豊穣の秋は実りの頃に
季節が流れて、少したった喫茶店のお話。前のお話と合わせて見てもらえるとより雰囲気が楽しめると思います。
いつまで続くかわからなかった夏が終わりを告げ、気がつけば、蝉の声は聞こえなり、寂しさすら感じ始める。たまに来る残暑が夏と秋の間を行き来して、本格的な秋はまだ先だと思う頃。私はいつも通り、駅と喫茶店までの道を行き来する日々を過ごしていた。
そんなある日。
「いらっしゃい。あぁ、あんたか休日に来るのは珍しいな」
「暇だしね。それはそうと、今日やけに電車混んでたんだけど、何かしら?」
「あぁ、そういえば近くの学校の文化祭だったな」
「へぇ。それで学生ばっかりだったのね」
「今日はカウンターになんだな」
「そりゃ、休日に来たのに窓側じゃ学生の声がうるさくてくつろげないし」
「平日の昼間から珈琲飲みながらくつろぐあんたのセリフとは思えんな」
「休日と平日じゃ休みの意味も変わるでしょ」
「なんにしても、常連<あんた>らしいな」
すっかりとこの会話も普通になってきた。季節が変わってもこれは変わらない。なんにしてもいつも通りだ。と思った矢先。
「…あら?誰か来たみたい」
「うーん?今日は荷物とかないし、なんだろ」
「お客様だとは思わないのね…」
どうやら、声の主は女性のようで、この珈琲喫茶店の入り口を探しているようだ。実際、この喫茶店の入り口は見つけにくいが。
「…あ、ここでしたか!」
…少しすると場所がわかったらしい。
階段を登ってくる音が聞こえてきた。そして、声の主がやってきた。
「ここです!ここです!…あ、怪しいものではないですよ!はい!」
本当に口でそう言う人は始めてみたが、今日ばかりはいつも通りではないようだ。
「ここって、喫茶店であってますよね…?」
「あってるわよ」
「そうだよー、個人経営のひっそりとした喫茶店だよー」
確かに、外から見て本当に喫茶店かどうか怪しいだろう。入る場所もわかりにくいのもそうだが。
「あぁ。よかったです、間違えてたら失礼ですし…」
「とりあえず、突っ立てないで座ったら?」
「あ、はい!では、失礼します…っとぉお!?」
そんなに段差はなかったが、彼女は盛大に転ろんだ。
「ちょっと、大丈夫?」
「えへへ、大丈夫です!慣れてますから!あ、荷物は大丈夫かな…?」
どうやら、日常のようだ。よくこの喫茶店の階段を無事に上がってこれたものである。
「お客さん、大丈夫?」
「あ、はい!大丈夫です!荷物も無事でした!」
「なら、良し!あ、お水置いとくね」
「あ、ありがとうございます~」
「あと、メニュー表。注文決まったら、教えてください」
「…なんか、親切ね」
「久々の常連以外のお客さんだからなぁ」
何故か附に落ちないわね
「…そんなに久々なんですか?」
彼女が恐る恐る聞いていたが、逆にあっさりと店主は答えた。
「うん。ここ2、3か月では久々だね」
「…」
「そんなに来てないのによく大丈夫よね。この店」
「まぁ、色々コスト削減してるしな…」
「へぇ」
「えぇと、そうですね…どれにしよう」
話題がまずかったと思っているのか、メニューに目をそらしていた。
「…そういえば、貴女はどうしてここに来たの?」
「…あ!本来の目的を忘れてました!」
「え?やっぱり、家賃振り込み忘れてた?」
「え!?違いますよ!?私は取り立てとかそういうものではありません!」
「いや、店主の振りだから気にしたら駄目よ」
「えぇ!?あ、そうなんですね~」
この子を見てて、普段は大丈夫なのか少し心配なってきた。
「で、久々のお客さんはどんな目的で?」
「はい。実は私こんなものでして…」
そういうと、ポケットから名刺を取り出して、店主と私に渡した。
「ブロガー…?」
「はい!枝川まめ子と申します!」
「…」
「ブログとかってよくわかんないんだよなぁ」
「えぇと…あ、ページはこんな感じです」
あまりにもよっくわかってなかった店主に向けてPCの画面を見せる。
「個性的な名前だねぇ」
「はい!自分の名前にちなんで考えました!」
「まめ子のコマメ枝豆まめ豆ブログ…で、これが喫茶店となんか関わりが?」
「はい!えっとですね。カフェとか喫茶店巡りをしながら、過ごしてるのですが、
そこでよさげなお店を見つけてはブログで紹介してるんです!」
「…」
「ほう」
「それでこのお店を紹介してもいいでしょうか?」
「うん。別に問題ないよ」
「はい!ありがとうございます……あと店主さん」
「ん?」
「……」
「なんか、常連さん怒ってませんか……?」
「あぁ、もしかして拗ねてる?」
