第二話 ここはどこ? 僕はだれ?(2)
第二話です。よろしくお願いします。
今日は第一話も投稿していますので、まだ読んでない方はそちらからお願いします。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
「――ぅ、うぅん……あ、あれ? ここは……校舎前の広場?」
零が眼を覚ますと、そこはさっきまでと同じ場所だった。一瞬夢だったのかと思った物の、塊の通った痕はそのまま残っていた。
時計台を見てみると、本来なら卒業式も終わりに近い時間。大分気を失っていた様であった。しかし、それでも周囲には誰の気配もなく、何の音もしない。
余りにもおかしい事ばかりが続くので不気味に思い、零が一度家に帰ろうとした時――
「Ut iuqs se?(あなたは誰?)Ucr ut ihc?(何故ここにいるの?)」
突然後ろから声が聞こえて、零は反射的にそっちを振り向いて見た。そして零は、思わず息を呑む。
そこに居たのは女の子、歳は零の実年齢と同じ位に見える。
まず目を引いたのはその白さ。ひざ下まであるまっすぐ伸ばした白い髪と透き通る程の白い肌、シンプルな白いワンピースと白のレース編みケープがじゃまをすること無く更にそれらを引き立てる。顔立ちは少し幼げながら清楚さもあり、ルビーのような紅い眼が周りの白に映えている。背は零より頭一つ分近く高い位、かなり華奢な物の出る所は程よく出ていて、まるで芸術作品の様に均整が取れていた。
しばらくの間零が見とれていると、彼女は心配そうに声をかけてきた。
「Iuqd ohc urolamm set?(どうしたのですか?)」
この時零は彼女の言葉が理解できなかった。しかし、何の反応もしない訳にも行かず、下手に英語を使うよりはと日本語で話しかけてみた。
「ごめん、君の言葉が分からないんだ。日本語って分かる?」
「――えっと、ごめんなさい忘れてましたね。これでいかがでしょう?」
彼女は目を丸くした後に気まずい表情で答えて、そして日本語で話しかけてくれた。
「うん、ちゃんと分かるよ。ありがとう。ところで、君は誰?」
「良かった。私はディア、ディア・ウルテムスです。この時空間の中にある、こことは別の世界の一つを管理しています」
「へっ? あ、あーうん、そうですか」
随分とおかしな答えが帰ってきたと思い、零が適当に相槌を打って聞き流そうとしたその時――
「言っておきますが、こちらで言う『チュウニビョウ』だったかしら? ではありませんよ」
突然耳元で声が聞こえてきた。慌てて横を見るといつの間にかリーリウムが少し屈んでそこにいた。目をさっきまでの方向に向けるが誰もいなく、零は目を何度も往復させた。
「えっ? あ、あれ?」
「少しは信じてくれましたか? まだでしたら、これならいかがでしょう?」
ディアが零の頭に手をかざす。すると突然、零の頭の中に違和感が生まれ立っていられなくなってしまう。
「いきなりごめんなさいね。今はこちらの言葉で話しかけていますが、分かりますか?」
ディアの言葉は最初の時と同じ言語であり零の耳にもそれが聞こえている。にもかかわらず零の頭にはその意味がはっきりと浮かんできた。
説明の付かない現象に只々驚くことしか出来ない零。それでも返事をしようとすると、今度はその内容が変換されて頭の中に浮かんできた。
「えっと、分かります。これは、一体、どうなってるの?」
違和感と驚きと慣れない発音のせいで言葉が途切れがちになってしまう。ディアはそれを見て少し笑いながら日本語で答える。
「日本語で構いませんよ。私達が管理する世界の言語が分かるように情報を送りました。頭に負荷がかからないように、聞いたことのある言語だけが順次開放される筈だったんですが、どうやら数が多すぎたみたいですね」
日本ではテレビを始めとして他の言語を聞く機会が頻繁にある。そのせいで対象の数が膨大なものになり、違和感の原因になってしまったのだろう。
「それで、私のことは信じてもらえましたか?」
「うん、まあ少しは。管理者かどうかは別として」
ただの中二病じゃないのは分かった物の、世界を管理してるかの証明がされた訳ではないので、零はそのままを答える。
「意外と疑い深いんですね……。仕方がありません、それは追々見せる事にしまして……。えっと、そういえばあなたは誰でどうしてここに居るのかを教えてもらえますか?」
「そんな事を聞いてどうするの?」
「単純になんでこんな所に居るのかが知りたいだけなのですが……、随分警戒しますね。」
「今まで何度か変質者に、襲われそうになったからね。女の人も何人かいたし」
「そ、それはまた苦労をされているみたいですね……。でも、私まで一緒にされるのは心外なんですが?」
変質者呼ばわりをされて、少しむくれるディアだった。
零は少し悪いことをしたかと思い、向こうも名乗ったことから、自分も簡単に自己紹介をする事にした。
「それについてはごめん。まあ、こっちも自己紹介ぐらいはするね。僕は宇野零、零のほうが名前。ここにいるのは僕がこの学校の生徒で登校してきたからなんだけど――」
零がそこまで言うと、ディアが困惑した様子で零に告げる。
