第七話 街を目指して(3)
第七話です。よろしくお願いします。
新しくブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます。
先に書いておきますが、今回の話にはタグに書いてある事を否定するような部分があります。しかし、どちらも書き間違いではありません。今は理由が言えませんが、そのうち話に出す予定です。
あと、戦闘が少しありますが、まだ本格的なものではありません。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
「ふわぁああぁ」
「あ、お早うございます。クローシェさん」
「――ん? あら、レイ、おはよう。クローシェでいいわよ、言葉も普通にしてね、これからは家族なんだし。 それにしても随分と早起きなのね?」
あくびをしながら歩いているクローシェに零は挨拶をした。昨日は普段より早くに寝たせいもあり、日の出より少し前に目が覚めてしまったのだ。
「あれ? そういえば、レイの発音が良くなってるわね」
「昨日の寝る前と、今日の起きてからで練習したから」
「……普通はそんなに早くできることじゃないわよ? でもまあ、聴きやすいのは嬉しいわね」
もちろん、クローシェの言うとおりこんな短時間でここまでの効果があるはずがない。口の中の動きの為、クローシェたちを見て覚えることも難しいのもあり手本がない。
零は早起きした時間で発音を補助するプログラムを作り、それを使って話している状態だ。しかし、音を変化させているだけなのでちゃんと喋れるようになった訳ではない。
零は早めに自力で発音ができるようになろうと決心した。
「みんな、そろそろ朝食にしましょう」
クローシェが袋を馬車から取り出して全員に呼びかける。
朝食の内容は干し肉とナンの様な見た目のカチカチのパン、そして零の持っていた焼き魚である。解析をして問題がないのではあるが、木の実の方は「人が食べるものではない」とのことだ。
全員が揃った後、食べ始める前にクローシェ達五人が目の前で合掌をした。零はこっちにも同じようなものがあるのかと思いつつ、自分も合掌をする。
しかし、零にとってクローシェ達のその後の言葉が予想外のものだった。
「「「「「天においでになる主ディアよ、この食事の恵みを心から感謝します」」」」」
「いただきます……って、えっ!? ディア!?」
零は知った名前をこんな時に聞くことになるとは思わず、つい叫んでしまう。
「あ、やっぱりこうした挨拶とかも違うみたいね。今のは、食事がいただけることへの感謝を唯一神ディアへと捧げるものよ」
クローシェの説明に零は苦笑した。
おそらく、ここで言うディアとは零の知っているディアの事だろう。ここはディアの管理世界の筈なのだから。世界を管理するぐらいだからああ見えても長生きなのも理解できる。しかし、本人は世界の管理者と名乗り、軽そうな性格のディエウスさえも管理者と名乗っていた。自らを神と名乗ることはしないのだろう。つまり、信仰対象であるディア本人が認めていないものを、信仰していることになる。
零は、クローシェ達が真剣な分、余計に何とも言えない気分になった。
「ところで、レイの方は『いただきます』だけなの?」
今度はクローシェの方から質問が来たので、レイは気持ちを切り替えて答えた。
「うん、それだけだよ。食材になったものと、作ってくれた人へ感謝を込めて料理をいただくと言った意味だね。あとは、食べ終わった時には『ごちそうさまでした』と言うけど、こっちは『手の込んだ料理をありがとう』と言った意味だよ」
「こちらとは全然違うのね」
「僕のいた国独自と言っていいぐらい珍しいものだけどね」
返事を返しながら零はパンを手に取る。そして、齧ろうとしたが――
「うわっ! なにこれ、固っ!」
「あはは。こういうパンを食べるのは初めてみたいね。これは長旅用のパンだから凄くかたいわよ」
つまりは厚みのある大きなカンパンだ。もちろんと言うべきか、干し肉の方も相当に固く、零は顎をかなり鍛えることになった。
――――――――――――――――
朝食も終わり、零達は馬車でエクセブラを目指していた。クローシェが御者台で馬車を操り、護衛の内二人が外で歩きながら周囲を警戒している。零は残りの二人と馬車の中で雑談をしていた。
「みんなは見た目が大分違うみたいだけど、こっちの世界の人はいろんな種族とかがあったりするの?」
「ああ。俺はドワーフで名前はエリン、ローブを着たこいつはハーフリングで名前はアビーだ。外の二人はヒューマンで青の短髪の方がイーディス、黄緑の長髪の方がアリスン。それとクローシェさんはエルフだ」
ドワーフもハーフリングも大人をそのまま相似縮小したような感じだ。ただし、小さいと言っても両名共に零より10cmぐらいは高いのではあるが。
また、ドワーフの方は女性ながらがっしりとした体格をしていて、ハーフリングは防具をつけているため分かりづらいが足首より少し上からは動物みたいにフワフワした毛が生えていた。
「あと、ここに居ない種族としてはゴブリンがいる。見た目は大人でもヒューマンの13歳程の子供に近いが、明るいところで瞳の中が縦に細長くなるのと、短いが牙が生えているのが特徴だ」
零はゴブリンと聞いてRPGの敵キャラを思い出したが、ここではどうやら違うようだ。目については猫の目を想像した。
「人として数えられるのはこれだけだな。……って、そんなのを聞くってことは、レイのトコじゃいないのか?」
