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第八十七話 みんな知りませんでした

第八十七話です。よろしくお願いします。


今回は多めに書けました。(約4900字)

サブタイトルの意味は……まあ読んでみてください。

 ルーシャには結局クッキーの材料代として灰貨二枚(20アルム≒40円)を払ってもらった。

 ルーシャは「これだけでいいのか?」と聞き返してきたが、作り直すのに必要な材料を見せたら改めて驚くとともに一応の納得をしてもらえた。



――――――――――――――――



 ルーシャ達が帰って次の日の朝、零が目を覚ましたら真っ暗であった。頭全体に心地よい圧迫感があり、口も鼻も塞がれてしまっている。

 だが、そんな状態でも零は特に慌てない。何度もこういった状況に陥っているので呼吸が塞がれた時は二酸化炭素を酸素に順次変換するようにプログラムをしてあるのだ。

 まあ、それでも今日はクッキー作りのために早めの作業があるので、この状況から抜けだそうと零は体をひねりながら起こしていった。


「ム……ムググ…………フゥ~」


 零は頭を覆っていたものからぬけ出すと、その原因となっていた四つの巨大な物――――フィオナとセアラの胸部に視線を向けた。

 それらは互いに押し潰し合って隙間なく大きく横に広がり、その存在をこれでもかと主張していた。

 零は気持ちよかったのは否定はしないが、下手に二人を他人を寝せるとその内死人が出るのでは無いかと多少心配になった。



――――――――――――――――



 零の作業も終わり、宿を出て次の町への馬車を借りる。

 みんなで馬車への積み込み作業をしていると、見覚えのある二人がやってきた。ルーシャ達だった。


「あ、やっぱりここだった!」

「ん? ルーシャとロニーではないか。どうしたのじゃ?」

「今日出発すると聞いたので、助けてもらった皆さんをお見送りをと思いまして」

「ふむ、そうじゃったか。気遣いに感謝するのじゃ」


 最初に気がついたイヴァンジェリンが応対する。


「あ~、ルーちゃんとロニーくんだぁ~! 二人も一緒に来るぅ~?」


 その話を聞いていなかったフィオナが、のんきにルーシャ達を旅に誘う。


「フィーよ、二人は見送りに来たのじゃよ」

「そうです。旅も面白そうではあるんですが――――」

「ダメダメ! ロニーはさらわれたんだから! 旅なんて危ないって!」


 ルーシャは声を大にして否定してきた。


「――――とこんな感じなので……」

「うぅ~、楽しそうなのにぃ~」

「まあ、新婚生活が始まった矢先でああなったので、心配されてもしかたがないんです」


 しょんぼりとうつむいたフィオナにロニーは理由を付け加えた。

 フィオナはトボトボと作業に戻っていく。


「ほぉ、新婚と言うことは二人は既に夫婦なのですか」


 フィオナが戻った後、新婚の単語にリリアンが興味津々に反応した。


「となるとやはり、二人でキスをしたり~とかしちゃってるのですか?」

「まあ、それはその……ハイ……」


 リリアンの不躾(ぶしつけ)な質問に、ロニーは顔を赤くしながら消え入りそうな声で答えた。


「他にも昨日は帰った後で――――」

「ワーッ!! ルー、ダメダメ!!」


 ルーシャが付け加えて言おうとするのを、ロニーが大声を上げて止めに入った。

 ロニーの慌てっぷりに、リリアンが首を傾げる。


「帰った後? 何かあったのですか?」

「何でもない、何でもないです!!」


 なかった事にしようとするロニーを尻目に、ルーシャは昨日のことを話そうとする。


「昨日のロニーは可愛かっ――――モガッ!」

「ええ!! ナンデモアリマセン!! ……ルー…………ゴニョゴニョ……」


 ロニーは慌ててルーシャの口を抑えて、そのまま小さな声で耳打ちを始めた。

 ルーはそのままそれを聞いていると、その内にコクンと(うなず)く。

 それを確認したロニーは手を放した。


「絶対ね? 約束だからね?」

「往来で言いふらされるよりはマシだから……はぁ……」


 何かを犠牲にしたかのような表情でロニーはため息を付いた。

 リリアンはそれら一連の流れの意味が分からずに、只々頭に疑問符を浮かべていた。



――――――――――――――――



 見送り前に先の混乱はあった物の、見送り自体はつつがなく終わって現在は街道を走る馬車の上。特にする事が無い一行は雑談をして過ごしていた。

 そんな中、珍しくフィオナとリリアンが一対一で話をしていた。


「ルーちゃんとロニーくんって結婚してたんだねぇ~。早いよねぇ~」

