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第三十八話 看過できない拾い物

活動報告でも書きましたが、前回の更新で1万PVを突破しました。

これも、こんな不定期連載を読んでくださる皆さんのおかげだと感謝して居ます。

これからも引き続き楽しんでいただけるように精進します。


 マリエルと魁人が邂逅を果たしたその日の朝食時、魁人は包み隠さずその相手の話を皆に話していた。大体の者の反応は『へぇ』と言った割合淡白な物だったのだが、その中でスウェルトだけが顔を顰めていた。


『おい! まさかオイラ達の事、その雌に話したんじゃねぇだろうな?』


 剣呑な雰囲気を醸し出しながらスウェルトが魁人の事を睨む。それを見たシャゼムが、スウェルトに対し不穏当な気配を滲ませるも、魁人が視線でそれを制した。


『あぁ、特に話さなかったな……お前達が同行しているのは、やっぱり話すと問題になる事なんだな……』

『分かってたのか?』


 顔を顰め、スウェルトがそう訊ねるが、魁人は首を振った。


『いや? 詳しくは知らない(・・・・)。何と無くだけど、その修道女の話しぶりがな……』

『なら、丁度いい。聞いとけ』


 そう言って、スウェルトが話し出す。スウェルトは集落を外敵から守る関係上、神人族の事の対しても色々と情報を集めていた事も有り、教会についての話も幾つか知ってたからだ。


『教会ってのはホルウェレイを敬ってる団体なんだけどよ、その神さんがオイラ達の神って事に成ってるブアディルと敵対してるって事も有って、先ず、オイラ達魔人族を敵視してんだ』

『あー、そうなるか……うん? でもなぁ……』


 そう聞き、魁人は首を傾げる。その出自を考えれば、そう言った思想である事に疑問は無い。しかし、“敵視”と言われれば、疑問が残るのも確かだった。

 先程出会ったマリエルは、その別れ際、確かに魔人族との対話をしようと言う雰囲気を匂わせていたからだ。


『ああ、中でも酷ぇのが“勇者”って女で、コイツァあ、問答無用でこっちを皆殺しにしようとしやがるってぇ、とんでもねぇヤツだそうだ』

『なんだそれ? オレ、初めて聞いたぞ?』


 自分の説明を聞きそんな事を言うシャゼムに、スウェルトは呆れたような表情で眉根を寄せる。


『……むしろ、オマエがそう言ってるんが驚きだわ……これについちゃあ、戦士連中にも通達はしてっかんな?』

『そうなのか?』

『……シャゼム、それ、ワシも聞いてる……』


 バダルムにまでそう言われ、プイッと視線を逸らす。流石の魁人もこの事にフォローを入れる事は出来なかった。

 と、その話を聞き、デュラウも口を挟む。


『その話は我も聞いた覚えがあるな……幾つもの集落が壊滅させられたとか。まぁ、小物共の集まりばかりだったと思ったが……』

『集落が壊滅?』


 言葉を聞き咎め、魁人が顔を顰める。“敵対した”“戦っている”と言うだけなら兎も角、“壊滅させた”となれば、相当な物だったからだ。


『そうだ、まぁ、生き残りが居ねえって事はねぇんだけどよ、集落としちゃあ再建不能ってこったな』

『……』

『だから、まぁ、オマエも気を付けねえとな……』


 考え込む魁人に、スウェルトがそう言うと、シャゼムがニヤニヤとした笑みを浮かべながら口を開く。確かに教会が敵視するのは魔人族であり、神人族……に見える魁人に直接的な害がある訳では無い。

 しかし、魁人は既に複数の魔人族との交流が有り、そのいずれも良好な関係を保っていると言って良いだろう。

 だからこそ、こうして魔人族を伴い、そして友好関係を築ける者の事を教会側が知れば、忌むべき“魔神崇拝者(ヴァデルニア)”と取られかねないのも確かだったからだ。


『? なんだ? アニキが心配って事か?』

『は? あ! いや!! そうじゃねぇ!! コイツがついうっかり、オイラ達の事を教会の奴等に喋っちまって、それで、その勇者をこっちに(けしか)けられちまわねえかって!! それが心配だったって言うだけで!!』


