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第二話 悪魔の生贄


 ふと気が付けば、深い闇の世界に俺はいた。

 星の光ほどの光源すらなく、視界はどこまでも暗い。

 おそらく、地上ではないだろう。考えられるとしたら地下か。


 気分は茫漠としていて、頭の働きも鈍い。

 まるで夢の中にいるような感じだ。

 それでも、明晰夢程度には思考できる。

 自分が今どんな状態にあるのかも理解できた。


 絶賛落下中である。

 天地の曖昧な暗闇の中でフリーフォール状態なのだ。

 重力のような抗えない力に引かれ、下へ下へと堕ちている。

 俺はなぜこんな状況に置かれている?


 まあ夢だと思えばこの脈絡のない状況にも納得である。

 特に恐怖も感じないしな。


 ぼんやり考え事をしていると、聴覚が異常を捉えた。

 低く掠れた、人の声のような音が聞こえたのだ。

 最初は気のせいかと思った。しかしその声は徐々に強くなってくる。

 そして遂に、


「ニエ……魔ニ捧ゲラレシ贄ヨ……」


 はっきり理解できる言葉で聞こえた。聞こえて、しまった。

 次の瞬間。

 目の前の闇が横に裂け、大きく口を開けた!


 それは比喩でも何でもない。

 人間、あるいは動物のものと思しき巨大な口が唐突に出現したのだ。

 あまりにもシュールと言うか、正気度を損ねそうな光景である。


 人ひとりを一飲みにできそうなその口腔内には、鋭いギザギザの歯並びが見て取れる。

 その凶悪さはまるで鮫の顎のよう。

 もし噛み付かれたら、ひとたまりもなさそうだ。


 大口は徐々にこちらへと近づいてくる。

 意図は明らかだ。


 ――俺を、食うつもりか!


「汝ガ魂ヲ……ワレニ捧ゲヨ!」


 俺の予想を裏付けるような宣告と共に、大口がぐわっと襲いかかってくる。

 これにはさすがに恐怖を感じた。

 しかし避ける事はできない。なぜなら、いかにも夢の中らしく体の自由がほとんど利かないからだ。


 大口の凶悪そうな上顎が視界を覆い――

 がちん、と硬質な音を立てて閉じられた。


(ぎっ……ガァァァアアアアアアアァァァァッッ!!? いたいイタイ痛い!!!)


 魂を引き裂くような激痛が俺を襲う。

 堪えきれずに叫ぶも、声にはならなかった。


 これは夢ではなく現実。そして化け物に左半身を喰われた。

 そう理解した時には、再び大口が(あぎと)を開いていた。


 ――これが閉じられた時、俺という存在は消えてなくなる。


 脳裏にそんな予感が閃く。

 俺は深甚な恐怖を抱き――すぐにそれは激甚な怒りへと変わった。


(ふざけんなッ! こんなワケのわからん所で、クソ化け物なんぞに食われてたまるか!! 動け俺の体! 今すぐヤツを殺すッ! 殺される前に殺してヤルッ!!)


 声が出せないと知りつつも、俺は荒れ狂う感情に任せて叫んだ。


《――固有スキル【悪魔の品格:憤怒】が発現しました》


 突如、【事象の声】スキルによるアナウンスが脳裏に響いた。


 すわ何事かと思う間もなく全身が熱く滾り、一瞬にして業火に包まれる。


「ギュワァァァアアアアァァ!!?」


 怪鳥のような悲鳴をあげ、大口が俺から離れた。

 俺から発した炎を至近で浴びたようだ。

 横目で確認すると、移り火したのか大口も派手に燃えていた。


(くくっ、何がなんだかよく解らんが……ざまぁ、みや、が……れ……)


 いい気味だ、と溜飲を下げたところで、意識が限界を迎える。

 魂が燃え尽きようとしているのだと、なぜか理解できた。

 ある意味自殺のような終わり方だが、気分は悪くない。


 俺は意識を手放した。






《――固有スキル【夢幻転生】が発動しました。転生処理を開始します……エラー。魂魄の多大な損傷および変質を確認。種族情報を読み取れません。例外事案第四項に該当。魂魄を圧縮し再定義します……成功。オラクルレコードより生体発生情報を限定取得。抽出した候補素体群に対し、魂魄のランダム転移を実行します……成功。転生処理を完了しました》


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