表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/43

第一話 落ちた先の風景

ついカッと成って投稿した、反省はしていない。


2017/10/05 大幅に加筆修正しました。本筋は変わって居ません。

「うあぁ!!」


 目まぐるしく天地が入れ替わり、体のあちこちが岩肌に叩き叩き付けられる。それでも体を縮め頭を庇いながら、その状況が終わるのをじっと耐えた。


(クッ! ミスったな……)


 どれ程の時間だったのだろう。随分長く感じたが、しかし対外的には一瞬だったかもしれない。転がり切り、身体が止まった事でようやく顔を上げる事ができる様に成る。


「…………は?」


 一瞬、呆気に取られる。眼前には熱帯の密林が存在し、鼓童 魁人(こどう かいと)は目を瞬かせた。

 先程まで、彼は確かに雪残る春の山で仲間達と登山をしていたし、その証拠に彼の格好は登山服とバックパックと言う出で立ちである。

 しかし、頬を擽る空気は熱帯特有の湿気を含んだべた付く様なソレであり、実際、現在の恰好では、かなり暑苦しい。


「っ……」


 体を起こそうと身を捩ると身体の各所が痛んだ為、古武術の師匠に習った浅い呼吸を繰り返して痛みを散らす。何とか片膝をつく様な体勢に身を起こすと、改めて目の前の密林を凝視した。


「夢……じゃ無いよな?」


 魁人は手袋を外して地面に触れると、摘み上げ感触を確かめる。湿った土の感触とその匂いが確かにソレが本物であると彼に告げていた。

 後ろを振り向くと、そこには丈の高い草と低木の生えた崖が見え、魁人は自分は、そこから落ちて来たのかと考える。


「…………」


 いや、おそらく落ちて来たのであろうが、だが彼は雪山で、雪庇に乗ってしまった後輩を引き寄せ、助ける代わりに滑落をした筈なのだ。その事は覚えて居る……しかし、その雪山の下がこの様な熱帯の密林(ジャングル)であろうはずは無い。

 少なくとも、魁人の記憶では、山の麓がこの様な場所であったと言う覚えなど無かった。当たり前であろう。そもそも、春であったとは言え、魁人達が登ったのは雪山であったのだから……


「どう言う、事だ?」


 狐につままれた様な気分で何とか立ち上がる。


「っつ……!」


 改めて身体を動かすと体のあちこちが痛みを訴える。体をゆっくりと動かし自身の負傷度合いを確認してみるが、多少の打ち身らしき痛みはあるが、骨折などをしている様子は無い。

 再び見上げた崖の、その絶壁と言える嶮しさを見ると、そこから落ちたと考えた場合の自身の負傷度合いの軽さに疑問は残った、実際、雪が残っている訳でも、藪がクッションになった訳でも無い様なのだ。

 だが、重傷を負っているよりはマシであろうと、己の幸運を感謝することにした。


「……しっかし」


 余りの気温の高さに登山服のジッパーを下げる。と、気温より尚、むわっとした空気が外部に放たれ、代わりに入ってきた空気の流動によって若干の清涼を得る。

 「ふうっ」と息をついた魁人は、バックパックを下ろすと、体温調整の為に着ていたセーターとタオルの類いをビニール袋に詰め、バックパックに仕舞い、再び登山服を着込む。

 長袖である登山服が暑く無い訳ではないのだが、それよりも肌を晒して無意味に木々や岩肌で体に傷を付ける事を恐れた為だ。

 アラミド繊維で編み込んである登山服は、切断や燃焼にも強く、実際、魁人も重用していたし、その為、今回の雪山登山でも着て来ていた。ある種、極限環境用の装備ではあったのだが、雪山と密林と言う、極端な二極のどちらにも対応できたのは幸運だった。


「……アイツは無事だよな?」


 滑落前に手を引っ張った後輩の事を思い出す。

 彼女の手を引き寄せたが故に自身が落ちる事となったのであるが、しかし、確実に彼女が無事で有るかどうかまでは、さすがに確認する事は出来なかった。


(少なくても、アイツがこの場にいないって事は、自分と一緒に落ちた……って事じゃ無いよな?)