 スウェルトは慌てて否定するも、そんな事は取り合わないとばかりに生暖かい目でニヤニヤとしながらシャゼムは彼の方を見た。


『は~、ふ~ん、ほ~』

『だから!! ちがっ!!』


 周りの者は『また始まった』とばかりに溜息を吐くと、それぞれ朝食を再開する。


「お兄ちゃん、スープもっといる?」

「あー、うん。貰おうか」

「うん!」

『我にもその燻製肉、もう1ブロック取ってくれぬか?』

『うむ、分かった』


 ある意味いつも通りの朝食風景だった。






 魁人達の移動は基本徒歩なのだが、目印になる目標がある時には走る事が有る。これば、クロスカントリーランの一環として、未踏地の場所を走る事での足腰の……そして咄嗟の判断力の鍛錬をする為であった。

 そして今も、少し先にある小高い丘の上を目指し魁人達は走っているのである。


「メウル、大丈夫か?」

「うん! 平気だよ!」


 魁人に背負われたメウルがそう答える。流石にこの面子に走って追いつく事の出来ない彼女は、こう言ったクロスカントリーランの時には魁人に背負われるのが常であった。

 実の事を言えばデュラウに担がれて行くと言う案もあったのだが、それはメウル自身が断固として拒否した為に、魁人の荷物をデュラウに持たせた上で、彼女の事を魁人が背負って走る事と成ったと言う経緯があったのだが……

 その時に、シャゼムとメウルとの壮絶な言い争いも有ったりしたのだが、それについては魁人が仲立ちに入る事で、渋々シャゼムが引く形となったのである。がしかし、その結果、シャゼムにはもう一つ技を伝授すると言う約束を魁人は彼女にさせられていたのだった。


『よっしゃ! オイラが一番だぁ!!』

『くそ!! また、負けた……』

「……やっぱり、単純な速度だとスウェルトやシャゼムには敵わないな……」

「お兄ちゃんはわたしを背負ってるんだから、しょうがないと思うよ?」

『この我が、四番手とは……いやはや、これは驚嘆に値するな……』

『ムウ、やはり、ワシ、足、遅い……』


 太陽が中天に差し掛かる少し前に丘へとたどり着いた一行は、そこで少しの間休息を取ると、その丘から下った所で昼食を取る事にする。

 マナジスタに居た時は、ホーリィに合わせ一日二食だった魁人だが、こうして旅へと戻った後は朝昼晩と食事をするようになって居た。

 それは、単純に魁人がその習慣の方に慣れている……と言う事も有るのだが、それに加え脂肪を付き難くしたかったからでもある。

 基本的にこの世界では朝食を抜き、昼夜と量を多めに食べるのが普通なのだが、その食事の仕方だと、途中途中で、活動の為のエネルギーが足りなくなってしまう。

 そうなると、基本的には脂肪を燃焼させ、時には自壊作用で筋肉すら消費し、そのエネルギーへと変えてしまうのだが、その為、人の体はエネルギーが足りない状態……いわゆる飢餓状態を感じると、その次には同じ様に飢餓状態に成らない為に、脂肪を蓄えようとするのである。

 だからこそ、魁人はそう言った状態を作らない様にする為に、なるべく三食を食べる様にしてるのであった。


『じゃぁ、バダルム、行こうか』

『ああ』


 そう言って二人が野草を採りに森へと分け入ると、次いで、それを眺めていたシャゼムが弓矢を担いで立つと、スウェルトに声を掛けた。


『じゃ、オレ達も獲りに行くか』

『だな』

『じゃあ、わたしたちは火の用意をしておきますから』

『うん、任せた』


 シャゼム達が連れ立って狩りに向かうと、残った二人は、火の用意を始めたのだった。






 二人がソレに気付いたのは、芋の類を見つけ掘り起こした後、それを持って帰ろうと袋に詰め込んでいる最中の事だった。


『……! バダルム!』

『ああ、これ……血の、匂い……』

『……シャゼム達って事は無いよな?』

『多分』


 基本的に森の中に分け入る時は、狩りによる誤射を考え、採取を行う者と狩猟を行う者は真逆の方向に入る様にしている。

 その為、今漂っている血の匂いは、彼女達が獲物を仕留めた為に、その血の匂いがこちらまで漂って来ているのだとは考え辛かった。

 だが、朝に修道女……教会関係者と出会ってる魁人としては、何やら言い知れ無い不安感に囚われていたのである。


(あの修道女の人だったら、問答無用で攻撃ってのは考え辛いけど、司祭とかと一緒だとか言ってたしな……)


