第四話 ここはどこ? 僕はだれ?(4)
第四話です。よろしくお願いします。
新しくブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
零とディアは手をつないだままゲートの中を飛ぶようにに進んでいる。
ゲートの中は暗いものの、全方位がまるで人里から離れた場所で星空を見るかのように輝いていて幻想的であった。
しかし、同じような景色が延々と流れていくため、このまま辿り着かないのではと零は次第に落ち着きがなくなっていた。
「大丈夫、もうすぐで着きますから」
零の不安を感じたのかディアが声をかける。
そして、その数秒後、前方の視界に変化が起きた。薄白い淡く輝く透き通った球が見えてきたのだ。
球に近づくとそれはどんどん視界を埋め尽くし、さらにはまだ距離があるにもかかわらず球の輪郭がまるで地平線のように見えるまでになっていた。
「この光る壁が外部からの不正な侵入を守る防壁です。防御システムの一つですね。この中が私の管理する世界です」
「ここが異世界……、すごいや……」
零が壁の輝きに見とれていると、ディアが説明を入れてくる。零も実際に別の世界に来たことで驚きを隠せないでいた。
「防御システムのレベルを時間・範囲を限定して最低限に変更、そこから入ります」
ディアが端末を操作する。すると、一部の色が薄くなっていき、ほとんど見えなくなった。解除ではないのはセキュリティ上で問題が出るからだろう。
「そろそろ入ります。しっかり掴まってください」
「うん、分かった」
二人はそのまま結界に近づいていく。そして、薄くなった結界から入る瞬間――、バチィイイイイイインと大きな音と共に閃光と衝撃に襲われた。
「うぁっ!」
「キャッ!」
そして、零の意識はそこで途絶えた。
――――――――――――――――
零が目を覚ますとそこは防壁と呼ばれた物の中だった。周りを見渡すが手を握っていたはずのディアは居なかった。上下左右の区別もできず、ゆっくりと動く浮遊感だけが感じられる。
自分が一体どうなったかと考えた時、体に軽くしびれを感じて原因を思い出した。
(ここはまだゲートの中? あの衝撃でディアとはぐれた?)
しかし、状況に思い当たったのはいいが、何をすればここから抜けられるかが分からない。
とりあえず、零は単純な思いつきで動く方向に向かってバタ足や平泳ぎをしてみる。だが、全く早さが変わった気がしない。
他にも、何かに当たるを幸いにパンチやキックをしてみたり、転がったり、大声でディアを呼んでみたりといろいろ試してみた。それでも、何かが変わった気配は全くなかった。
最後に動き疲れたのもあって少し寝ることにした。けれども、起きてもやはり状況は変わらず、ディアも来た様子はない。
人は何の刺激も無いことに対して過度のストレスを感じる生き物である。全くの未知の空間内の上に助けが来る保証もない状況に、とうとう零は限界に来てしまった。
「――せ。……出せ。……出してくれっ! 僕をここから出してくれぇええええええええええぇっ!!」
何も無い空間の中、零は心の底からの思いを叫んだ。もちろん、反応するものは何も無い……筈だったが――
《○○○○○○○○○○○○ ○○○》
――何かが零の眼の前に浮かんでいた。涙目でよく見えていない零は見間違いかとも思ったが、初めて起こった変化に期待して涙を拭いた。
零の目に入ったのは、パソコンのウィンドウによく似た枠と中に書かれた見たこともない文字だった。だが、ディアからの知識のお陰で読むことができた。
《オルタレイションウィルス 起動中》
――ウィルス。その文字を見て零は周りを警戒し、見回した。しかし、視界に全く変化がない。そう、全くないのだ。
(いや、待った! なんでウィンドウが、そのままなの!?)
そのウィンドウは、零の視界に完全に追従していた。まるで、零が自身がウィンドウを出しているかのように。
それに気付いた零は、本来これからする筈だったことを思い出す。ウィルスの影響の検査を受ける筈だったことを。
(まさか、これがウィルスの影響? って言うか、モロに感染してるぅ!? ど、どど、どうしよう、どうしよう?)
自身の異変に慌てふためく零。しかし、ウィンドウはそれとは無関係に次の動作に移っていく。
《起動が完了しました》
ウィンドウの表示が変った途端、頭の中でウィルスの存在が感じられるようになる。零は自分の身に何が起こるのかが心配になりウィンドウを注視することにした。
《指定のプログラムを実行します》
《世界の隣接を確認中》
《結界強度の確認中》
《侵入可能な領域内です 世界への侵入を開始します》
《準備中 開始まで47秒》
「――へっ?」
そのれらのウィンドウを見た零は拍子抜けする。まるで、ウィルスが自分の意図を汲み取って居るようだ。自分に異常が起こるどころか、これが本当ならここから抜け出すことが出来るのだ。
零はそのことに安堵し少し気が楽になり、ここから出た後のことを考える。
(ここから出た後は、まず水と食料を確保。そして、ディアが探してくれるのを待って――)
しかし、ここまで考えた時点で零はふとディエウスの言葉を思い出す。
ディエウスは「捜索範囲がこの世界の宇宙全域――」等と言っていた。世界には宇宙が含まれる。つまり、ここから出てもその先は宇宙の可能性が――
《準備中 開始まで6秒》
「わぁああああああぁっ!! ちゅ、中止、中止ぃっ!!」
最悪の可能性に気付いて、零は慌てて叫ぶ。
幸いウィンドウには《処理を停止しました》と表示され、止めることは出来たようだった。
希望が幻のように消え去ってしまい、零は思わず一人つぶやく。
「出られると思ったのに……。このままだと自殺と同じだよ……」
使われたのは、本来はウィルスが世界に侵入するためのプログラムであり、生物が使うことが想定されていない。そのために、どこに出るかは考慮されてないのだ。
(それさえ分かれば、まだマシなんだけど)
零がそう思った時、またウィンドウが表示される。
《指定のプログラムをアップデートします》
《プログラムのコピーを作成します 完了まで3秒》
その途端、頭の中に違和感が発生して零は反射的に頭を抱えてしまう。頭の中を直接触られるようで奇妙な感じではあるが、痛いわけではなくくすぐったい感じであった。
《プログラムのコピーが完了しました》
《プログラムを変更しています 完了まで15秒》
零は頭の中でコピーされたプログラムをウィルスが侵食し書き換えていくのを感じた。ウィルスの挙動が理解できるのが、自身のことながら少し気味が悪かった。
《プログラムを変更しました プログラムを置換します》
《アップデートが完了しました》
元のプログラムと変更後のプログラムが入れ替わり、アップデートが終了して違和感が治まった。どうやら、ウィルスが動作したままでも平気な上、再起動も必要がないようである。
(……今のは? アップデートって出たけど……あっ、ひょっとして!)
