第五話 街を目指して(1)
第五話です。よろしくお願いします。
新しくブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます。
休みでもないとやっぱりペースはガタ落ちですね。
今回は区切りまで書くと8000字近くになってしまいそうなので分割しています。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
「うわっ!」
最後の衝撃を思い出し、零は痛んでいた頭を抑えて顔をしかめる。どうやら川に流されたのも、記憶をなくしていたのも、最後の女性に蹴り飛ばされたのが原因のようだった。
(うう、なんか異様なまでに鮮明に思い出せたなぁ。そのせいか痛みとかまで、今受けたかのように感じたし)
零は痛む部分をさすりながら、思い出した記憶を振り返っていく。その時、衝撃を受ける直前も一緒に頭に浮かび、ごちそうさまですと思ってしまうのはやはり男だからであろうか。見た目はともかく。
(それにしても……、異世界……かぁ)
これからの行動を決めるために思い出そうとしていたわけだが、零はここまで状況が悪いとは思ってはいなかった。
知らない土地どころか知らない世界である。僅かな付き合いだが、あのディアならおそらく零を探しに来てくれるだろう。しかし、それまでの間は何も知らないこの場所で過ごす必要があるのだ。
零にとって救いなのは、この星に人がいるのが分かったことである。人里だって探せば見つかるはずなので、零はまずはそこを目指す事にした。
――ぐぅううううううぅ~
零のお腹から盛大に音が鳴り響く。気絶している時間もあるので余計に正確ではなくなるが、日本時間での正午はとっくに過ぎていると思われる。お腹が空くはずである。
零は先に食べ物を探すことにした。当分の食料の確保も重要だろう。ここに来る前の映像で魚影があったのを思い出し、川を覗いて魚を発見する。
しかし、慣れないために素手では捕まえることが出来なかった。もちろん釣具などもないので、零は仕方なく大きな石を探しだし、持ち上げた。
零は小さいためにあまり力がない筈だが、意外とすんなり持ち上がり後ろに倒れそうになる。そのことに少し頭をかしげるが、深く考えること無く川に戻った。
零は石を持ったまま川の中にある大きめの岩を目指して歩いて行き、手に持った石を岩へ勢い良く打ち付ける。すると、岩陰から数匹の魚が浮かび上がり、零はそれが流される前に急いで回収した。
石打漁法、ガチンコ漁法とも言い日本では禁止されている方法だが、零にはこれ以外で捕まえる自信はなかった。
少しして、零の前には20cm前後の魚が九匹と、直径が6cm程の白く丸い木の実が二十個あった。しかし――
(これらは、食べれるの?)
当然、零はこれらを知るはずがないので悩んでいた。だが、その後すぐに零は思い至る。
《指定のプログラムを作成しています》
分からないのなら調べればいい。零は解析用プログラムを作ろうとした。だが、その途中で今までに無かったメッセージが表示される。
《競合するプログラムが存在します 該当プログラムを利用して作成します》
零はそれを少し疑問に思ったが、作成に問題は無さそうなのでそのまま続けることにした。
その後、出来上がったのには違いないが、成分や量が表示されるだけで結局は毒かどうかがよくわからない物だった。何度か改良を重ね、最終的に自分が食べた時の反応をシミュレートする機能まで追加してようやく形になった。
解析の結果、採った物が問題ない事が判明し、まずは先に少しでも腹を満たすために木の実を食べる。かなり渋みがあり食べづらいが零は我慢した。
その後、魚を焼くために木の枝を集め、その間に火を起こすプログラムを作る。ガスバーナーの様なもので一度目で問題なく作ることが出来た。零は魚をすべて焼いておき、そのうちの一つを食べる。
そして、零が食べ終わったところで突如ウィンドウが現れる。
《マナ残量 小》
(訳がマナ? 確かエネルギーの総称でもあったっけ?)