 ともあれ、何にせよ、不安要素が有るのであれば、今後の行動指針を得る為にも確認はしておかなければ成らないだろう。

 そう考えた二人は頷き合うと、その血の匂いの濃い方向へと慎重に歩みを進めた。


『この辺……だと思うんだけどな……』

『ああ……』


 森の中は丈の短いドクダミの様な草で覆われていて、石や岩など目立った物も少ない。立木はそれなりには有るのだが、逆に言えばそう以外には視線を遮るものは殆ど無かった。

 いっそう濃い血の匂いを感じた二人が、お互いに小声で確認する。

 と、その丈の低い草が揺れているのを発見した魁人は眉根を寄せ、バダルムに視線を送る。

 無言の頷きを見た魁人は、その揺れる草の元まで歩みを進めた。


『……なんだ? これ……』

『ぬう、混ざり者(オベスタ)……だな……』


 そこに居たのは体長30cmも有るか無いかという、魁人の感覚で言えば手足が獣の物に挿げ替えられた女性に見える。バダルム曰く、これが混ざり者……つまりハグレ魔人族の一人であるらしい。

 想像していた通り、その小さな魔人族は血まみれで、息も絶え絶えと言った様子に見えた。


『レウルト、どうする?』

『連れて帰ろう』


 魁人は即座にそう決定したのだった。






『ん? 今日は兄者も獲物を狩って来たのか?』

『違う』


 戻って来た魁人達を迎え入れたデュラウは、開口一番そう言った。

 薪を集めたり竈を作ったりとメウルにこき使われた後、彼は何時もの様に一人稽古をしていたのだが、その最中に袋を担いだバダルムと血まみれの動物らしきものを抱えた魁人が歩いて来たのである。


『しかしアレだな、兄者は何でも出来る様に思っていたのだが、血抜きはちと下手かも知れんな』

『だから、違う』

「え!? どうしたんですか?」


 干したスジ肉や香草で出汁を取っていたメウルだったが、二人の会話を聞きつけ、採取に行っていた魁人達が帰って来たのを察したのであろう。手を止めて近付いて来て、魁人の抱える血まみれのソレを見て驚きの声を上げた。


『あー……それなんだけどな……』

『たっだいま~……あれ? アニキも獲物を獲って来たのか?』

『違う』


 全員が揃った事で、魁人が説明を始める。

 ただ、火を止められないメウルは昼食の用意に戻り、バダルムは流石にそのまま放置している訳にも行かなかった為、魁人に言われ混ざり者の治療を始めたのだが……


『ちっ、考えられるのは、オマエが会ったって言う、修道女がやったって可能性だな……』

『我も、その女本人がとは言わなくとも、関わりが有る可能性が高いと思うが』

『その雌、アニキとタメを張れる位の腕前が有ったんだろ? だったら一人で壊滅させるくらいできるだろ?』

『どうなんだ? それ……まあ、兎も角、そうなると、コイツは件のハグレ者の集落の者って事か?』

『そうなるな』


 スウェルトの言葉に、説明を受けていたその他の二人も頷く。その意見に魁人は「むう」と唸り声を漏らした。

 この混ざり者の魔人族が件のハグレ者の集落の物だと言う事には魁人としても異論はない。その集落が襲撃され、壊滅したのだとすれば彼女の惨状も理解できるからだ。

 だがそれに、あの修道女が係わっているかと成ると疑問が残ったのだ。少なくとも魁人の合った修道女……マリエルは戦闘馬鹿的な素養が見え隠れこそしていたが、決して虐殺めいた事をする様には見えなかったからだ。

 それどころか、去り際の事を考えれば魔人族とコミュニケーションが取れないかと考えている風ですらあったのだから、彼の考えも分からなくも無いだろう。

 だが……


(意にそぐわない状態でやらされてる(・・・・・・)って事は有り得るのか……)