「確かにそうなのです。ロニーの方は私と変わらないし、ルーシャの方もお姉さまより一つ上だって話なのです」

「フィーのお母さん達が結婚したのは、今のフィーよりずっと上だ~って言ってたよぉ~」

「私の母親も100歳超えてからなので相当なのです」


 男はともかく女の方の結婚年齢は相当なバラつきがある。重婚があるとはいえ男の絶対数が少ないので、巡りあい自体が少ないのが響いているせいだ。


「ん~、フィーは結婚いつになるかなぁ~?」

「そんなの相手が居ないと始まらないのです。相手はアンタも周りと同じでエイベルでも狙ってるのですか?」


 ちなみにエイベルが付き合っているのは、現在は結果的に零がくっつける手助けをしたリタだけである。他は現状尻込み中だ。

 フィオナもその一人かと思ってリリアンは尋ねたが、全く違う返事が帰ってくることになる。


「相手~? エイベルくんじゃないけど、もう居るよぉ~?」

「な……もう婚約者が居るのですか!?」

「こんやく……うん、確かそんなのぉ~」

「ボケボケしてる割に……意外なのです……」


 リリアンが奇異の目で見ていると、ふと脳裏に嫌な予感が2つ思い浮かんだ。

 その内、先ずは軽いものからフィオナに尋ねる。


「まさか……あのチビなレイにもいたりするのですか?」

「居るよぉ~」


 零に既に先を越されていたと言う敗北感でリリアンは目眩(めまい)を覚えた。

 だが、もう一つこれは絶対に確認しなければならないと言う謎の使命感により持ち堪える。

 そして、リリアンは聞くのが怖いと言う気持ちを抑えこみ、意を決してフィオナにもう一つ尋ねる。


「ひょっとして……お姉さまにも……居るなんてことは……?」

「ん~、サラちゃん? サラちゃんにも居るよぉ~」

「なっ……!? がっ……!?」


 フィオナからもたらされた答えはリリアンにとって核爆弾でも落とされた様な衝撃であった。リリアンは目を白黒させて、口を魚のようにパクパクと開閉させている。


「リリアンちゃん? リ~リ~ア~ン~ちゃ~ん!」

「――――――――ハッ! お、お姉さまに…………なんでしたっけ!?」


 リリアンはショックの余り記憶が混濁(こんだく)したのか、何の話をしたのか思い出せないらしい。

 そこに、もう一度フィオナから答えが帰ってくる。


「もぉ~リリアンちゃん、サラちゃんにこんやくしゃが居る~って話だよぉ~」

「そ、そ、そそ、そんな、お、おお、おね、お姉さまに、お姉さまに……」


 リリアンは焦点の合わない目をして、ブツブツと何事かを呟き始める。

 尋常じゃない事を感じたフィオナがリリアンを見守っていると、そのうちにガバッとフィオナに飛びつき質問をしだした。


「お、お姉さまの、こ、ここ、婚約者の、ななな、名前は、な、何なのです!?」

「お、教えてあげられないのぉ~!」

「探して、そいつをお姉さまに、一切ッ近付けないようにしてやるのです!」

「だ、ダ~メ~な~のぉ~!」


 その後もリリアンは食い下がるが、零が危険だと思ったフィオナは断固として断り続けた。


「どうしても教えてくれないのですか……」

「絶対に教えないのぉ~!」


 このままではダメだと思ったリリアンは方向転換をして、ある意味以前の通りの行動を起こすことにした。


「こうなったら……既成事実を作ってしまうのです!」

「きせ~じじつぅ~?」


 フィオナは言葉の意味が分からずにキョトンとしてしまう。

 そこへ、リリアンはご丁寧に説明を付け加えた。


「つまりはお姉さまとの子供を作ってしまえばいいのです!」

「子供って作れるのぉ~?」


 そう言った知識のないフィオナがリリアンに質問をした。

 リリアンはフィオナに自信満々に答える。


「その歳で知らないのですか? キスをすると子供ができるのです」

「キスってなぁ~に?」

「そこからなのですか……二人の口と口を合わせることなのです」

「おぉ~! そういえば、お母さん達もブチューってやってたねぇ~!」

「教えてもらった時も両親が布団の中で丁度キスをしていた所だったのです。その後しばらくしたら妹が生まれたので間違いないのです」


 だが、悲しいかな。実はリリアンも間違った知識しかなかったのだった。

 恐らく現場を見られた両親がリリアンを誤魔化すためについた嘘を鵜呑(うの)みにしてしまったのだろう。


「ところで、お姉さまはまだキスの経験は――――」

「そういえば無いねぇ~」

「ふぅ、良かったのです」


 リリアンは安堵してホッと一息ついた。


(では、早速今夜にでも――――)