 そう考えるも、此処では無い何処かに落ちたと言う可能性もあるのだと気付き、魁人は眉間に皴を寄せる。

 だが、いつまでも此処で思い悩んで居た所で事態は好転しないのも事実で有る為、バックパックを背負い直し、魁人は周囲を見回した。

 何処からか、けたたましい野鳥らしき鳴き声が響く。黒々とした密林が眼前にあり、空を見上げても木々の隙間から青空が覗いている以外に、大した物を発見する事は出来ない。

 背後は切り立った崖であり、無理をすれば登れなくも無いであろうが、無理を押してまで崖を登る気にはなれなかった。


「さて……どうするかな……?」


 こう言った時は、落ち着いて状況を把握するものだとは分かって居る……しかし、状況を把握し、語って見た所で「滑落をしたら見知らぬ密林でした……打ち身はあるけど問題は無いです……」と言う、結局何も分からないのと変わらない状態なのである。

 密林の方向に、前に進む為の目標となるものは無く、かと言って体のあちこちを痛めている事もあって、フリークライミングをする気にもなれなかった。


「本当、どうしたもんかな……」


 あんまりと言えばあんまりな状況に魁人は頭を抱えたくなった。しかし幸運にも、雪山に登ると言う事もあり、携帯食料と水は三日分がバックパックに入っている。切り詰めれば1週間は持つであろう。

 念の為とスマートフォンを確認してみるが、思った通り圏外であり、GPSや、非常用ラジオも機能していない。


(ソーラーバッテリーと手回し型のゼネコンは有るし、電源に関しての心配は無い……けど……フル充電する為には時間も掛かるし、スマホは切っておくかぁ)


 改めて周囲を見回し大きく溜息を吐いた。

 

「……突っ立ててもしょうがないし、取りあえず上に登れそうな所を探すしかないか……」


 そもそも魁人は滑落してここに居るのである。であるならば、取りあえずは上を目指すべきだろう。

 愚痴を一つ零すと、魁人は崖を右手にして登り易そうな場所を探して歩き始めたのであった。






「……何だよ……これ……」


 元居た場所から2時間ほど歩き、崖の上へと比較的安全に登れそうな場所を見つけた魁人は、元の山へと戻れる事を願いながら――もっとも、半ば諦めても居るのであるが――何とかその頂へとたどり着いた。

 登り切った場所は、山と言うより小高い丘のような場所であり、その頂上に当たる部分には、裾野と同じ様な密林が広がっていて、ある意味――魁人の予想通り――山へと続いて居る……と言う様な事は無かった。


「……!!」


 その事に落胆はあったが、しかし振り向いて、そこから見えた景色は魁人の想像を超えたものであり、彼は一瞬言葉を失ったのである。

 鬱蒼と茂っている密林は地平線の彼方まで続き、その丁度中央、視界を横切る形で川と思しき物が蛇行しているのを確認した。

 密林の所々には、今、彼が立っているのと同じ様な丘が点在しているのも見える。

 密林中央の川を越えて少し行った所に、城壁(・・)にしか見えない建造物と、町らしき人工物を確認した魁人は、同じ様な人工物を探し視線を彷徨わせるが、少なくとも視界内に同じ様な人工物は他に確認できなかった。

 その城壁の周りは少し開けているのであろう平原と思しき物が見えている。

 確かに、この日本とは思えない景色にも驚いたのではあるが、しかし、魁人が最も驚いたのは……


「月? なのか? と言うか太陽が……二つ?」


 白んだ楕円形の天体と、大小ふたつの太陽……つまり、地球では絶対に見る事が出来ない景色である。


「映画……では無い……よな……」


 これがもしセットであり、偶々魁人がそこに入り込んだのであるとすれば、有り得ない程に大掛かりな物であろう。しかし彼の直観は、この風景が決して作られた物では無いと告げていた。

 魁人は眩暈を覚えると、その場に座り込む。


(もしかして、空間転移の類か?)