「違うわよ……」
少し考えていた。確かに、この喫茶店をいろんな人に知ってもらって来てもらえば店主的にはいいだろう。でも、もしそうなってしまったら、この場所もどこにでもある喫茶店と変わらないじゃないかと思ってしまっている私がいる。
「えっと……あの!私、さっきの話を聞いてこのお店の力になれれば……いや、なりたいんです!」
「……いいことだと思うわ。でもね」
彼女の意見は正論で、それに比べて私は子供っぽい理由で……でもこれだけは言いたい。
「ごめんなさいね」
「え?」
「貴女はとても、正しいことを述べてるわ。でも、どこにでもある喫茶店にここもなってしまいそうで、それがちょっと嫌だったの。わがままかもしれないけど」
あぁ、私はどうしたいのだろう。よく考えたら、ここに来ることが当たり前すぎて……この場所が安らげる場所じゃなければ私はどこに向かうのだろう?慣れすぎてしまったこの場所がなくなりそうで、そんなわけでもないはずなのに。
「……」
「……」
せっかく来てくれたのに、気まずい感じにしてしまった。この雰囲気から私は逃げるように席を立とうとしたときだった。
「はいはい。二人とも、難しい話はそこまでにして」
店主はコーヒーを二つテーブルに置いた。
「新作だから飲んでみて」
「ありがとうございます……」
「ありがと……」
新作というそのコーヒーをゆっくり飲んでみる
「……おいしいです」
「いつもと違う感じでこれはこれでいいわね」
「喜んでもらってよかったよかった。あとお二人さん」
「はい」
「何?」
「個人的な意見だけど、別にあんまりお客さんが来てないことは気にしてないし、どちらかというと」
店主は私たちを見てさらに一言付け加える
「こうやって、おいしいって喜んでもらえることが嬉しいから問題ないよ」
「……はい!」
「そうね。店主はそういう人よね」
「あと、常連」
「ん?」
「さっきのことはあんたなりの気持ちとして受け取っておくよ」
「う……思い起こすと恥ずかしいから!受け取らなくてもいいわよ!」
ある意味思い出深い出来事になってしまった。
「……あの」
しばらくして彼女が声をかけてきた。
「さっきはごめんなさ……」
その言葉の続きを私は遮った。
「別に貴女が謝ることはないわ。こっちこそ、ごめんなさいね」
「……」
「……」
「あはは」
「ふふっ」
「……今でも、こういう場所があるのにいいですね」
「また来ればいいじゃない」
「そうですね……」
ふと沈黙のあと、彼女は続けて
「実は今日ここに来たのは近くの母校の文化祭に来るついでだったんです」
「文化祭って近くでやってるってやつ?」
「はい。ちょっとした報告に行ってました」
「報告?」
「やっと、夢の入り口に着いたって報告です」
彼女の口から出た言葉は思っていたよりも強い気持ちがこもっていた。
「実は、私。大学で学校の先生になる勉強をしてるんです」
「へぇ、教師なるって、ものすごく大変じゃない?」
「えへへ…大変でした。でも、そこに辿り着くまでのことを思ったら苦じゃなかったです」
「でも、報告するって事は高校の時に成ろうとなったキッカケがあったの?」
彼女は少し黙った後に続けた。
「元々のキッカケはもっと昔で、高校の時は勇気がなった私に一押してくれたんです」
「良ければ、聞かせてくれる?」
「いいですよ。せっかく美味しいコーヒーもありますし」
そう言うと、彼女の昔の話が始まった。
「小学生の頃なんですが、私、いじめられてたんです」
「なぜかしら?」
「名前が変だからって理由だったと思います。だから、昔はこの名前も好きじゃなかったんです」
想像も出来きない。
「でも、私のの名前が素敵だよって担任の先生は言ってくれて、それで自分も先生になりたいって思った最初のキッカケです」
「高校の時は一押しって言ってたけど…」
話が続く、
「中学は何事もなく過ごしてたんですけど、高校の時に先生になるか、それとも違う道にするかで迷ってたんです。それを一押ししてくれたのが、高校の時の担任の先生でした」
「先生に二回助けられてるのね」
「確かにそうですね、そう考えると私はまだまだ先生としては程遠いのかもしれませんね。でも、そうやって助けられたおかげで私は今、こうやって先生になる道立つことができました」
「でも、キッカケは何であろうと、そこまで行くことができたのは貴女の頑張りもあってこそよね」
そう伝えると少し嬉しそうに
「そうかもしれませんね…」
と返事をした。
/////
ふと、外を見ると雨が降っていた。