零はもう一度ここから出ることを強く思う。すると、先ほどと同じように侵入プログラムが動き出した。しかし、一つだけ違う点がある。画面が表示されているのだ。零はその画面に注目する。
そこに映っていたのは、暗闇に浮かび煌々と淡黄色に輝く巨大な火の玉、時折火柱を吹き上げるそれは間違いなく恒星だった。
零は急いでプログラムを停止させる。やはり、機能が追加されていた。それも、零が希望した内容のものが。これならなんとかなるかもしれない。零はそう思い再度プログラムを実行させた。
結果から言えば、全くダメであった。
何度か試しても映しだされたのは、ほとんどが宇宙空間。地面が見えたこともあったが、どう見ても月面の様な感じであり生きる環境ではない。しかも、あっという間に地面は遠ざかっていき、最後には星の全体が見えた。
つまりは運良く生きられる星が見つかっても、その動きについていけずに宇宙に投げ出されたり、位置が逆の場合は星に叩きつけられることになる。
零はその光景を想像して身震いをした。しかし、問題点が分かったなら対処出来る筈と、今度は半ば確信しながら変更したい内容を思い浮かべた。
その後、更に浮かび上がった問題点にも対処するため、何度かアップデートとテストを繰り返して、プログラムは改良されていった。零は今、じっとそれの結果を待っていた。そして、しばらく経ち――
《条件と一致しました 目標地点を表示します 決定猶予まで60秒》
そのウィンドウと共に目標地点の周辺が映しだされる。そこに映っていたのは森だった。青々と葉を茂らせた木々が至る所に生え、その上で鳥が飛んでいるのが確認できた。画面の下側には川が流れていた、条件に水源を入れたせいだろう。川の水は透き通っていて、川底の様子まで見て取れる。水草が豊富にあり、魚影らしきものも確認できた。
「――や、やった!! ついに成功したんだ!!」
零は、声を出して喜んだ。植物だけでなく地上の生物まで確認出来たのだ。危険度までは確認出来ないものの、今度こそここから抜け出す事ができる。
《決定猶予まで18秒》
(おっと危ない。決定っと)
どうやら移動先とはいつまでも繋がっていないようで、躊躇している間に途切れてしまわないように時間を表示していた。喜びのあまり忘れてしまっては目も当てられない。零は忘れずに決定をした。
決定後、移動――正確には世界への侵入が開始されるまでの僅かな時間に、零は今日起きたことを思い返す。ウィルスに襲われて、地球に居られなくなって、ゲートでさまよって、中学卒業の日のはずが卒業できずに、地球を卒業するはめになって、更には人間まで卒業するありさま。あまりにも色々なことが、しかも常識すら崩されることが起きていた。
食料や安全が確保でき次第すぐに休みたい。零はそう考えながらカウントを眺めていた。そして、ついにカウントが終わり、零の漂う方向に穴が開く。零はその穴に吸い込まれるように入っていき、ゲートから姿を消した。
――――――――――――――――
ゲートから出た直後、零は突然の息苦しさと冷たさに襲われる。更にはゲートにいた時よりも明確に体が流されていくのを感じた。
突然の異変に戸惑う零だったが、周りを見て目標地点周辺の映像を思い出す。画面の下の方に映っていた川、どうやら位置がずれて水中に出たらしい。
川は流れが早く、既にかなりの距離流されている。零は急いで川岸に向かった。
しかし、その先に流れの早い理由が――滝があった。零は必死に泳ぐが間に合わずに滝の下に落ちていった。だが、その滝はあまり高くなく、すぐに滝壺に到達する。滝壺の中で零は滝の勢いに巻き込まれ、下に押されながらも滝壺の縁を目指して泳いでいった。
零はなんとか縁に手をかけて体を持ち上げ、水中から上半身を出した。と、そこで目の前に何かがあることに気づく。
目の前には肌色の二本の柱が立っていた。少し視線を上げると柱に支えられた同じく肌色の本体であろう部分があり、柱との隙間が逆三角形を形作っている。その上には一つのくぼみがあり、更に上には左右に二つ、やはり肌色のここからでは全体が見えない程の大きな塊があった。そして、その間からわずかに女性の顔が見え――
「――この、ヘンタイィイイイイイイイィッ!!」
その叫び声とともに途轍もない衝撃を頭に受けて、零は本日三回目の気絶をすることになった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
頭の中の物を表現するのって大変ですね。特に最後。
休みの間にかけたのはここまでです。次話からはペースが落ちますのでご容赦を。




