第十五話 新たなる作戦
―1か月後―
セイジがこの世界に来てからひと月。セイジたちは作戦が成功した後、集会所を拠点とし、街に残ったゾンビの掃討を始めた。家屋を一軒一軒くまなく捜索した。家だけでなく、瓦礫の中、川底まで隅々とゾンビがいないことを確認した。
セイジは捜索の際のルールをいくつか決めていた。
「捜索の基本は作戦の時と同じです。建物を調べるときは入る前に音を出してゾンビがいないか確認してください」
「どこを捜索するにしても必ず2人以上で行動してください。どんなときも絶対に1人にはならないでください」
「そして、できることなら家族、友人だけでの行動はしないでください」
セイジが懸念していたことは行方不明の家族、友人を捜索した際に、相手がゾンビになっていて、動揺して噛まれることが一番心配だった。
そしてセイジは街の住民には自分の指示であることは伏せていた。確かにセイジの作戦によって街の壊滅は防ぐことに成功している。セイジは英雄として扱われてもいいはずである。英雄の言葉は誰でも従ってくれるはずだが、セイジは街の英雄扱いされるのを断った。自身はあくまでもよそ者。街の新人でしかない。そんな男がいきなり、街のリーダー格になったら、例え、英雄であることが事実でも、「ゾンビ騒動の原因はセイジで、それを解決することで街を乗っ取る」という噂が流れる可能性があったからである。だからセイジは「遠くの国からきた旅人がこの街でゾンビ騒動に巻き込まれ、帰る手段がなくなったので、街の奪還にチカラを貸して街の仲間になる」という設定にした。幸いなことにこの街は、この国の首都に繋がる街道沿いにある街であり、王都への行き来の途中に旅人が寄ることの多い、商業と宿場を生業とする街であった。だからセイジの作った設定に似た状況の故郷に帰るのが困難な者も多く街にいたため、簡単に信じられた。
街の意思決定は前回の作戦のチームリーダーたちの臨時ではあるが議会制となった。ボンド、レイン、アズマ、ライボン、そして、セイジはこっそりと会議のときにだけ参加し、助言をした。しかし、この議会制にはもう一人メンバーがいる。彼女の名はステラ。彼女は町長の一人娘であると同時に、街のナンバー2であった。この世界にも世襲制は存在するが、彼女は持ち前の政治力で22歳という若さでナンバー2になっている。だがこのゾンビパンデミックの緊急事態に彼女は議会に参加していない。そして、ナンバー1である町長が議会に参加していないことにも関係していた。
町長はすでに死んでいた。そして娘のステラは町長がゾンビに襲われて死ぬ瞬間とゾンビになって人を襲う瞬間を目撃し、ショックを受けて寝込んでいる。今はステラは自宅のお屋敷で家政婦さんに看病されている。
―ステラの屋敷―
「すいません。ミルダさん。ステラさんは起きてますか」
セイジはステラの屋敷を訪れていた。家政婦のミルダにステラに面会ができるか伺っている。
「はい。今日はお嬢様の体調は良さそうですから大丈夫そうです」
「ありがとうございます」
セイジはステラの寝室に案内され、セイジはノックをする。
「どうぞ」
ドア越しに綺麗で透き通った女性の声がする。
「失礼します」
セイジは許可を貰って入室する。そこにはベットに入るが、上半身を起こし、顔色は悪いが、真剣な顔で書類に目を通している凛々しく、美しい女性がいた。
「セイジ。議事録を持ってきてくれたのね。いつもありがとう」
セイジは議会で決まったことを書いた議事録をステラのところを持っていくことにしている。どうしてセイジがこの役割を担っているかというと、会議に出れないステラをメンバーに加えたのはセイジっだったのである。
―1か月前―
議会制にした際にセイジはステラをメンバーにすることと、議会制はあくまで臨時制であることを住民に伝えることを提案した。
「議会に来れない奴をメンバーにするのはどうなんだ?しかも議会は臨時制ってのはどういう意味だ?「元・街のナンバー2」の肩書にもう意味はないだろ」
アズマはこの提案に苦言を呈した。