強くはなかったが、 止む気配はなく、ゆっくりと外は暗くなっていく。夜遅くならないうちに出た方が良さそうだ。
「…もし、駅まで行くなら一緒に帰らない?」
「いいんですか?」
「むしろ、私なんかでいいかしら?」
「わかりました!駅まで一緒に行きましょう!」
会計を済まし、私が下に降りようとすると、
「あの、先に降りて待っててもらえますか?」
彼女の声が聞こえた。
私はわかったわ、と短く返し、階段を降りて行った。
/////
「ちょっといいかな?」
会計を済ますと声をかけられた。
「はい」
「ブログの紹介の件なんだけど…」
まだその事をしっかりとまとめられていなかった。私は常連さんに先に降りてもらうように伝えた。しかし、答えはもう決まっていた。
「さっきのお話ですが、私からも、提案があります」
「はい。どうぞ」
「紹介はしますが、ここはまめ子シークレットとして認定して紹介します。その方がこのお店の印象に残りますから!」
そう述べると、
「ハハハハ!確かにそうだね!」
店主さんはそれに同意してくれたようだ。
「…それでもよろしいですか?」
「むしろ、そのお願いをしようと思ってたんだよ」
「…えぇ!?」
考えは同じだったようで、店主さんは話を続ける。
「でも、そうやって考えてくれたなら、嬉しいよ!シークレットってのもあながち間違いじゃないし」
「ふふ、それならよかったです」
「うん、それじゃね。あ、また来た時もよろしくたのむよ!」
「はい!また、来ます!ありがとうございました!!」
私はそう伝え、常連さんの元に急いだのだった。
…
外に出てしばらくして、歩いていると、月が見え隠れしている事に気がついた。
「秋の月はいつもみえないですねぇ…」
「逆よ。隠れてるからこそいいのよ」
ふと声が出ていたようだった。
しかし、常連さんはそれに対して思った事を話していく。
「だって、美しい月がどんな風なのか考えられるじゃない」
「昔ながらの風流ですね」
そういえば、そんな事を本で読んだ事があった。しかし、文学としては古く、今でもそんな考え方をしている人はいないだろうと思っていたが、この常連さんはそういった昔の考えをしっかりと持っているようだ。
「それと」
「はい?」
「私も最初あなたがどんな子かわからなかったけど、今、こうして話せてよかったと思ってるのよ」
「…」
「こんなことしか言えないけれど、私はあなたを応援してるわ」
「あ…はい、ありがとうございます…!」
喫茶店にいた時とは、違う雰囲気を感じた。
大人っぽい。の一言では説明がつかない不思議な雰囲気があった。
「ふふ、私はこっちだから。じゃあね」
そう言うと、別の路線に向かって去って行った。
「不思議な人でしたね…あ!名前聞いてなかったですね…」
すっかり忘れてしまった。あれだけ話しておいて、聞くのを忘れてしまうとは…
「…」
少し考えた後に。
「また、行けばあえますよね!その時に聞きましょう!」
私はそう決めて、駅に向かった。
今度、いつ来ようか考えながら、ゆっくりと歩いて行った。
//////
「にしても…今でもあぁいう子っているのね…」
ふと、1人帰路に着きながら考えていた。
彼女を見ていたら、少しだけ私は人生を無駄にしているのでは?と感じてしまう。
実際、そうなのだろうが。
…感じたことは嫉妬ではなく、あのくらい夢を熱心に追うことができることに少し憧れを感じている。
でも、私は別に後悔はしてない。
…
あの喫茶店で過ごす今が私の日常になっている。
それのどこにも不幸はなく、変わらないことを願っている。
もし、また彼女が来たら今度は色々話せたらいいと思う。
他人の経験を聞くのも悪い経験ではないと今回話して感じたからかもしれない。
少し昔の私ならありえなかっただろう。
でも、これが私の変わるきっかけになったらいいと思う。
…
雨が気分で秋の月を見え隠れさせる。
私は、その一瞬に見えたきれいな満月を眺めながら、そんなことを思っていた。
…
豊穣の実りとその雨は、人の心にも恵みを与えたのかもしれない。
遅くなりました。ここまで開けるつもりはなかったのですが、どうにか書き切れました(表現が変わってたりしてたら、その辺りが描くのが止まってた辺りです)。
まだまだ、実力が足りないと感じつつ、新しく登場人物もまた登場させる予定です。
今回一番感じたのは、長くなりそうなタイミングで前後に分ける事を覚えるという事だと感じました。
長くなりましたが、季節感が飛んでしまったのを埋めるべく短いお話を何話か書ければと思っています。
それでは、次のお話で。