 熱帯であると気が付いた当初は魁人は、そう考えなくも無かった。

 オカルト話の類ではあるが、都市伝説系の本を見れば、その手の話も少なくは無い。

 無いと言い切れない物は否定だけをする事は出来ない――悪魔の証明ではあるのだが――そう考え、万に一つの可能性として、そんな事も考えては居たのだが……流石に都市伝説の本には異次元や異星への転移の話など書いてはいない。

 そんな物は、もっとファンタジー寄りの小説の類になるだろう。

 もっとも、帰還者が居ないのであれば、伝わり様も無いのであるが……


「どっちにしろ、現実味が薄いって事には変わりが無いか……」


 アブダクションと言う可能性も疑ってみたが、少なくとも目の前の光景を見る限り、異星間航行技術を有している様な場所……と言う様には見えなかった。


「何にせよ……帰れる可能性が少なくなったのは確か……か……」


 魁人がそう呟く。彼の考えていたもう一つの可能性……地球の内部世界と言うそれも、即座に切り捨てる。

 地空説と言う説に拠れば、地球の内側にはもう一つの世界が有り、そこには地表と同じような大地が広がって居ると言う話なのだが、今見える景色は、その説の内部世界の話の光景とも違っていたからだ。

 内部世界からの帰還者の話では、霧が立ち込ていて巨人が闊歩している上、恐竜の様な物も目撃したらしい。

 だがしかし、その話に聞いた光景と、今、眼前にある景色とは似ても似つかないものである。

 それでもあえて同じ所を探すのであれば、熱帯気候……と言う所だけだろう。

 もしここが、地空説で言われる内部世界であるなら、帰還者の証言もある為、帰る事の出来る可能性も有ったのだが……

 どうしても、ここが地球で有る……少なからず帰れる芽が有る……と言う可能性を持ちたかった魁人だったのだが、それは早々に潰された形と成ったのだっだ。


「とりあえず、あの城壁に向かってみるか……」


 もしかしたら人間が居るかもしれないし……もし、遺跡か廃墟であったとしても、雨露は凌げるだろう……そんな考えで城壁を目指す事を決める。それに、少なくとも水の確保はしておきたかった魁人は、そのついでに川へと向かう事に決めると、早速、丘を降りたのであった。






 丘の頂から見た、密林の最も城壁への距離の短い場所を目指し歩みを進める。手がかりが無い以上、少なくとも人の生活圏に向かい、多少なりとも情報を集めなけれなならない……しかし……


(人が居たとして、言語は通じないんだろうなぁ……)


 そう思う。海外旅行の……それも2、3ヶ月ふらふらと放浪する類の……経験も少なくない魁人は、3、4ヶ国語程を理解する事が出来る。

 がそれでも、地球圏ですら無いのであれば、対応できる言語など無いであろう……そもそも、言葉と言う手段を使っているかどうかも不明ではあるのだが、実の所、その辺りに関しては割と魁人は楽観視をしていた。

 収斂進化……と言う物が有る。ざっくりと言えば、似たような環境であった場合、似た様な進化をする……と言う物なのであるが、どうやら、この星の大気組成は地球のソレとほぼ同じであり、大気圧も同等であるらしい事が……少なくとも、現状、魁人が生きて居ると言う事実から……感じられた上、丘の上で見た時の城壁の様子が、中世ヨーロッパの生活を思い起こさせるものであった為、生活様式が近しいのであれば、そこに住む者の背姿は、地球人と似た物であろう……と思ったからである。

 そもそも、都市の様な大規模な建築物を作るのであれば、よほど特殊な場合を外し、言語体系がしっかりしていなければ、意思の疎通も統一も出来ないのだ。で、あるなら“文字”は兎も角“言葉”と言う物が存在している可能性は高い……と魁人は思う。


(これで、暮らしているのが恐竜人類(ディノサウロイド)だったら、どうするかね?)


 そんな事を考え、思わず苦笑する。

 足を踏み入れた密林は手付かずの原生林と言った様相を呈していて、曲がりくねった木々と背の高いシダ類に似た草、蔦等が生い茂り、人の行く手を阻んでいる様に感じられた。

 幸い、目の前を覆い尽くす様なそれらの植物は、密林の入口から10数メートル程度迄で終わっていて、その奥は……日光が射し辛いのであろう……葉の少ない低木や腿の辺りまである草がメインとなっていたので、多少の歩き辛さは解消される。

 それでも、倒木や足元の岩石等により歩きにくい事には代わりが無く、木々に絡まった蔦により視界は悪かったのではあるが……

 何より困ったのは、方位磁針が微妙に動く事で、あまり役には立たない事であった。しかしそれでも密林の外よりも若干、気温が低いと言う事もあって、魁人が一息つくと、湿った空気と濃い緑の匂いが肺へと流れ込んで来た。

