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異世界黙示録〜ISEKAI OF THE DEAD〜  作者: might
Ultimate Choice
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第十七話 不穏と疑念

―大門前広場―


 セイジはステラの屋敷を出た後、大門前の広場に来ていた。

 現在、広場は街で一番賑やかな場所となっている。外への物資調達準備の拠点となっている。ボンドが即席で建てた馬の厩舎や、物資を貯蔵する倉庫、大門から再びゾンビが侵入した際のバリケードなど一番復興が進んでいる場所でもあった。そして、パンデミック後の死者たちを弔う慰霊碑もこの広場に建てられた。

 

「レインさん!」


 セイジは広場で警備兵の指揮を執っているレインを見つけ、話しかける。


「セイジ君か、ステラの体調はどうだった?」


「今日は体調も良さそうで、渡した資料を読んでましたよ」


「あの子も父親の跡を継ぐ重荷を感じているんだろうな。体調が悪いなら回復に専念してほしいんだがな」


 レインのステラを心配する表情はお父さんのようだった。


「そうだ、ステラさんのお父さんのことで聞きたいことがあるんですが...」


 セイジは町長であるステラの父親のことを何も知らない。すでに亡くなっているため、当然なのだが、さきほどの家政婦のミルダの別れ際の表情が少し気になり、一か月前の作戦終了後の犠牲者の死体回収の指揮を執っていたレインに話を聞こうとしていた。


「町長がどうかしたのか?」


「いえ、町長もゾンビになったとミルダさんから聞いたので、その後どうなったのかと思いまして」


 ミルダからは町長がゾンビになった後のことを聞いていなかったので、ちゃんと遺体に戻されたのか、それともまだゾンビとして徘徊しているのかがセイジの気がかりだった。

 父親がまだゾンビで徘徊しているのであれば、どうにか見つけ出して、ちゃんと死なせて、弔ってあげたいと考えていた。


「町長なら他の者たちと同じように火葬したよ」


「よかった。ちゃんと弔うことができたんですね」


「ああ、よく覚えているよ。私が町長を確認した際にはすでに死体だった...そうか、やはり町長はゾンビになっていたのか...」


「レインさんは町長がゾンビになっていたことを知らなかったんですか?」


「ゾンビになっていたとは思っていたよ。ただ、他のゾンビになった者たちの遺体と違って顔色の悪さとか目の充血とかゾンビ化の症状が少なかったから、ちょっと違和感を感じていたんだ」


「ゾンビ化してすぐ殺されたら、見た目の症状が少ないんですかね」


 これには、自分で言っておいてセイジも疑問を浮かべていた。ゾンビ化の症状はゾンビになった時点で末期状態ではないだろうか。ゾンビになった後ですぐ殺したから症状が少ないことなどあるのだろうか。もしくは生物的な個人差によるものだろうか。


「ゾンビの症状のことは分からないが、町長の遺体は頭と胴体が真っ二つの状態で運ばれてきたから、一瞬事件の匂いを感じたよ」


「真っ二つ!?」


「町長はその地位のせいもあって人から恨まれることも多かったからね。ゾンビ騒動に乗じて殺害されたかとも思った。だが、ミルダの証言でゾンビになっていたということなら、他の者と同様に仕方なく殺されたんだな」


「でも、首を切り離して殺す必要はないと思いますが...」


 セイジたちは作戦の際に確認していた。ゾンビの弱点は頭であり、頭だけにしても、活動し続けることを。確認できたあと、住民たちにゾンビを殺す際には必ず脳を破壊することを周知していた。


「ああ、悍ましい殺し方だ。町長の遺体を運んできたのもリューラン会の奴らだったから、日ごろの町長への恨みから遺体を弄んだのかと睨んでいる」


「リューラン会...」


 この事実はステラに言うわけにはいけない。リューラン会のトップであるアズマが議会に居続けることが、セイジの描くこの街の生存の道。ステラに自分の父親の遺体がリューラン会に弄ばれたと知れれば、ステラのリューラン会への印象は地に落ちるだろう。そうすればアズマは議会から除籍され、悪所連中の抑えは効かなくなり、街は崩壊するだろう。


