓄音石を起動させる数分前、 


「あれ?ヤスってこっち側だったっけ?」


 移動を開始して数分後にリヴィアがヤスの間違いに気づく。


「俺ってこっち側じゃないんですか?」


 本人はもちろん気づいていなかった。ヤスは馬鹿なのである。

 現在、セイジ達は馬と馬車で移動している。拠点側と違い、特に荷物なるようなものはないため、それなりに速度を出している。

 移動の隊列としては、


前列:リューラン会組員たち(馬) 

中央:ヘリス、セイジ、リヴィア(馬車)

後列:ヤス(馬鹿)


 たまたまリヴィアが後ろを振り向いたから気づけた次第である。


「こっち側のリューラン会の割り当てはアズマ任せだからこれが正解だと思ってた」


 ヘリスはヤスの存在に気づいていたが、特に問題なしと判断していた。


「えーっと...ヤス...さん」


 セイジがヤスに話しかけようとするが、ヤスとちゃんと話すのは初めてなので、ヤスの呼び方に悩んでいる。


「ヤスでいいですよ。俺の方が年下ですし」


「じゃあ、ヤス、君の安全のためにも一人で戻ってもらうわけにもいかないし、かといって誰かに一緒に戻ってもらうほど人数もいないから、このままこっち側で行動してもらうよ?」


「大丈夫っす!」


「ヤス、弓は使えるか?」


「警備兵に毎日教えてもらってます!」


(((つまり使えないのか...)))


 その場の全員が心の中で思った。

 この一か月、警備兵を中心に街の住人達には槍や弓の訓練をさせている。いつどこで感染して隣の人間がゾンビになるかわからない以上、街の住人全てが戦闘の心得を持っていたほうがいいからである。セイジも訓練に参加しているが、まだまだ弓の訓練からは卒業できていない。


「でも、剣は使えますよ。良い剣を手に入れたのでセイジさんの護衛くらいはできます」


 腰に付けている剣を自慢するように見せてくるヤス。その剣はヤクザの下っ端をやっているヤスには似合わない、柄の部分が豪華な装飾で飾られた剣だった。剣を抜いて見せてくれたわけではないが、剣身もきっと豪華なのだろう。しかし、鞘は何の変哲もない木製のため、剣身だけどこからか盗んできた盗品だと誰もが思うが、ヤスは罪悪感を感じさせない明るい表情をしているのであった。


「セイジの護衛にはヘリスがもういるよ」


「じゃあ、ヘリスさんはセイジさんの前と右を、俺は後ろと左につくんで!」


「……」


 ヤスの提案を無視するヘリス。


「じゃあ、私はセイジのどこにいればいいの?」


 リヴィアがヤスのアホトークに参加し始める。


 そんな二人を見ながら、セイジはヤスの姿に目がいく。


(何か違和感というか既視感というか...)


 セイジはヤスを警戒しているわけではないが、何か、ヤスに対してうまく説明できない、後味の悪さのようなものが残っているようだった。


 数十分後、セイジ一行は森の裏側に辿り着き、アズマ達の蓄音石が鳴り響くの待っていた。


「セイジ、森の中では俺の指示に従ってもらう。いくらゾンビに詳しくても、お前は戦いの素人だ。こっちに合わせてもらう」


「わかった...」


 言っていることは正論なのでヘリスの提案を受け入れるセイジ。しかし、ヘリスの言葉には何か圧力を感じるセイジだった。


「こっち側は見る限り、ゾンビはいないね。やっぱり集落の方に集中しているのかな?」


「そもそものゾンビの数が少ないのかもね」


 このエルフの森はそんなに大規模な集落ではない。ましてや、セイジ達の住む城塞都市のような壁があるわけでもないので、ゾンビが密集する理由はないはずである。ゆえに大群を相手にする心配もないはず。


「問題はやっぱりエルフのゾンビか...」


 ゾンビは本能で動く。だから複雑な行動はできず、歩く、掴む、食うくらいの単純な行動しかできない。しかし、エルフゾンビは弓を使える。エルフは頭が良く、太古から弓を使用してきたため、本能で弓を使えるからゾンビになっても使えるというのが、セイジ達の仮説だが、この仮説には多くの疑問点がある。


弓を持っていないエルフゾンビは弓を拾う行動をとるのか?


太古から弓を使ってきているということは太古から弓を作ってきたということ。ゾンビになっても作れるのか?


他の種族にも本能的行動はあるのか?


 考え出したら疑問は尽きなくなる。確認してみたくても、確認するということはゾンビの目の前にいくことになるので、危険が伴う。

 

「□□□□□□――――!!」


「!?」


 セイジがゾンビの考察をしていると遠くから音が鳴り響く。


「これは蓄音石の音か?」


 飛び込み参加したヘリスには蓄音石の音かどうかの判断がつかない。


「森の反対側まで響く音が僕たち以外偶然に鳴らすことなんてないはず」


「よし!作戦開始だね!」


 リヴィアが号令を出し、セイジサイドの全員は森に入っていく。

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