 歩きながら、視界を遮る低木や蔦をかき分けていると、その鬱陶しさに溜息を吐きたくなった。


「マチェットでも有れば良かったんだけどな……いや、この場合は鉈か?」


 等と、そんな事を苦笑交じりに魁人は呟いた。


   ――ガサッ――


 僅かな異音を聞き、眉間にしわを寄せ魁人が息を止める。スラムで強盗に会った時の様な、サバンナで肉食の獣に会った時の様な……そんな寒気を感じ、周囲に油断なく視線を巡らせる。

 野生動物に対し、人間と言う種は脆弱である。何せ、寸鉄を帯びない無手の状態であるなら、対外的には何も武器と成るものが無いのである。例えどれ程の小動物にした所で、最低でも爪と牙は存在する。もし、今の音が、風による物で無かったとしたら……


「弱肉強食のサバイバル……って事かな?」


 口の中が乾き、魁人は唇を舐める。正直な所、一目散に逃げ出したくはあるが、相手の姿を確認できない状態では、逆に不意を突かれる可能性が高い為、足元を確認しながら、魁人は感覚を研ぎ澄ます。

 もし、野生の肉食獣であったとしても、周りが腿までの丈の叢である事を考えれば、大型の肉食獣……と言う事は無いであろうが、野犬程度の大きさは有るだろう。

 ある種の肉食動物は、寧ろ早い動きに反応する。その為、周囲を警戒しながら魁人はゆっくりと歩みを進めようと動く。

 チラリと下を見れば、腿まで繁るシダ類が彼の動きを極端に阻害し、例え、走り逃げたとしても、追跡をかわす事は困難に思えた。


「最悪、バックパックは囮かな……」


 そう呟きながら、魁人は眉間をしかめる。サバイバル初日で、生命線となる荷物を捨てなければならない……それは正に致命傷と成りえる物だ。

 しかし、いざとなれば、それを行わなければ成らないであろう。もし躊躇って自身の命が失われてしまうのでは本末転倒なのだから……そう魁人は考え、覚悟を決める。

 周囲の気配を探りながら視界を広く取ると、ジリジリと移動しつつ呼吸を深く長く吐く。


(死地に在っては己を死者と思え……だったか……)


 昔、師匠に言われた言葉を思い出す。死地……命の掛かった状況に成ったら、その時は既に自身の命は無くなっているものと覚悟して備えよ……その時は師匠にボコボコにされた直後と言う事も有り「死地って何処だよ!」と悪態を吐いた物だったのだが……まさか、こう何度も死地に赴く事に成ろうとは、流石に魁人も予想すらしていなかった。


(来る……)


 伺う様だった気配から、殺気が強まった事を感じ、魁人は身構える。


ガサガサガサガサッ!


 地を這う様な気配と、鹿を思わせる分岐した角の様な物を見て、魁人が回り込む様に動こうとしたその時、肩の辺りに強烈な違和感……スラムで拳銃を突き付けられた時の様な、その部分だけ神経が晒されたかの様な感覚……を感じ、左手へと大きく回避する。と、今まで魁人が立っていた辺りの草が落ち窪む様に倒れ、次いで、大きく回避せず回り込んでいただけであれば、そこには魁人の肩が有ったであろう場所に羽矢が飛来する。


「……! 野性動物……じゃ無い様だな……」


 明らかに鋭利な刃物を使ったと思われる攻撃……それも足元を狙ったそれ(・・)の方は、大きさや鹿の角の様な物を見た為に、一瞬、ジャッカロープと言う幻獣を思い浮かべたのであるが、さすがに地球のUMAがこんな所に居るはずも無く、彼はその考えをすぐに打ち捨てた。

 そもそも大概の動物に於て、足、特に後ろ足は力が強く、そこをピンポイントで狙った場合に、返り討ちに逢って怪我をする事が有る為、殆どの肉食動物は後ろから攻撃した場合でも、尻部の上から覆い被さる様に攻撃をするか、喉元を狙ってくる。

