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第六話 街を目指して(2)

第六話です。よろしくお願いします。

新しくブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます。

今回は、分割していた話の続きになります。


一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)

話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。

そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。

また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。

 零が今日のことを話し終わると、しばらく静寂に包まれる。

 全員難しい顔をしているので、やはり信じにくい内容なのだろう。それについては実体験したはずの零も同感だった。

「……さすがに信じにくいわね。何かそれが分かるものは無いの?」

 クローシェが零に尋ねる。現在零が身につけているのは学ラン(特注)、そしてポケットの中に生徒手帳、スマホ、財布だけだった。

 生徒手帳は水に濡れたがちゃんと文字は読むことができ、零の顔写真も残っていた。スマホは防壁でのショックと水のせいで動いてくれない。財布は千円札と小銭が少々、店のポイントカードが入っていた。

 零はそれらを見せながら説明していく。生徒手帳は文字の違いと整えられた文字、絵(写真)の細かさに驚かれた。

 スマホは動かないためあまり信じてないようだが、できることの多さには感心して聞き入っていた。財布の中身は紙のお金があることと、模様の細かさや札の透かしに驚かれ、ポイントカードの説明はクローシェが特に熱心に聞いていた。やはり、商売人なのだろう。

「確かにこんなものは大陸中を探しても無いわ。……こことはちがう世界、そんな所があるのね」

 零の説明が終わってクローシェが納得する。護衛の四人もそれぞれ感嘆(かんたん)していた。

「そういえば気にはなってたけど、その服もレイのところの服なのよね? ちょっと見せてもらってもいいかな?」

 服を作るだけはあり、クローシェは学ランに関心を寄せていたようで、零に頭を下げる。零は了承して学ランの上を脱いでクローシェに手渡した。

「ありがとう! えっと、これは……生地からして見たことがないわ。縫い目もこんなに細かくて間隔が揃ってるなんて……。この白い板は……これで形を整えるのね。あっ、取り外せるの?」

 クローシェは学ランを受け取り、嬉々として調べていく。そして、しばらく見回した後、嬉しそうに礼を言った。

「貸してくれてありがとうね! すごく参考になったわ!」

「どういたしまして」

 クローシェは学ランを返すと、真面目な表情に変わり零にある提案をする。

「ねえ、レイ。あなたは私の家で暮らす気はある?」

「もしかして、こっちのふくについてききたいから?」

「ええ、その通りよ」

 クローシェは零の質問に対して、思惑を否定すること無く答える。そして、零を安心させるように言葉を付け足した。

「大丈夫、家賃とかは服の話が聞ければ十分よ。もう少し大きくなったら店も手伝ってほしいけどね。小さな子に無理をさせる気はないわ」

 零はその話を聞いて喜んだが、同時に言っておきたいこともあった。零はクローシェに向かって抗議をする。

「えっと、さっきからいいたいことがあったんだけど」

「なあに?」

「ぼくは15さいなんだけど」

「……ええっ!?」

 クローシェは驚きの声を上げる。護衛の四人も「嘘でしょ」とか「全然見えない」など口々に言っていた。

 その中で零は、もう一言を告げた。

「あと、ねんのためにいうけど、ぼくはおとこだからね」

 その言葉で全員の動きが止まった。そして、クローシェが真剣な面持ちに変わって零に聞き直す。

「男の子? 本当に?」

「う、うん」

「ごめんね、ちょっと確かめさせてね」

 そう断りながら、クローシェは零の股の部分をズボンの上から触る。あまりに真剣な表情だったので零は断れず、そのままじっとしていた。

 確認が終わりクローシェが「……確かにあるわね。それも、すごいのが……」などとつぶやくが、全くふさけた様子はない。そして、何かを決めたように頷いたと思うと、突然意味不明な話を言い出した。

「ねえ、レイ。さっきの話だけど、私の方からお願いするわ。あなたには服の話とかは抜きで、ぜひ私の家に来て欲しいのよ」

「……は?」

 零はつい間の抜けた声を出してしまう。クローシェは唯一の対価さえ無くしてしまうと言っているのだ。どうしてそこまでして来て欲しいのか理由が全く分からず、零は首を傾げて悩みこんだ。

 それを勘違いしたのか、クローシェが気落ちした様子で零に尋ねる。

「もしかして、駄目……なの?」

 零はその言葉で思考の渦中から復帰して、クローシェに悩みの内容を伝えた。

「あっ、ちがうちがう。なんでぼくにきてほしいかがわからないだけ」

「えっ?」

 零の言った内容にクローシェは信じられないと言った表情で声を出した。しかし、自分が色々と早計していたことに気が付き説明を入れる。

「そういえば、レイは異世界人だったわね。常識の違いがあって当然ね……。えっとね、この世界では男性が生まれにくくて貴重なのよ。それで、どの国も男性を優遇する法が決められているわ。その中に『身寄りのない男を見つけた場合、その人が保護する』というのがあって、もしもレイが来てくれなかったら違反になっちゃうのよ」