「レインさん、町長の遺体の件をステラさんに伝わらないようにすることはできますか?」


「すでに遺体の火葬に関わった部下たちには口止めしている。しかし、遺体を運んできたリューラン会は無理だな。いつかステラの耳にも入るだろう」


 レインもセイジと同じ結論に至っており、既に行動に出ていた。だからこそ、騒ぎにならないようにリューラン会の行為を今まで黙認していたのであろう。

 しかし、リューラン会の口止めができない以上、アズマの議会残しの作戦は失敗に終わってしまう。一から街の生存方法を練らなければならなくなった。


「アズマにも内密に相談しておく。どこまで口止めできるかわからんが、時間を稼ぐしか今はないだろう」


「はい、お願いします...」


 セイジは自身の考えた生存戦略が台無しになったことを知り、ショックを受けている。

 

「開門~!!大門を開けろ~!!」


 セイジの落胆とは真逆の騒がしい大声が広場に響く。

 外に物資調達に出ていた調達班が戻ってきたのだ。


「話の途中だが、すまないセイジ君、調達班のところに戻らせてもらう」


「僕も行きます」


 セイジがレインの元を訪れた理由のひとつがこの調達班のことだった。この一か月、何度も外に調達班を出している。街の近隣の集落を探索するだけの調達だったが、順調にこの街に足りない物資の確保を行うことはできているが、街の外の小さな集落はすでにゾンビに襲われた形跡があり、今のところ生存者は見つかっていない。

 今回の調達は今までの調達とは違い、外に泊まり込みでこの街から少し離れた大きな街や集落を探索するものだった。ゾンビパンデミックにおいて今までで一番新鮮な外の情報を得る機会であるため、セイジはいち早く、調達から返ってきたメンバーに話を聞きたかった。メンバーの多くはレインの部下である警備兵のため、レイン立ち合いのもと、話を聞こうとしていた。


「レインさん、ただいま帰還致しました」


 帰ってきた調達班のリーダーがレインに帰還報告を行っている。


「損害は?」


「メンバー全員無事です。怪我を負った者も体調不良の者もいません!」


「そうか、無事で何よりだ。報告は中で聞こう。他の者は装備の点検が済み次第休んでくれ」


―警備兵詰め所―


 セイジとレインが調達班のリーダーから話を聞く。


「報告をしてくれ」


「遠征の計画通り、王都方面の東に行きました。馬車もあったため悪路は選ばず、街道を移動しました。街道沿いにある集落を見て回りましたが、どこも死体かゾンビがいるだけで、生存者はいませんでした」


「死体とゾンビの数はどうでした?」


 セイジが調達班のリーダーに質問する。


「数ですか?」


「調べた集落の元々の人口と比べてどうでしたか?」


「死体とゾンビの数は少なかったです」


「つまり生き残った者たちが逃げている可能性があるわけだな」


「この街も街道に接していますから、大勢の生存者が移動していれば、気づいているはずです」


「ということは生存者がいるとして、多くは東側、王都方面に逃げているわけか」


「確かに私もセイジ殿やレインさんの指示がなければ、街から逃げ出す際は王都の加護を求めて東に移動しますね」


 生存者がいる可能性があるということは喜ばしいことである。しかし、今回の場合には少し懸念すべき点がある。


「王都はこの街のような要塞都市、人があふれ返り、ゾンビが侵入すればこの街の二の舞になりますね」


 口を挟んできたのは、調達班に参加していた若い警備兵のひとりだった。


「ヘリス...」


 セイジが彼の名前を呟く。しかし、ヘリスと呼ばれた青年はセイジを無視して話を続ける。


「警備長、以前話していたこの街が壊滅に陥った時の避難場所に東側は指定しない方が良いかもしれませんね」


「ああ、そうだな」


「話に割り込んで申し訳ございません。警備長、全員装備点検完了いたしました」


「報告ご苦労、休んでくれ」


「失礼します」


 そう言うと、ヘリスは部屋をあとにする。


「セイジ君、ヘリスとはまだちゃんと話はできていないのかい?」


「はい...」


 暗い表情をするセイジ。


「えっと...」


 状況が呑み込めず、困惑する調達班のリーダー。


「いや、気にするな、報告を続けてくれ」


 報告はその後も続いた。

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