 彼女の首元から伸びていた、奴隷紋の“鎖”らしき黒紐状のソレの事を思い出し、そんな風に考えた。


『アニキ?』

『……あー、いや、何でも無い』


 眉間に皴を寄せ、何事かを考え始めた魁人を心配しシャゼムが声を掛ける。彼女には魁人が何かの疑念を抱いて居る事が理解できたからだ。


『スープ、出来ましたよ?』


 ちょうどそこへ、メウルがスープを一人分だけ持ってやって来る。まるで計ったかの様なタイミングだったが、しかし、彼女の様子を見れば、急いで来たのであろう事が伺えた。

 彼女にも、魁人の中で膨れ上がる蟠まった気持ちが伝わったのだろう。だからこそ、気持ちを落ち着けるであろう温かいスープを急いで持って来たのである。


『あー、うん。ありがとうメウル』

『小娘、オレのは?』

『ちゃんとメウルって呼んでくださいシャゼムさん……今持ってきます……って言うか、手伝ってください』


 溜息を吐きながら立ち上がったシャゼムを連れメウルが鍋の方まで戻る。と、それと入れ替わるかの様にバダルムが治療を終え戻って来た。


『お疲れ、バダルム』

『オウ、あの混ざり者、どうだった?』

『……血、失い過ぎ、体力次第』

『そうか……』


 幸い、彼女の体に致命傷と言う程の大きな傷は無かった。

 だからこそ、ホーリィから現物支給されていた乾燥薬草をすり潰し、ペースト状にした物を彼女へと塗布した事で傷口はふさいだのだったが、しかし、流した血の量が多すぎたのだ。


『そうなると、暫く動くのは無理そうだな……』

『兄者、良いのか?』

『仕方ないだろう? 放って置くって訳にも行かない……それに、この付近でそう言った“天敵”じみた連中が居るのなら、今動くのも面倒が増えそうだしね』

『兄者がそう言うのなら、我は従おう』


 そう言ってデュラウがゴポープの二人に視線を送ると、スウェルトは『どうでも良い』とばかりの態度を示し、バダルムは深く頷いた。






 混ざり者の魔人族が目を覚ましたのはその翌日の事だった。


『う……ん…………?』

『あ! お兄ちゃん!! 起きましたよ!!』

『ひィィ!! 神人族ゥ!!』


 傍らで看病をしていたメウルに気が付いた彼女は、即座に飛び起きると、警戒し間合いを取ろうとする。だが、血を失い過ぎた体は、彼女の意にそぐわず力が入らない。

 それどころか身じろぎをしてしまった為に激痛がその体を襲ったのである。


『ダメですよ! まだ動けるような状態じゃないんですから……』

『ごめんなサイごめんなサイ! 殺さないでェ!! 殺さないでクダサイ!!』


 余程の恐怖に見舞われたのだろう、痛みをこらえて体を抱きしめながらも、奥歯をガタガタと震わせ、必死に懇願して来る彼女に、メウルは困った様な表情でオロオロとする事しか出来ずにいた。