「なるほど、わかりました。あの……、すむばしょもなかったし、こちらからもおねがいします」

「ありがとう」

 理由が分かって、住む場所も決まり、零はほっと一息ついて胸を撫で下ろす。しかし、クローシェはまだ真剣な面持ちのまま、さらに零に頼み込む。

「あのね、もう一つお願いがあるの。実は、保護した男性には補助金が支払われるのだけど、それを使わせて欲しいのよ」

「どうして?」

「実は、私の娘が重い病気で……」

 零はクローシェに子供がいることに驚いたが、地球でも昔は十代前半で結婚するのは当たり前だったと思い出し気にするのをやめた。

「恥ずかしい話なんだけど、お店もそこまで儲かってるわけじゃないからあまり余裕が無いのよ。だから、治療費の足しにだけでも貰えたらと思って……」

 零は理由を聞きはしたが、答え自体は最初から決まっていたので、それをクローシェに伝える。

「いいですよ」

「無理にとは――――って、いいの? 本当に?」

「そんなじょうきょうでも、ぼくをきにかけてくれてたんでしょ? なにかしないといけないとおもってたところだし、だいじょうぶですよ」

「……気を使わせちゃってごめんね。それと、本当にありがとうね」

 クローシェは目に涙を浮かべて、零の手をとって喜んだ。

 その後、夜も深くなり、零は馬車の中で休ませてもらった。まだ零にとっては寝る時間ではなかったので、最初の見張りを申し出てみたが「いつもと違うと調子が狂う」との事で断られてしまった。小さく見える零に対しての、彼女たちなりの優しさもあるのだろう。

 することのない零は目を閉じて眠りにつくまで、これからの事やディアが探しに来た時のことを考えていった。


――――――――――――――――


(ゲートの中には、もう居ないようですね……)

 ディアは自分の管理施設で、ゲート内の捜査結果を眺めていた。だが、人の反応は見つけられなかった。

「あの時、最初から解除にしておけば……」

 ディアの口から後悔の言葉が漏れだした。

 セキュリティの都合上で最小限を選択したが、本来は零がウィルスの影響を少し受けていた場合でも、目印のタグをつける程度で通る事はできたはずであった。

 しかし、実際は脅威度の高いウィルスへの対応の様に完全に弾かれてしまった。

 咄嗟(とっさ)に瞬間的な解除へ切り替えて防壁内に入ることは出来たものの、ショックで二人それぞれ別方向に軌道がずれてしまったのである。

 ゲート内では流れに逆らうことが出来ないため、零の後を追うことが出来ずに別の場所に出てしまった。一度施設に戻って本格的な捜査を始めたのだが、結果は(かんば)しくないものだった。

 しかし、結果を見ていく内にディアは奇妙な点を見つけ出した。

 防壁を破られた痕跡はないし、瞬間解除した時もディアと零以外は入っていない。それなのに防壁内からゲートの壁を破ろうとした痕跡があるのだ。

(これは……なぜ途中で止まっているのでしょう?)

 それは、普通ならあり得ないことだった。世界の外に張られた防壁を破る事は、ゲートの壁を破るより遥かに難しい。防壁内に侵入するような存在なら問題なく出来ることだ。

 結果を読み進めていくと奇妙な点は更に増えていく。壁を破ろうとして途中で止まる事が何度も繰り返されるのだ。しかも、二回目以降は壁の向こうを探るような動きが加わる上に、だんだんと追加される動きの種類が増していく。そして、最後の方には穴の開け方にも何らかの制御が加えられているようだった。

(いったいどうなっているのでしょう? まるで、試行錯誤しているような動きをするなんて……)

 ディアはそこで、ある可能性に気がついた。

 ウィルスは与えられた行動を行うのみなので、この行動はあり得ない。しかし、人が行うなら話は別だ。

(まさか、レイなのですか?)

 零は防壁で弾かれた。つまりはウィルスの影響が強く出ている可能性が高い。前例はないが、もしプログラムそのものが残っていたとしたらあの行動も可能かもしれない。

 さらに言えば零は人であり、ウィルスのようにどこに出ても構わないという訳にはいかない。そのために壁の向こうを探る必要があったのではないのだろうか。そして、目標にたどり着けるように穴の開け方に手を加えたのでは無いのだろうか。

 この考えはあくまでも想像にすぎないが、このような行動をする可能性があるのは零しか居ないのも事実であった。ディアはこれらの痕跡を辿って行くことにする。

「待っていて下さい! 必ず見つけ出してみせますから!」

 ディアは一人そう決意すると、出現範囲を絞り込むため最後の痕跡を調べ始めた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

続きは出来次第投稿します。

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