「誰もが簡単に新しい世界を受け入れられるわけではないはずです。旧世界の仕組みを残したまま、新しい世界に慣れさせなければなりません。ならば元々の街の権力者はメンバーに加えるべきです。例え参加できなくても」
「じゃあ、臨時制というのはなんだ?臨時なら、体調が良くなったら、結局、ステラの嬢ちゃんが街のトップになって終わりじゃないのか?」
ボンドも疑問を口にする。
「そこなんです。今、街がリーダー不在でまとまっているのは、生きるため仕方なくです。アズマさんのような悪所の人間を受け入れない方もいれば、国の法が機能しなくなった今、暴力で物事を解決しようとする人もでてくるでしょう。」
「悪所の代表である俺が街の議会に参加していれば、暴動を避けられるということか」
「そして『臨時の議会制』と言っておけば悪所を受けいれられない人も、今だけだからと、制御できるな」
「これは街の延命措置です。ステラさんが復帰したらどうなるかはわかりませんが、僕はアズマさんとステラさんの両方がいる議会制がこの街が生き残る条件だと思っています」
「セイジ、お前は一体...」
「どうしました?」
「いや、いい...」
アズマはセイジに問いかけようとしてやめた。セイジの話は納得も理解もできた。だからこそ、この青年が何者なのかが気になった。よそ者の青年がゾンビ騒動に巻き込まれ、街の奪還に手を貸し、今度は街の維持にチカラを尽くしている。20にも満たない歳の青年の行動力ではない。しかし、何者なのか聞いたところで、その答えが本当か嘘かわからないので質問をするのをやめた。
「ステラさんの体調不良は不幸中の幸いです。この期間の間にアズマさんは議会に残れるように街の信頼を勝ち取ってください。僕はステラさんに議会制を続けることと、アズマさんが残れるように説得をしていきます」
そう、これはセイジの街が生き残るための新たな作戦なのである。―1か月後―
セイジがこの世界に来てからひと月。セイジたちは作戦が成功した後、集会所を拠点とし、街に残ったゾンビの掃討を始めた。家屋を一軒一軒くまなく捜索した。家だけでなく、瓦礫の中、川底まで隅々とゾンビがいないことを確認した。
セイジは捜索の際のルールをいくつか決めていた。
「捜索の基本は作戦の時と同じです。建物を調べるときは入る前に音を出してゾンビがいないか確認してください」
「どこを捜索するにしても必ず2人以上で行動してください。どんなときも絶対に1人にはならないでください」
「そして、できることなら家族、友人だけでの行動はしないでください」
セイジが懸念していたことは行方不明の家族、友人を捜索した際に、相手がゾンビになっていて、動揺して噛まれることが一番心配だった。
そしてセイジは街の住民には自分の指示であることは伏せていた。確かにセイジの作戦によって街の壊滅は防ぐことに成功している。セイジは英雄として扱われてもいいはずである。英雄の言葉は誰でも従ってくれるはずだが、セイジは街の英雄扱いされるのを断った。自身はあくまでもよそ者。街の新人でしかない。そんな男がいきなり、街のリーダー格になったら、例え、英雄であることが事実でも、「ゾンビ騒動の原因はセイジで、それを解決することで街を乗っ取る」という噂が流れる可能性があったからである。だからセイジは「遠くの国からきた旅人がこの街でゾンビ騒動に巻き込まれ、帰る手段がなくなったので、街の奪還にチカラを貸して街の仲間になる」という設定にした。幸いなことにこの街は、この国の首都に繋がる街道沿いにある街であり、王都への行き来の途中に旅人が寄ることの多い、商業と宿場を生業とする街であった。だからセイジの作った設定に似た状況の故郷に帰るのが困難な者も多く街にいたため、簡単に信じられた。