「うん、いない。いるのはこっちで言うヒューマンに当たる人だけだよ。他はお伽話とかに出て来るぐらいだね」
「私達はお伽話扱い? 私達のいない世界なんて、ちょっと想像できない」
零はお伽話でふと思い出す。そういえば、あの種族の話が出ていない。
「ところで、えっと――獣人っていないの?」
「何だ? 今の『獣人』って」
「言葉の感じからすると『獣の人』だけど……造語?」
実は、零が獣人と言おうとした時、頭の中で相応の言葉が浮かんでこなかった。獣と人を思い浮かべた時、繋げた単語が浮かんできたのだが造語扱いの様だった。
この状況から推測はできるが、零は念の為、更に訪ねてみる。
「えっと、人に動物の耳とか尻尾とかが付いてたり、逆に人のような体型をした動物のような感じなんだけど……ひょっとして、いない?」
「人の中にはいないな。魔物の中でもそんな奴がいたなんて聞いたことない」
「私達ハーフリングも足の毛皮以外は動物のような特徴はない。それこそお伽話……と言いたいところだけどそんな話も全く知らない」
そこまで聞いて零は愕然とする。零はかなりの動物好きであり、特にモフモフの毛を触るのが大好きでなのある。
ファンタジーの様に色んな種族がいるこの世界なら居るかもしれないと思った獣人だったが、人どころか魔物にもいないようであり、さらには創作物にすら登場しないという有り様であった。
零が目に見えてショックを受けていたため、二人は話題を変えることにした。
「あっ、そういえばレイは15歳だったよな。そっちの世界じゃそれぐらいが当たり前なのか?」
しかし、それは零には禁句であった。
「……違うよ、僕が特別に小さいだけ。……なんで僕はこんななんだ? 好き嫌いもしてないし、牛乳だって飲んでるし、運動も適度にやっているはずなのに。その真逆のやつなんかなぜか頭2つ分ぐらい背が上だし。女子にモテるだろと言われても、可愛い可愛い言われてるだけで男として全く見られてないっての。大体――」
「あー、スマン。俺が悪かった。謝るからイジケないでくれ」
結局、零が元に戻るのにはしばらく時間がかかってしまった。
その後も馬車で街道を進んでいくと、道に隣接した林が見えてきた。
「レイ、念の為しばらく隠れてくれ」
「どうして?」
「林に魔物や盗賊が潜んでる事がある。警戒するに越したことはない。最近は盗賊の被害の報告も聞くしな」
零は言われたとおりに、寝るときに使った毛布が丸められてできた塊の影に隠れた。
零達の乗った馬車が林の横を通り過ぎて行く。そして、半ばまで来たところで林からいくつかの人影が飛び出してきた。
「――ちっ。ほんとに出てきたか!」
「数が多い。私達も行く!」
「気をつけて!」
相手は八人と多いため、馬車内のエリンとアビーもが応援に向かった。
「レイ、私達はみんなが抑えてる間に迂回して先に向かうわ。みんなとは少し先で合流するから今は急ぎましょう」
クローシェは前を向いたままレイに説明をする。そして、馬車を動かそうとしたが――
「うっ!!」
クローシェのうめき声が聞こえた。零が目を向けるとクローシェの肩に矢が突き刺さっている。クローシェは御者台に倒れて動かない。零は思わず声を出しそうになったが手で口を覆い何とかこらえた。
口を覆いながら矢が飛んできたと思われる方向をこっそり覗くと、弓を持った女性が林から出て来るところだった。
(――盗賊? もう一人いた?)
そして弓の盗賊は先にいる戦闘中の集団の方へ向き直る。
(まずい、ここでみんなが後ろから撃たれたら――)
零は急いでプログラムを作り出す。これまでにこういったプログラムを作らなかった自分の見通しの甘さを反省しながら零は完成を待った。
出来上がるまでは数秒だったが、その数秒が今までに無く長く感じた。盗賊は既に矢を弓につがえて引き始めている。
そして、プログラムが完成して、零は急いでそれを起動して使用する。創りだしたのはレーザーだ。盗賊までそこそこ距離がある上、零には射撃の自信がないため、出し続ければ位置をずらして当てることが出来るレーザーを選んだのだ。
レーザーで弦の辺りを狙い放つ。その途端に弦の一部が一瞬光り、バチンという音と共に弦が切れ弓が逆方向に反り返った。
弓が壊れたことに零は一息ついたが、しかし気を緩めたのはまずかった。弓を壊されて辺りを見渡していた盗賊と目があってしまったのである。
盗賊は矢筒から一本の矢を取り出して握ると、零の方に向かって走りだした。そのスピードは人が出せるものとしては異様なまでに早かった。零は恐怖で目を閉じてしまい、気がつけばデタラメにレーザーを発射してしまっていた。
目を閉じてから少し経つが盗賊は零のところに来た様子がなかった。
不思議に思った零がゆっくりと目を開けると、盗賊はすぐ近くにいた。うつ伏せに倒れ、首のあたりから大量の血を流した状態で。
零は相手が盗賊だということも忘れて駆け寄り、状態を見るために服を掴み仰向けに直した。
盗賊の首には太さ5mmぐらいの斜めに走った焼け焦げた痕があり、その一部からはまだ大量の血が出続けていた。
表情は怒りと苦しみで歪んでいて、時折体がビクンと跳ね上がる。そして、それらも段々弱々しくなり、ついには全く動かなくなった。
「――死ん、だ? 僕が、ころした?」
零はそのことを認識すると目の前が歪み立っていられなくなり、その場に倒れこんでしまった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
続きは出来次第投稿します。