 リリアンは既成事実を作るために悪知恵を働かせ始めた。


「えっと、こうすれば出来るんだよねぇ~?」

「――――え?」


 リリアンはフィオナの声が何故か後ろから聞こえてきたので振り返った。

 そして、その時見えた光景は――――


「わわっ!?」

「えっ? お姉ちゃん?」


 ――――フィオナが零を後ろから抱き上げセアラに近づき――――


「んむっ!?」

「むぐっ!?」


 ――――零の顔を押し付けてセアラにキスをさせる瞬間であった。


「……あ、ああ……あ……」


 その光景をまざまざと見せつけられてしまったリリアンは、ガタガタと震えて小さく声を漏らすばかり。

 フィオナはそんな事とは知らずに零を自分に向けて抱えなおすと今度は自分に零の顔を引き寄せた。


「じゃぁ~フィーもぉ~、ブチュー」

「わっぷ!」


 セアラとイヴァンジェリンはフィオナの突然の行動にポカンとしている。零は突然二人にキスをさせられて恥ずかしくなり(うつむ)いていた。

 それをした張本人のフィオナは「まだかなまだかなぁ~」と期待いっぱいの様子だった。

 そして、リリアンはと言えば――――


「――――な、な――――」

「な?」

「――――何をするのですかこのバカ女ぁああぁぁあぁぁぁっ!!」


 ――――怒りの余りに全力でフィオナの脳天を殴りつけた。


「いったぁああぁぁあぁぁいぃ~!!」


 フィオナはたまらずに頭を抱えてうずくまった。

 だが、リリアンはそれに構ってられないと言わんばかりに急いで、セアラの方に向いて懇願した。


「お姉さま! すぐに、すぐに口を洗い流して下さい!!」

「ど、どうしたのよ!? 一体何があったのよ!?」

「早く、早くしないと赤ちゃんが、赤ちゃんができちゃうのです!!」

「え? そうなの?」


 セアラは貴族なら知ってるかと思い、イヴァンジェリンに視線を向ける。


「そうじゃったのか……子供とはそうやって……って聞いてはいけないのじゃ!」


 何故か別の方面でイヴァンジェリンが慌て出す。だが、イヴァンジェリンも知らないのは確かであった。

 なので、セアラは残った零に聞くことにした。


「えっと、レイ? さっきのでレイとの赤ちゃんができるの?」

「いやいや、出来ないから」

「って言ってるわよ?」

「そんな訳ないのです! 両親がしてるのを見た後で妹が生まれてるのです!」


 零はリリアンをどうやって説得すればいいかを少しの間考えた。


「えっと、リリアン? キスをするだけで子供が生まれるっておかしいと思わない?」

「どこがおかしいと言うのですか!?」

「いや、だって、それだったら男の人と結婚する意味が無いでしょ。女だけでキスはできるんだから」

「「「「あっ……!」」」」


 そういえば、といった表情で零以外の四人が固まった。


「言われてみればそうよ。私達もお父さんとの子供だって聞いてるわよ?」

「そうじゃな、子供は父親と母親が居るものじゃったな」

「えぇ~、じゃあ今日はいつまで待っても赤ちゃん見れないのぉ~?」

「フィー……いくらなんでも気が早すぎだよ……」

「うぅ……両親に騙されたのです……」


 零以外全員が大なり小なりガッカリしたりしていた。

 そんな中でふとリリアンがとあることに気がついた。


「……待って欲しいのです。レイの言い分からすると……逆に言えば……女同士では赤ちゃんが……生まれないのですか?」

「……そうだね」

「そ、そんなぁ~!! お姉さまとの子供がぁ~!!」


 一つの夢を(つい)やしつつ、馬車は次の街へと順調に進んでいった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


リリアン、現実の一端を知る。実は零以外全員、性知識ゼロでした。

夢が破れたリリアンはどうなるのか……って程でもないです。セアラにベッタリは治ってません。

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