第三話 ここはどこ? 僕はだれ?(3)
第三話です。よろしくお願いします。
ブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
「それで、見た結果はどうだったの?」
零は服を着終わり、ウィルスの影響についてどうなのかを尋ねた。
しかし、ディアはまだ復帰出来ずに何かをつぶやき続けていたため、零はもう一度声をかける。
「ディア、どうだったのか教えてほしいんだけど」
「えっ? あ、はい! 他を知らないのですが、凄く大き――」
咄嗟に零の言葉に答えたディアだったがナニかを口走っているのに気が付き、慌てて口をふさいだ。すると、湯気でも出そうなぐらいに全身を真っ赤にして、震えながらしゃがみ込む。そして、涙目で零を見上げながら言い直した。
「――お、おお、おおきにゃもんらいはありましぇん!! べべ、べちゅにへんにゃころにゃんかいってましぇん!!」
――訂正。全くもって呂律が回っておらず、まともな言葉になっていなかった。
慌てふためくディアを見て、零は笑いをこらえつつ本題の方にフォローを入れる。自分も恥ずかしいので言いかけた言葉の方は無視することに決めた。
「まあまあ、落ち着いて、ね? えっと、大きな問題はないんだよね? じゃあ、後はどうなの?」
零が追撃しなかったおかげで、ディアはいくらか落ち着きを取り戻した。立ち上がって数度深呼吸をした後、続きを話しだす。
「その、細かい点についてはちゃんとした設備で確認しないと分からないんですよ。なので、レイはわたしに付いてきて、検査を受けてもらえますか?」
そう言われて零は考える、今日が終われば学校は休みなのだ。遅くなった物の学校に行き卒業した後で検査してもらいたかった。零は自分の要望を伝える。
「あの、できれば一旦本物の学校に行きたいんだけど」
しかし、それを聞いたディアは表情を曇らせた。そして、零に何かを言いかけたその時――
「おっ! 誰かと思えばディアじゃねーか。久しぶり!」
突然、男の声が聞こえてきた。零とディアが声のした方に顔を向けると、そこには笑顔の男の生首が浮かんでいた。
「な、なな、生首が! 生首が喋ったぁ!?」
零が驚いて叫ぶと、生首は零の方に黒い笑顔で近づいてきて話しかける。
「よう、チビ。生首見るのは初めてかい? 初めて会った記念に――取り付いてやろうか?」
零が返事もできずに恐怖で引きつった顔で生首を見ていると、ディアが呆れた表情で生首に話しかける。
「冗談はそれぐらいにして、ちゃんとこっちに出てきて下さい」
「バラすなよ~、せっかくノッてきたのに」
生首――いや、男は文句を言いつつせり上がってくるように徐々に姿を現し、ひざ下まで現れた所で地面に飛び降りた。
男は190cm位で18歳程に見える。髪は短めの金髪で無造作のようにも見えるが整えられていた。顔立ちも服装もまるで海外ファッション誌のモデルのようであったが、軽い性格が見て取れるものでもあった。
「まあいいや。そんで、どんな状況なわけ?」
男は先程までより少し真面目な顔をしてディアに説明を求めた。ディアもそれに答えていく。
「――んじゃ、こん中に何故かそこのチビが入ってきて、駆除直前のウィルスに接触しちまったわけか。……にしても、ホントに穴があったのか?」
「ええ。それも、十数年は開いたまま放置された形跡がありました。ウィルスが残した新しい痕跡も一緒に見たので、そこからこの世界に入ったのは間違いありません」
「うげ、マジかよ!」
「まったく。それぐらいは管理して下さい。だいたい――」
ディアと男の会話の最中ずっと放置されていた零だったが、終わる気配が全くなく、さすがにしびれを切らして口を挟む。
「ねえ! 一旦返してもらいたいんだけど!」
「――えっ? あ、そうでした。もともと、その話をしようとした所でしたね」
「おっと。ワリィ、すっかり話が弾んじまったな」
二人共話を中断して零に謝罪する。そして、ディアが男に話を持ちかける。
「あなたが来たのは都合がいいですね。ディエウス、この子のリンクを調べてもらっていいですか?」
「リンクをか? なんでまた……ってそりゃそっか。ちょっと待ってろ。」
ディエウスと呼ばれた男がどこからか棒状の物を取り出し空中に置き、先端を軽くひねる。すると、空中に画面が表示され、男はそれを操作していく。
零は二人のやりとりの意味がわからずディアに質問する。
「えっと、ディエウスってあの人の名前? 後、リンクってなに?」
すると、どうやら聞こえていたようで画面の操作をしたまま男がそれに答える。
「おう! ディエウス・プリームン。一応この世界の管理者だ、よろしくな! リンクってのは物体と世界を関連付ける物って考えてくれ。今こいつでお前のリンクを調べてるんだが――――あ~ダメだ、やっぱ引っかかんねぇ!」
「予感があたってしまいましたね……」
「なに? どういうこと?」
二人の様子に不安を覚えつつ、零は説明を求める。
「結論から言うとだな、スマンがお前は戻せねえ」
「えっ? な、なんで?」
ディエウスからの答えに零の血の気が引いていく。それを見た二人は心苦しくなるが、知る必要があると考え説明を続ける。
「まず、ここは先に言ったように隔離空間なのですが、文字通り隔離するために元の世界とのつながり――リンクを遮断してしまいます」
「んで、問題なのが途切れたリンクを世界が異常扱いして、影響が出ないように勝手に隔離、更に隠蔽までされちまうってことだ。」
「そして、隠蔽されたリンクを検索するのには、あなた達から見て長い時間が掛かってしまいます。具体的には――過去の例ではこの星での70年程です」