 しかし、対人戦闘となった場合、咄嗟の防御手段が少なく、上手く行けば機動力を奪える足元への攻撃は有効であり、ましてや、今の魁人の様に視界が遮られているのであれば、尚、効果的であろう。

 逆を返せば、今、魁人が相対しているモノは、対人での戦闘の分かっている相手であると言う事になる。

 そもそも、狙撃手と連携をかけるような相手が、ただの野性動物と言う事では有り得ないであろう。

 ガサガサッと言う音が背後から聞こえた事で、魁人はまたしても横へと回避をする。

 それを回避した時、やはり同じ様な枝分かれした角と、恐らく最初の襲撃者よりも体躯が大きい為であろう、赤茶けた長い毛を目撃するも、それは、魁人に回避されたと見ると、再び草の下へと潜っって行った。


「チッ!」


 魁人は舌打ちをした。ただの野性動物であれば、先に考えて居た、バックパックを囮にする事も出来たであろうが、何かしらの意志や思惑がある相手だった場合、果たしてバックパックを投げ付けるだけで、こちらを諦めるかどうかが分からない。

 もし、野盗の類いだった場合、自分の存在を外部に隠す為に、執拗に魁人を襲って来る場合もあるが、逆にこの場所が彼らのテリトリーであるから襲ってきた……と言う場合であれば、この場所から出てさえ行けば襲ってこない可能性もある……だが、事実が不明な以上、楽観視は出来なかった。


(しかし、上手い連携だ……)


 足元への攻撃で、意識をそちらに持って行った所で、弓矢で上半身を攻撃する……おそらく普通なら、ここまででケリは付くだろう。しかし、更に死角から……素手での体当たりだと思われる攻撃を仕掛けてくると言う、保険までかけての攻撃である。

 しかし、魁人はこの攻防で、少なくとも襲撃してきた相手は3人であろうと当たりを付けた。

 狙撃手の姿は見えず、地上にいる相手も、余程、低い体勢でいるのであろう。攻撃を仕掛けられるまでは目視する事が出来ない……その事が厄介であった。

 しかしそれでも、腿までの丈の草に隠れる事が可能な相手であるなら、重量的な意味での不利が少ないであろう事は、相手のスピードに対応出来ている魁人にとって朗報ではある。

 もっとも、それが、魁人の常識から外れない相手であったならば……の話ではあるが……

 魁人は、刃の攻撃を避けつつ、飛来する矢羽の狙撃の的に成らない様に動き回り、必ず背後や死角となる場所から襲って来る相手をいなしながらも、周囲の様子を観察する。

 相手が自身より小柄であり、尚且つ一人が刃物の様な物を所持して居ると言う事は分かって居る。後は、居場所が分かれば対策は立てやすいのであるが……流石に、攻撃を行う時まで気配を隠している事は不可能であるらしく、その瞬間に草が揺れる事と、刃物持ちの持っている刃物の刃渡り自体がそれ程長い物では無い為、何とか回避は出来る。


(それにしても、素直な攻撃だな……)


 魁人はそう思う。

 おそらくフレンドリーファイアを避ける為だろう。矢羽が飛んで来る時、それは、近接の二人の位置が確定してからしか攻撃をしてこない。だとすると、わざわざ角が見えるのも、狙撃手に自身の位置を知らせる為かも知れない……魁人はそう考えた。

 

「“もぐらたたき”でも遣ってる様な気分だよ……」


 刃物を避け、飛んでくる矢羽を回避しながら、視界の焦点をあえて取らずに、全体的に見渡す“周辺視”の状態で見ていると、風の無い密林の中、時折草が揺れている事に気が付く。

 それも、どうやら、魁人の死角から後ろに動くようにである。恐らく、それが3人目……素手の相手であろう。

 襲い掛かってくる直前まで気が付かなかった1人目と違い、3人目が真後ろから襲って来たのは、こうして移動時に草を揺らしてしまう為だと魁人は考えた。

 魁人は刃物と矢の攻撃を左回りに回避し、死角からの攻撃をギリギリで大きく回避する。そして、弓矢の的を絞らせない為に、ランダムのステップを踏みながら、草の揺れる方を中心に回り込む様に移動し次第に間合いを詰めた。それも、敢えてその場所を背後にする様に(・・・・・・・)……