『落ち着け、心配、ない』


 メウルに呼ばれた魁人と一緒に来たバダルムが彼女に声を掛けるが、しかし、取り乱し聞こえて無い様子に見える。


『……取り敢えず、俺とメウルは席を外した方が良いみたいだな』

『うむ、仕方、ない』


 そう言ってメウルを呼び寄せると、バダルムに任せ、その場を後にした。二人が立ち去った事で、ようやっと彼女の気分が落ち着く。

 しかし、怯えたままなのは相変わらずであり、ビクビクと顔色を伺うような様子で質問をしてきた。


『あのゥ、ここハ?』

『うむ、ワシ等の、野宿場所』

『……ワシ……等ァ?』

『うむ、ワシ等だ』


 その答えに彼女は目を丸くした。通常、魔人族は特殊な場合を除き、自身のテリトリーから離れる事などそれ程ないからだ。

 バダルムは微笑を浮かべると『さて、何から、聞く?』と楽しそうに口を開いたのだった。






『彼女……落ち着いたかい?』

『レウルト殿、気遣い、感謝』

『うん? あー、うん。それであの子の様子は?』


 バダルムが魔人族であった事、それと他にも仲間がいると聞いた事で彼女は落ち着いたらしく、ぽつりぽつりとだが、事情を話した。

 まず、彼女の名前……字名だが、チビ助(シュリウル)と言うらしい。

 そして彼女の暮らしていたのは、やはりハグレ者の村であり、そして村を襲ったのが教会の神人族だったのだと言う。

 彼女曰く、村を襲撃したのは“勇者”に違いない……そう語っていたらしい。


『勇者? ……ね。バダルム、君はどう思う?』

『間違い、無い、思う……村、壊滅させる、余人、無理』

『……そうか』

『だな、オイラの聞いた勇者ってのもバケモン並みにとんでもねえって話ばかりだったしな』

『アニキより強いってのか? 話を盛り過ぎじゃないのか?』

『だから、あくまでオイラの聞いた話ではってこったよ……』


 二人がやいのやいのと言い始めた隣で魁人は「う~ん」と唸りながら天を仰ぐ。勇者が教会の者で有り、かつ女性だと言う話は昨日スウェルトから聞いたばかりである。

 だとするなら、早朝に出会った修道女が勇者とは言えなくともその関係者である事は間違いないだろう。

 むしろ協会の関係者が、この狭い範囲で2組も3組も別々に存在している方が不自然に思われるからだ。


『その、襲撃して来た勇者ってのは、女二人組だったのか?』

『? いや、聞いてない』


 まだ、長時間話させるのは無理だったのだろう。そこまで突っ込んだ話は出来ていないらしく、バダルムそう言った。もし、あの修道女が勇者の従者だったとしたら、昨朝出会った時の態度も分からなくはない。

 納得はいっていないが、相手が勇者であるのだからと言う事で従って居る。そんな所だろうからだ。感情視で見た奴隷の黒紐の様な物も、元々彼女がそう言った身分(・・・・・・・)だった所を助けられたから……と言う事であるなら、それ程不自然では無いだろう……と思う。

 だが、従者では無く本人だったとしたら?


(……教会とやらは随分キナ臭い事をやってるって事に成る)


 仮にも勇者だと喧伝している者を奴隷としている……そんな組織が果たして“健全”だと言えるだろうか? もっとも魁人は、その奴隷紋に詳しくはない為、一度奴隷と成ったら解除できないと言う可能性もある。

 ただ、だとしたら、そんな不自由な術を使い続けていると言う事に納得など出来る訳は無かった。それでは奴隷と成った者のその後があまりにも救われないじゃ無いか……そう思ったからである。


(まぁ、別にそう決まっている訳じゃないし、奴隷の制度については俺は何も知らなさすぎる。ここで想像だけで憤るってのもなんか違うか……)


 そう考え、思考を打ち切った。


『……とりあえず、シュリウルだっけ? 彼女が回復するまで様子見かな? その後どうするかは彼女次第だけど、何にせよ自分達がジェパル族の集落に向かう事には変更はないよ』

『うむ、分かった』

『それは良いけどよ、教会の奴らはどうすんだ?』

『あー、うん。それも有るのか……』


 スウェルトの言葉に魁人が眉根を寄せる。教会の……勇者がどうしてこんな所に居るのかは分からない。しかし、その目的が“魔人族の殲滅”に有るとするなら、魁人達にも類が及ぶ恐れある。

 ましてや魁人本人が勇者と関係がありそうな修道女との邂逅を果たしているのである。下手をすればまだこの辺りに居るのかもしれない上、同じ様に接触してしまう可能性もあった。


『いや、少なくても昨日会ったマリエルの気配は覚えている。彼女が近づいて来たなら、多分わかる』

『多分なんかよ……』

『流石に気配を殺して……となると、相手の技量次第では気付けない可能性だってあるからな』


 あきれ顔のスウェルトに、魁人は苦笑しながら、そう言う。


『フーム、しかし、兄者より強いとは思えんがなぁ』

『だよな! だよな!』

『……いや、この際言っておくけど、俺の師匠達は俺より強いからな?』

『え?』

『なん……と……』


 二人が固まった。見れば他のゴポープの二人も怪訝そうに魁人を見、メウルも信じられないとばかりに目を見開いていた。

 確かに、この世界に来てから身に付けた物もある。しかしそれらは、「果たしてあの師匠達に通用するのか?」と考えれば「難しい」と答えねばならない物ばかりであり、実戦(・・)で使うには、まだまだ練り込みの足りない物ばかりなのも確かだったからだ。