「そんなに待てないよ! どうにかならないの!?」
70年後は零は85歳で、日本人男性の平均寿命を超えてしまうのだ。既に寿命の可能性が高い。もし、生きて戻ったとしても、知人が残っている可能性も低い。零の要求は当然だった。
しかし、帰ってきた答えは望んだものではなかった。
「捜索範囲がこの世界の宇宙全域、しかも隠れちまって普通じゃわかんねえからな……。さっきの70年ってのも過去最短でだ。保証はできねえ。」
「リンクを見つけずに戻すこともできません。例えば、隠蔽場所が宇宙にある場合は戻した瞬間にそこに移動してしまいますので、それではレイが死んでしまいます……。新たにリンクを作っても、元のリンクが優先されるので意味がありませんし、手詰まりな状況です……」
そこまで聞いて、零はその場にへたり込んでしまう。もう元の生活ができず、家族や友人たちに会えないと宣告されたのも同然なのだ。
その様子を見て、申し訳無さそうにしながらディエウスとディアが謝罪する。
「済まねえ! 俺が防御システムをしっかり見てりゃこんな事にならなかったんだ! 本当に済まねえ!」
「私からも謝ります! 空間の結界がちゃんと機能していれば――」
ディアまで謝り始めるのを見て、ディエウスはフォローを入れる。
「いや、結界に問題はねえ。あるなら、ここらの人間はみんな入り込んでるさ」
「――いえ、それでもやっぱり謝ります。ここに入り込む前に駆除できていれば済んだことなんですから。……本当にごめんなさい!」
「……はぁ。……反省はしてるんでしょ? もう分かったから……。」
零はため息を付いて、諦めの意味を多分に含みつつも謝罪を受け入れる。そして、一呼吸置き立ち上がった後、二人に対して自分の処遇について尋ねることにした。
「それで、帰れないとなると僕は一体どうなるんですか?」
「……はい、まずはウィルスの影響を詳しく検査して場合によっては治療もします。その後は、私達の管理する世界の中からレイに合う世界を見つけて生活してもらうか、私達の施設で保護する事になります。」
「済まねえが、検査はディアのとこで頼む。俺のとこじゃリンクの影響が出ちまうからな。リンクが全くない世界ならその問題は出ねえから安心してくれ。」
「えっ? あれだけリンクが重要そうだったのに、ディアの世界にはないの?」
零の中でディエウスの言う内容に疑問が湧いた。それに対してディアが答える。
「ええ、世界によって成り立ちが異なるので、私の管理する世界にはありません。ここがない世界だったらよかったのですが……。」
「だが、リンクがねえと異常と正常の判別があんま利かねえ分、管理はしづれえ。俺にゃ向いてねえな」
「あなたはその性格が問題なだけで、十分に管理できるはずですが?」
ディアが冷たく言い放ち、ディエウスが肩をすくめながら「厳しいねぇ」とつぶやいた。
ディアは相変わらずのディエウスにため息を付いたが、気持ちを切り替えると零の方を見て同行を求めてくる。
「本題に戻りましょう。先程説明した通り、まずは検査を受けて貰いたいのですが一緒に来てもらえますか?」
「……わかった。けどその前に……」
零は返事の後で言葉を切り、ディエウスの方を見て真剣な表情で叫ぶ。
「ディエウス! 今度からはちゃんと防御システムってのを見てくれ! もう、同じことがないように!」
「お、おう! 分かった!」
零の雰囲気に気圧されたようにディエウスが同意をする。
「あと、父さんや母さんに僕の事を伝えてほしい! 僕が宇野零で、父さんが礼司、母さんが玲香、この辺で苗字が宇野はうちだけだからすぐわかると思う!」
「ああ! ちゃんと言っておく! 本当に悪かったな!」
ディエウスも真剣な表情になって答えた。それを確認した零はディアに向き直った。
「今回のことは本当にごめんなさいね。私も出来る限りの支援はしますので……」
「もういいってば。それに、ディアはわざわざこっちに来てまでウィルスを駆除してくれたんでしょ? ディアを怒るのは違うと思う」
「……レイ、ありがとう」
再びの謝罪に対し、零が怒っていないことを伝えたため、少し気が楽になったのか、ディアは表情をゆるめて礼を言った。
「ところで、世界の移動ってどうやるの?」
「ここの世界を通れないので……。今回はゲートで直接私の施設まで行きましょう。ディエウス、許可をお願いします」
「了解っと」
ディアとディエウスの二人がそれぞれ端末の操作を始める。零がゲートについて尋ねるとディエウスから「ワープゲート、アニメとかのイメージそのまんまだ」と答えが帰ってきた。
そして、少しすると直径3m程の厚みのない黒い円が空中に現れた。
「これがゲートです。中に入ったあとは流れに身を任せてもらえば、自然と目的地につきますので歩く必要はありません。不安でしたら、私と一緒に入りましょう」
ディアが手を差し伸べ、零はその手をしっかりと握った。その時空いた手で零の頭が撫でられるが恥ずかしさはあまり感じず、不思議と心が落ち着いた。
「後のことはお願いします」
「ああ、まかせとけ。おい、チビ――いや、レイ。家族やダチへのフォローは毎違いなくやっておく。こっちのことは心配すんな。もちろん、こっちが落ち着いたらお前の方もできるだけフォローする。約束だ」
「うん、約束だからね!」
そして、零はディアと共にゲートの前に立ち、ディアが「では、行きます」と告て、二人はゲートに入った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
仕事が始まる前に、少しでも書いておきたいですね。