「ここはあなたの――いえ、レイの通う学校ではありませんよ?」
「えっ、いやいや、どう見てもいつもの学校なんだけど」
「ここは、私がこの近辺の地形をコピーして作った隔離空間。本物ではないのです」
「本物じゃない? そんなバカな事が――」
「質感等も本物と同じになるようにしましたから。でも、生物まではコピー出来ないので誰も居ませんし、空間の端まで行ってもらえば結界があるので分かってもらえると思います。すぐそこが端なので実際に試してみますか?」
そう言いながらディアは校門の前の道路を指さす。零はそれを確かめるために校門から出てまっすぐ歩き出した。
そして、近くの交差点に差し掛かるが、まるで3Dゲームのフィールド端にある見えない壁のように、零はそこから先へ進むことができなかった。
「本当に壁みたいなのがある……」
「状況は分かってもらえましたでしょうか? それで、レイはどうしてこの中に入ってきたのですか?」
「どうしてって……、知らないよ。こっちはいつも通り登校してきただけなんだ」
「そんな筈はありません! 普通はここに入れるのは術者と捕獲対象と許可した者だけで、今回は私とウィルスだけなんです! 後は結界に干渉して侵入したとしか考えられないんですよ!」
零は正直に答えたが、ディアには納得の行かない物だったようで、語気を荒らげて零に詰め寄った。しかし、零は他に言いようが無いので言い返した。
「だから、本当にそれだけなんだってば! そもそも、隔離空間やウィルスって一体何のことなの!?」
「――あっ、ごめんなさい! こちらの常識で考えていました!」
零の言葉でディアは自分の早計に気がついた様である。
「知らない物に対して何も出来る筈はないですし、それについて何か言われても困るだけですよね……」
「分かってくれたならいいよ。それで、ウィルスとかは何な訳?」
零はディアの謝罪を受け入れて、説明を求めた。
「では、ウィルスの説明からしましょう。こちらにはコンピュータウィルスというものがありますよね? あれはコンピュータの内部で異常を引き起こすものですが、それが世界そのものに影響するようになったものと思って下さい」
理解は出来たので頷いたものの、零はそんなものが存在することに対して恐怖を感じ、思わず表情がこわばってしまう。
「大丈夫ですよ。頻繁に発生するものではありませんし、それの駆除も私達の仕事ですから」
ディアは安心させるために言ったのだが、零はそのせいであることに思い至り顔が引きつりだした。嫌な予感しかしないがとにかく質問をする事にした。
「ねえ、今の話からすると隔離空間ってウィルスを閉じ込めるための物だよね」
「はい、そうですよ」
「じゃあ……、そのウィルスは――」
「いえ、心配は要りません。ウィルスはもう――」
「――ひょっとして、黒い塊みたいなやつ?」
「――駆除しました……えっ?」
零からの思いもよらない言葉にディアは固まってしまう。なかなか動き出さないディアを見て、零は手を上に伸ばし頬を軽く叩きながら呼びかけた。
「ディア? おーい、ディア! しっかりしてよ!」
「――ぅ、あれ? あっ、何の話でしたか?」
ディアは意識を取り戻したものの混乱しているようで、零はもう一度聞き直した。
「だから、黒い塊がウィルスかって聞いてるの!」
「なんで……、それを知っているんですか?」
「その塊を見た――と言うより襲われたからだよ」
そう告げた途端、ディアの顔が青ざめる。そして慌てた様子で零を引き寄せ――。
「失礼します!」
そう言いつつ零の服を脱がしにかかる。突然のことに驚き、最初は立ち尽くしていた零だったが、すぐに抵抗を始めた。
しかし、細身のディアのどこにそんな力があるのか全くもってびくともしなく、ついには押し倒されて服はどんどん脱がされていく。
「ちょ! 待っ! 助けてぇええええええええぇっ!!」
「おとなしくして下さい!! ちゃんと見えません!!」
そして、パンツが脱がされた。
「うわぁああああああああ!!」
「隠さないで下さい!! それっ!!」
ディアが強引に零の股を開く。その時、ナニを見たのかディアの動きが止まり、青ざめていた顔が赤くなっていく。そして、たっぷり十数秒の硬直の後、ディアの悲鳴が響き渡った。
「キャアアアアアアアアアアァッ!!」
「こっちの方が叫びたいよっ!! やっぱり変質者じゃないか!!」
零は当然の抗議をした。しかし、ディアにも言い分があるようで反論をした。
「ち、違います! 消滅させたはずのウィルスに襲われたと聞いて体に異常がないか確かめたかったんです! どうしてそんな物が!? ウィルスの影響ですか!?」
「元からだよ! 僕は男だ!」
「えぇええええええええええぇっ!?」
この後しばらくの間、零は「男なのに……。女じゃないのに……」と繰り返しつぶやきながら服を着直し、ディアは「本当に男なの? でも確かに……」や「あれが男の……、初めて見ました……」等と顔を真っ赤にしながらつぶやいていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次話は出来る限り早く投稿できるように頑張りますので、少しお待ちください。