 “ガサリ”と言う草の擦れ合う微かな音を切っ掛けに、振り向きざま魁人は思い切り足を振り抜いた。


「ギャヒィィィ!!!」


 魁人がほくそ笑む。獲物が網に掛かったからだ。ギリギリで避けられ続ければ、「もう一歩で」という思いと共に、それは焦りを生む。焦りは攻撃を単調にさせ、そして、単調な攻撃と言う物は、そのタイミングも読みやすくなる。

 魁人は、それの頭部があるであろう部分を狙い蹴り上げる……と、丁度、足の甲に衝撃を 感じたのと同時に何か(・・)が悲鳴を上げ仰け反った。


(仮面?)


 仰け反ったソレは、人型……と言って良い姿ではあったが、その顔には目元を覆い隠すような金属製の仮面が嵌っており、件の角は仮面の飾りであるらしかった。

 それを瞬間見て取った直後には、魁人の姿はその仮面の人型に追撃をかけていた……が、その魁人の横から襲撃をかける様に影が躍り出る。


「そう、来ると思った!!」


 これまでの、いくつかの情報から、彼らがお互いを思いやれる知性を持っている事は分かった。そして、こう言った優しさを持った者であれば、仲間がピンチに陥った時にする行動は、おおよそ想像できたのだ。

 魁人は、バックステップで刃物による攻撃のタイミングを外すと、カウンター気味に草の上に姿を見せた、その襲撃者の顎先を狙い拳で打ち抜く。


「オ……ウア……」


 わずかな呻き声をあげ、刃物を持った方の襲撃者が、そのまま草の中に倒れ込むのを確認し、魁人は最初の蹴り飛ばした仮面の方へと走ると、そのまま打ち下ろしで鳩尾へと打撃を入れ様とする。

 ヒュンと言う音を聴き、前へ倒れ込む様にして矢を回避すると、改めて倒れて居る襲撃者に追撃の一撃を入れ、気絶させた。

 「ウブゥゥゥ」と言う声と共に、仮面の人型が沈黙するのを確認した魁人は、その2名を盾にする様に引きずり上げると、低木のやや太い幹の陰になる様に身を隠す。


「これで……どうでるかな?」


 未だ自由である弓矢の相手を警戒しながら、魁人はバックパックのサイドに留めてあったザイルを引っ張り出し、気を失わせた2名を手早く縛り上げた。

 自分以外の仲間が捕らわれた今、弓矢の相手がどう出るのか? ……逃げるのか、助けるために向かってくるのか……矢が続く限りは攻撃をし続ける可能性もあるが、そのうえで魁人を仕留める事が出来なかった場合、少なくとも、この2名を救出する為には、近づいて来なければいけないであろう。

 逃げてくれるならば良し、もし違ったら…………魁人は息を整えると、相手の出方を伺った。

 暫くして、ガサガサと草をかき分ける音がし、魁人は注意深くそちらを確認すると、両手を開き、万歳の様なポーズをした、三人目の仮面が、ゆっくりと近付いて来る。


「Oure adruthu……」


 魁人に対し、何かしらを語りかけて居る様ではあったが、やはりと言うか、その言葉は魁人の記憶には無い物であった。

 両手を開いて見せているのは、武器を持って居ないと言う意思表示であろう。

 その行動を見た魁人は、仲間を第一とするその姿勢に好意的な気持ちを持つも、しかし同時に「迂闊過ぎるな」とも感じていた。

 彼の学んでいた古武術に於いては“人質は死んだものとして考えろ”と言う教えがあるからだ。

 だからこそ「何か企んでいるのでは?」と言う思いと共に、何時でも対応出来る心構えをしつつ、木の幹から姿を晒す。

 魁人の姿を確認し、三人目は一瞬戸惑ったように動きを止めるが、それでも次の瞬間には声をかけて来た……


「Oure adruthu……」


 がやはり、何を言っているのか理解できない魁人は、逆に「お前の言葉は分からないぞ?」と呼び掛けた。

 その魁人の言葉に、三人目は少し狼狽した様子を見せ、考え込んだのか、俯き加減に首を傾げた。


(人質? を開放して欲しい……て、所だろうな……)