 そんな事よりも……と、魁人が口を開く。


『これから行こうとしてるジェパル族の村に行くって事は無いよな?』

『……断言はできねぇ。情報が無さすぎるかんな』

『あーうん。そうだよなぁ』


 備えるにしろ何にしろ、今は情報が少な過ぎるのも確かだった。だとすれば、分からない事で悩んでいるよりも、今できる事を優先させた方が良いだろう……そう考える。


『だとすれば、やっぱり予定を変更するって選択肢は無いな』

『そうか』

『先ずは彼女の回復を優先させる。その上で、勇者とやらに遭ったら、その時はその時だな』


 周りを見回して、魁人はそう宣言する。他の皆も異存は無い様だった。


『じゃぁ、アニキ、早速修行をつけてくれよ!』

『おお! 我も頼みたい』


 しばらくはこの場所から動かないと言う事で、マナジスタ近郊でキャンプをしていた頃の事を思い出したのか、シャゼムがそんな事を言って来ると、それに乗っかったデュラウも魁人に稽古を付けて貰いたいと言い出した。

 そんな様子を眺めながら、メウルは自分に出来る事は何か無いかと考えると口を開く。


『じゃあ、わたしは薪を拾ってきますね』

『それなら、ワシ、付き合おう』

『ありがとうございます。バダルムさん』

『……オイラはどうすっかな?』


 そんな皆の事を見ながら、今更、魁人の稽古に付き合う気も無いスウェルトはバダルム達に付き合うか、それとも別の何かをしようかと頭を悩ませ始めた。


『何か獲物取って来いよ』


 そんな彼に、シャゼムはどうせ暇ならとそう言った。だが、それは魁人によって止められる。


『シャゼム、今、一人で行動するのはなるべく避ける様にしよう』

『分かったよ! アニキ!』

『シャゼム……オメェ……』


 あまり素直に魁人の言葉を聞き過ぎるシャゼムに、流石のスウェルトも引き攣った表情を浮かべた。と、少し思案していたバダルムが、スウェルトに向かい言う。


『ふむ、なら、看病、頼む』

『ああ、誰か見てねぇといけんか……』

『そうだね、スウェルト、頼めるか?』

『オマエに言われなくたってやるさ』


 そう言えば、今はもう一人増えてたんだったなと思い、こればかりは神人族の魁人やメウルに任せて置ける訳はないと納得しかけた所で声を掛けられ、分かって居るとばかりにスウェルトは不機嫌そうにそう言った。


『スウェルト、何でそんなに突っかかるんだよ!』


 だが、シャゼムには看過できなかったらい。


『いや、そりゃぁ……』


 口を突いて出たのはつい(・・)ではある。しかし、別に無意味に噛みついたわけでは無い。しかし、あまりの剣幕で詰め寄って来るシャゼムの様子に、言葉を詰まらせてしまう。


『落ち着け、シャゼム、いつもの事』


 が、それも何時もの事とバダルムが窘める。それを聞いたスウェルトが『それもどうなんだよ』と呟いたのは誰の耳のも届かなかった。

 事が治まったのを見計らったメウルが声を掛ける。


『……薪拾い、行っても良いですか?』

『すまん、今、行く』


 バダルムは素直に謝った。

 そんな様子を見ながら魁人は(魔人族って言った所で、俺とそう変わる物では無いのにな)と、そんな風に思う。

 確かに見た目は違うだろうし、実力偏重主義に依っている部分はある。だが、内に入った時、仲間を大事にする所も、自身の悪い所を見つめ直す事も出来れば、対話する事でお互いの理解を深め合う事も出来る。

 それ故に逆に大変だと言う思いもあった。


(それを理解しない者も、偏見だけで敵対する相手って者も居るって事だよな)


 本質としてそう変わらないと言うのであれば、その厄介さと言う意味でも変わりはしない。お互いに理解しようとする者も居れば、拒絶だけする者……というも確かにいるのである。

 幸い、この世界に来てからの魁人は出会いと言う意味で恵まれていた。少なくとも魁人を理解せず拒絶するだけと言う相手がいなかったからだ。

 魁人は……魁人の目的は自分の世界に帰る事である。その為に旅をしているし、それに妥協をする心算も無い。

 だが、そうなれば今以上に神人族とも魔人族とも付き合いが深くなるだろう。だとすると、今の状態と言うのは非常に危うい物であると言う事も理解できた。


「今以上に、どう動いて行くかって事を考えないとな……」


 魁人はそう思ったのである。

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