第十九話 募らない!同行者
―次の日(大門前広場)―
広場には『エルフの森』に薬草を採りにいくため、アズマとリューラン会の若衆、セイジ、リヴィアが準備をしていた。
「待て待て、リヴィアも行くのか?」
見送りに来ていたレインがリヴィアが広場で準備していることに驚く。この場にレイン以外の警備兵は来ていない。昨日の話し合いの結果、薬草の採取が失敗した時のことも考えてリューラン会が議会の決定を無視して採りにいくというカタチになった。そこにセイジは街の英雄らしく、住民を助けるため、議会が安全のために動けないなら、自己犠牲精神で同行するシナリオだ。
「はい、行きますけど?」
行くのが当然だという表情でレインの方を振り向くリヴィア。
「セイジ君、どういうことだ?」
問い詰められて焦るセイジ。
「えーっとですね...その...昨日、あの後にリヴィアとも話しまして...」
―昨日(セイジの自室)―
セイジがこの世界に来て以降、自分の家がないため、街の宿屋の一室をタダで借りて生活している。
セイジはレインとアズマとの『エルフの森』への調達の話し合いが終わった後に、自室へと戻って、夜も遅いのでベットで寝ようとしていた。
コンコン!
横になろうとしていたところに、誰かがドアをノックし、訪問してきた。
(こんな時間に誰だろう?)
少し不審に思って、ドア越しに誰であるかを確認をとろうとする。
「どなたですか?」
「セイジ?リヴィアだけど...」
「リヴィア?」
リヴィアだとわかってドアを開ける。
「どうしたの?こんな夜遅くに」
「ごめん、遅くに、明日の出発時間がわからなかったから今訪ねるしかなかったの」
「明日の出発時間?」
出発時間という言葉がリヴィアの口からでるのはおかしい。先ほどの話し合いにリヴィアは参加していない。
「私もさっきまで、集会場の中で仕事しててさ、セイジたちの話聞いちゃった」
一応内密の話だったのでごめんねと謝るリヴィア。
「私も行っていい?」
「駄目です」
「なんで!?」
即答で拒否されるリヴィア。
「危険だからだよ」
それでもリヴィアは諦めず、今度は無言でセイジを見つめて、
リヴィアが なかまに なりたそうに こちらをみている・・・。
なかまに してあげますか?
はい
▶いいえ
がくり、と肩から落ちるリヴィア。
「でも私はセイジの役に立つよ。弓もうまいし、セイジの事情も知ってるから森のガイドにもなれるよ」
今度は普通に自分の売り込みをし始めた。
(確かにハーフエルフであるリヴィアはエルフの森に詳しそうだから、ついて来てくれると頼もしいし、敵がエルフゾンビであるなら弓がうまいリヴィアは戦力になる)
とはいえ、女の子に危険地帯についてこいと言うのは男として気が引けるのであった。しかし、前回の作戦の件からリヴィアに対して恩義を感じているセイジはあまりリヴィアに対して強く言えない。
ぐぬぬという表情をするセイジをみて、あと一押しだと思ったリヴィアは、
「エルフゾンビと会ったことあるのは私と大工のおじさんたちだけだよ。経験者がいた方が良いでしょう?」
メリット、デメリットの話では断れそうになくなったので、セイジは別の方向性から断れないか模索しようとする。
「で、でも、どうして一緒に行きたいの?」
「それは...えーっとね...」
質問されるとモジモジと恥ずかしそうな表情をするリヴィア。
「話してるのを盗み聞きした時、セイジがまたひとりで無茶をしようとしてるんじゃないかと思って、心配になっちゃって...」
自分のことでまた心配させていたことに申し訳ない気持ちになるセイジ、リヴィアの厚意を素直に受け取ろうと考えを改めようとした。
「それにね...ここ数日、セイジと話せてなかったから...」
セイジはこの一か月間、街の復興のために尽力し、リヴィアとまともに話す機会がなかった。さらにはステラの小間使いのようなこともしていたため、リヴィアとしてはセイジがステラに盗られたみたいで、気持ちが穏やかでない。
顔を赤らめて言うリヴィアを見てセイジも顔を赤くしてしまい、真っ赤になった顔を見られたくなくてリヴィアから顔をそらしてしまう。
(リヴィアが可愛すぎる...ハーフエルフの美人にそんなこと言われるなんて反則だろ!!)
「でも、ちゃんとやるよ!街のみんなの命が懸かってるからね!」
こんな感じで、セイジは承諾した。せざるを得なかった。
リヴィアが仲間に加わった!
―現在―
「話し合いの結果、リヴィアは『エルフの森』の攻略に欠かせないと思い、同行してもらうことになりました」
「セイジがどうしてもと言うんで!!」
「言ってない!」
「しかし、セイジだけでなくリヴィアも行くとなるとな...」
リューラン会の構成員の中に兵士でもないセイジとリヴィアを入れるのは警備の長として同意はできない。しかし、リヴィアがこちらが行くなと言っても聞くとは思えない。
「なら自分が同行します」
悩んでいるレインのところに助け船が現れた。警備兵のヘリスだった。
「ヘリス...」
ヘリスの登場にセイジは気まずそうな顔になる。
「自分が二人の護衛を行います」
「ヘリス...この件を知っていたのか?」
「はい、昨日の会話を偶然聞きました」
どうやらリヴィアだけでなくヘリスにも聞かれていたらしい。
(今度から秘密の会話をする場合はちゃんと場所を選ぼう)
そう思うセイジであった。
「昨日の台本に『二人の安全性を考えて、新米兵士が後先考えず突っ走った』でどうですか?」
ヘリスの提案にレインは少し考えてから、口を開いた。
「ヘリス、協力してくれるのはありがたいが、これは任務としては扱えない。自己責任で動いてもらうしかない」
「わかっています。新米兵士らしくバカをしますよ」
そう言ってヘリスは準備をし始めた。その様子を少し距離を置いた場所から見るセイジ。
「セイジ、ヘリスと話し合うチャンスだよ。これを期に打ち解けちゃおうよ」
「うん...そうだね...」
暗い表情のセイジ。
「それには私も同意見だ。だからヘリス同行の許可を出した」
レインがセイジとリヴィアの会話に参加する。
「レインさん...」
「君とヘリスの間にある溝は埋めた方が良い。君はこの街の救世主だ。この街の生存に君は不可欠だと私は思う。ヘリスとの関係性が君を悩ませるものなら、それは解消しておくべきだ。そして、君たちの溝は解消できるものだ」
「そうだよ。これからずっとこの街で生活していくのに、悩み続けるなんて、禿げるよ?」
少し茶化しを入れながらもセイジを心配してくれるリヴィア。
「そうだね、その通りだ。ありがとう、リヴィア。レインさんもありがとうございます。ヘリスと話してみます」
「ああ、その意気だ。しっかりやるんだぞ」
再び、『エルフの森』へ行く準備をし始めるためにレインの元を去っていくセイジとリヴィア。そんな二人の後ろ姿を見ながらレインが呟く。
「しっかりやるんだぞ、セイジ君。ガウが死んだことを君が悩み続ける必要はない。ましてや、弟のヘリスに後ろめたい気持ちを持つ必要もない」