 現状を鑑みて、相手の要求する事はそんな所だろう……魁人は、そう考えると、目の前の相手をマジマジと眺めた。

 身長は150cm程であろうか? 緑がかった褐色の肌に赤茶けた頭髪、革ジャンを思わせる防具であろう物を着こんでいる。下半身は草の陰に隠れ確認できないが、腰の辺りを見れば、迷彩なのか、草木と同じ様な色に染められた、ズボンと思しき物を穿いて居る様に見える。

 両手には、やはり革製であろう手袋を着け、手甲の様な物を嵌めているのだが、その右手の手袋の指……親指から中指までの三本の指先は開いていて素肌を晒している。そしてその指先の部分……さらに言うのであれば、爪部分が魁人の知っている“人間”のソレとは違って居る様に見えた。


「猫の爪?」


 あえて近いものを上げるとすれば、地球で言う所のネコ科の動物の物であろうか? 少なくとも霊長類のソレとは著しく異なっている。

 そして仮面。金属製と思われる目元から鼻迄を覆う、魁人の印象で近いものを上げれば、鳥の顔から嘴を模っている様に見えるソレには鹿を思わせる角が生えている。

 チラリと拘束した方の二人を見る。やはり、この二人も同じ様な仮面を着けているのであるが、基本的な造りは兎も角として、細部のデザインや文様等は……個人差なのか趣味の違いか……それぞれ違っていた。

 体つき……と言う物を見れば、やはり素手の者が最も体格が良く、がっしりとしており、次いで刃物を持っていた者、弓の射手は、どちらかと言えば華奢に感じられる。


(って言っても、ずいぶん鍛え込んではいるみたいだけどさ)


 魁人の目には引き締まったアスリートの様に感じられた。

 眼前の弓の射手……三人目の仮面は何かを思いついたらしく、魁人の方をじっと見ると、片手を前に突き出したままもう片手を自分の腰の方に回す。

 魁人は警戒を最大に高めると、瞬間的に対応出来る様に、神経の高まりとは逆に体の力は抜いて、重心を安定させる。

 三人目は慣れた様に滑らかな動きで腰にマウントしてあった刃渡り10cm程の刃物を取り出す……と、それの刃先を自分の胸に(・・・・・)あてた。


「?! 何を……」


 刹那の迷い……その一瞬で、構えていた左手を取られた魁人は、背筋にゾワリとしたものを感じ、その手を振り払うべく脱力させ、しかし、弾く為に力を入れる事は無かった。

 目の前の者が、自らの胸にあてがった刃物をその魁人の左手に握らせた為だ。


「……自分の生死与奪権を握らせる事で、信用して欲しい……と言う事か?」


 仮面から僅かに覗く、瞳孔の縦に開いた視線が、諦観の混じった感情で、じっと魁人を見つめている事を感じる。自分の命を懸けても仲間を助けたい……その思いが伝わって来るようであった。

 仲間を大切に思い、その為に命を懸ける……その行為を魁人は好ましく思う。それに思い返してみれば、先ほどの攻撃も肩や足等を狙った物だけで、魁人を無力化こそしようとはしていたが、その命を奪う物は無かった様に思えた。

 もっとも、刃や鏃に致死性の毒が塗ってあったとすれば、実際にそう(・・)であったかどうか等、分かりはしないのであるが……

 相手には知性があり、仲間を想う優しさが有る……少なくともそれは確かである様だった。で、あるなら、これ以上彼らを傷つける……と言う事も、忍びなく成って来る。

 魁人は嘆息すると、警戒を半分解いた。そして、刃物を持ち替え横にすると三人目に柄を握らせる。

 その事にポカンとしている三人目を尻目に、捕らえていた二人の拘束を解いた。

 ハッと正気を取り戻し、何かを言い募って来る三人目の仮面に魁人は困った様に眉根を寄せ言った。


「だから、言葉は分からないんだって……」


 そして、あまりに手ごろな位置に有った為だろう。つい射手の頭を優しくポンポンと叩くと、この事で呆気に取られたままの三人目をそのままにして、魁人は目的地である城壁を目指し、再び密林を分け入って行ったのである。

クリーチャーを描いていて、これらの生物が出る様な話は書けないか? と思い書いてみました。

基本的に思い付きで書いて行くので、かなり不定期になると思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