ウィルスも何もなしに動けるわけではないようだ。零がここにいる元凶ではあるものの、今は頼らざるをえないため補充しようと考える。
すると、零の前にバスケットボール大の黒い塊が現れる。一瞬身構えた零だったが、それが動く気配はない。
《マナを補充中》
どうやらこの塊から補充するようだ。ウィルスの口みたいなものだろうか。そこで、零はふとウィルスが木や地面を飲み込んだり削っていたりしたのを思い出し、その辺の石を塊に向かって投げてみる。石は塊の中に入り落ちてこない。
《マナに変換します》
零の想像したとおりマナに変わるようで、《残量 小》の表示も消えた。
零は手当たり次第に石を投げ込んでいく。そのうち表示が《蓄積します》に変わったが、足りないよりはとしばらく投げ続けた。
――――――――――――――――
零は水を出すプログラムを作り、周辺から集めた葉っぱや蔦で食べ物をまとめて肩に担ぐ。そして、ようやくその場から動き出すことにして、近くに見える草原に出た。
草原に出て見渡すと、遠くに山が見えるぐらいで建造物のたぐいは全く見えない。空を見上げるとよく晴れていていた。太陽が傾き始めていて青色から赤く染まり始めている。
零は若干焦りながら平原を歩き出した。すると、しばらくして左右に伸びる細い線が見え始める。まさかと思い近づいていくと、長く長くの続く土がむき出しの地面――道だった。
案外早く道が見つかったので、零はひと安心する。どちらに行こうか少し考えたが地理がわかるわけもなく、ただなんとなく日の沈む方に向かって歩き始めた。
辺りはすっかり暗くなった。人里から離れていることもあり、空には零が今までに見たこともないほどおびただしい数の輝いている。そして、地球とは違い青みがかった月が夜道を照らしだしていた。
零は夜道を走り続けている。二時間ほど歩いても全く疲れを感じなかったため、食事休憩を挟んだあとから、試しにジョギングのように走ってみたのだ。
しかし、一時間近くは経つがまだまだ限界を感じない。最初はこれもウィルスの影響かと考えたが、川を泳いだときは普段通り疲れを感じていたので違うはず。小説とかでよくある異世界人補正も同様だ。
いくら考えても結論が出てこないのでディアにあった時に聞くことにした。
小高い丘を駆け登る。頂上まで辿り着いた時、前方に一つ明かりが見えた。
距離が近づいてくると、それが焚き火だと分かる。道から少し離れた場所にあり、焚き火を囲むように数人が座っている。近くには幌付きの馬車があり、一人は馬の側に居た。
零がそれを遠目に見ながら走っていると、突然、焚き火の近くにそれより大きな火が現れる。その火はなぜかどんどん拡大してきて――
(――ちがう! こっちに来てる!?)
零は咄嗟に踏みとどまり、その数瞬後少し先の地面に火――いや、炎がぶつかり火柱を上げる。その風圧に押されて、零は尻餅をついた。
次の瞬間、火柱の裏から人影が現れ、あっという間に零に近づく。そして剣を振りかぶり――そのまま動きが止まった。
「……子供?」
人影は振りかぶっていた剣を収め、倒れていた零に手を差し伸べた。
――――――――――――――――
「ごめんね! 怖い思いをさせちゃって!」
女性が零に向かって頭を下げる。その後ろでも四人の女性の内、二人がお詫びを言って頭を下げていた。
零は今、焚き火の近くにいた人たちと一緒にいる。零の事を盗賊と間違えたようで、そのことについて謝られている状況だ。
先頭の女性は、背はディアよりも少し高く17歳ぐらい。ウェーブの掛かった薄いピンク色の髪を肩より少し下で切りそろえていて、その髪から先の尖った長い耳が飛び出していた。眼の色は青く、優しそうな顔立ち。落ち着いた色の旅装束を着ていて、体型は足が長くスレンダーではあるが、膨らみが服の上から一応確認できるくらいにはあった。
後ろの女性たちも、髪の色が真っ青や黄緑だったり、背が低いが体格ががっしりしていたりとしている。更には三人は皮鎧で一人はいかにもなローブという出で立ちなため、零は改めてここが地球では無いことを思い知らされた。
「えっと、私の名前はクローシェよ。この先のエクセブラで服の仕立と販売をしているわ。今は隣の村に服を納入した帰りね。後ろのみんなには護衛をしてもらってたんだけど、暗い中でそんな格好だから盗賊と思ったみたいで……。」
「だいじょうぶ、けがしてないから。みんなも、もうきにしないで」
言葉はわかるがディアの時よりも発音が難しいので、零はたどたどしく返事をする。
そのせいで子供っぽさが強調された返事に、クローシェたちが安堵以外の何かまで感じるのは無理もないことである。
「良かった、ありがとう。ところで、あなたの名前は?」
「ぼくは宇野零、零のほうがなまえ」
零は名前を聞かれてディアの時のように答えた。しかし、それがいけなかった。
「ねえ、あなたは何者なのよ?」
「えっ?」
クローシェが硬い口調で零に問い質す。
「この国……いえ、どこの国でも名前が先で家名はあとに来るものよ。それなのに、あなたはウノ・レイのレイが名前って言ってたわね?」
零はしまったと思うがもう遅い。ディアはディエウスとの交流で日本のことを知っていたので、それについて特に反応しなかっただけなのだ。
「それに、しゃべり方。最初は可愛いと思ったけど、今考えるとあなた位にしては、さすがにしゃべり慣れてなさ過ぎるのよ」
追撃までされて零はたじたじになる。その様子を見たクローシェは慌てて零をなだめる。
「あっ! ご、ごめんね! 困らせたかったわけじゃないの。ただ、おかしいと思ったからつい……」
最後の方は消え入りそうな声だった。
「わかったから、もうきにしないで」
零はクローシェの反省を受け入れた。そして、これまでのやりとりからクローシェが悪い人ではないと考えて、自分のことを話すことにする。
「ねえ、ぼくのことははなしてもいいけど、ほかのひとにはひみつにしてもらえる?」
「ええ、分かったわ」
零は確認を取り、クローシェはそれに同意する。護衛の四人も同様に同意した。
「しんじられないことが、おおいとおもうけど――」
零はディアたちのことやウィルスのことは伏せて、地球の日本から来たことと、森の端で目を覚ましてここまで来たことだけを話ていった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
続きは出来次第投稿します。