街の意思決定は前回の作戦のチームリーダーたちの臨時ではあるが議会制となった。ボンド、レイン、アズマ、ライボン、そして、セイジはこっそりと会議のときにだけ参加し、助言をした。しかし、この議会制にはもう一人メンバーがいる。彼女の名はステラ。彼女は町長の一人娘であると同時に、街のナンバー2であった。この世界にも世襲制は存在するが、彼女は持ち前の政治力で22歳という若さでナンバー2になっている。だがこのゾンビパンデミックの緊急事態に彼女は議会に参加していない。そして、ナンバー1である町長が議会に参加していないことにも関係していた。
町長はすでに死んでいた。そして娘のステラは町長がゾンビに襲われて死ぬ瞬間とゾンビになって人を襲う瞬間を目撃し、ショックを受けて寝込んでいる。今はステラは自宅のお屋敷で家政婦さんに看病されている。
―ステラの屋敷―
「すいません。ミルダさん。ステラさんは起きてますか」
セイジはステラの屋敷を訪れていた。家政婦のミルダにステラに面会ができるか伺っている。
「はい。今日はお嬢様の体調は良さそうですから大丈夫そうです」
「ありがとうございます」
セイジはステラの寝室に案内され、セイジはノックをする。
「どうぞ」
ドア越しに綺麗で透き通った女性の声がする。
「失礼します」
セイジは許可を貰って入室する。そこにはベットに入るが、上半身を起こし、顔色は悪いが、真剣な顔で書類に目を通している凛々しく、美しい女性がいた。
「セイジ。議事録を持ってきてくれたのね。いつもありがとう」
セイジは議会で決まったことを書いた議事録をステラのところを持っていくことにしている。どうしてセイジがこの役割を担っているかというと、会議に出れないステラをメンバーに加えたのはセイジっだったのである。
―一か月前―
議会制にした際にセイジはステラをメンバーにすることと、議会制はあくまで臨時制であることを住民に伝えることを提案した。
「議会に来れない奴をメンバーにするのはどうなんだ?しかも議会は臨時制ってのはどういう意味だ?「元・街のナンバー2」の肩書にもう意味はないだろ」
アズマはこの提案に苦言を呈した。
「誰もが簡単に新しい世界を受け入れられるわけではないはずです。旧世界の仕組みを残したまま、新しい世界に慣れさせなければなりません。ならば元々の街の権力者はメンバーに加えるべきです。例え参加できなくても」
「じゃあ、臨時制というのはなんだ?臨時なら、体調が良くなったら、結局、ステラの嬢ちゃんが街のトップになって終わりじゃないのか?」
ボンドも疑問を口にする。
「そこなんです。今、街がリーダー不在でまとまっているのは、生きるため仕方なくです。アズマさんのような悪所の人間を受け入れない方もいれば、国の法が機能しなくなった今、暴力で物事を解決しようとする人もでてくるでしょう。」
「悪所の代表である俺が街の議会に参加していれば、暴動を避けられるということか」
「そして『臨時の議会制』と言っておけば悪所を受けいれられない人も、今だけだからと、制御できるな」
「これは街の延命措置です。ステラさんが復帰したらどうなるかはわかりませんが、僕はアズマさんとステラさんの両方がいる議会制がこの街が生き残る条件だと思っています」
「セイジ、お前は一体...」
「どうしました?」
「いや、いい...」
アズマはセイジに問いかけようとしてやめた。セイジの話は納得も理解もできた。だからこそ、この青年が何者なのかが気になった。よそ者の青年がゾンビ騒動に巻き込まれ、街の奪還に手を貸し、今度は街の維持にチカラを尽くしている。20にも満たない歳の青年の行動力ではない。しかし、何者なのか聞いたところで、その答えが本当か嘘かわからないので質問をするのをやめた。
「ステラさんの体調不良は不幸中の幸いです。この期間の間にアズマさんは議会に残れるように街の信頼を勝ち取ってください。僕はステラさんに議会制を続けることと、アズマさんが残れるように説得をしていきます」
そう、これはセイジによる街が生き残るための新たな作戦なのである。
アズマは仕方がないとセイジの作戦を受け入れるが、最後にステラの、街長の娘には似つかわしくない異名を口にする。
「『首斬りステラ』の信頼を勝ち取るのは相当難しいぞ」