第十三話 常識違いで大苦労(4)
第十三話です。よろしくお願いします。
説明が続きます。必要とはいえ悩みどころですね。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
休憩室に行くとそこには護衛をしていた四人が食事を摂っていた。
クローシェ達に気がついた四人が声をかけてくる。
「あれ? クローシェさん?」
「この時間まで残ってるなんて珍しいな」
「お、レイも一緒か」
「二人で話し込んでた?」
「ええ、そんな所ね。私達も貰うわね?」
「たくさんあるから大丈夫。レイも食べて」
「あ、うん。いただきます」
机に並んだ料理を見ると単純に焼いただけ・煮ただけの物が並んでいた。
零はちょっと残念に思ったが、せっかく出された物に文句を言う気はなかった。
味付けは塩分ぐらいでシンプルな物だったが中々に美味しく、零達は雑談をしながら夕食を食べていった。
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「ふーん、下着か。なんでズボンを重ねてるのか分からなかったが、そんな意味があったのか」
「でも、ブラジャーは私達には邪魔な気がするような……」
「いや、母さんが言うには、着けてると胸の余計な動きが抑えられて楽に動けるらしいよ。重さも感じにくくなるとか」
零がそう言った途端、クローシェとアビーが零を睨みつけてきた。
「それは私達への皮肉なの?」
「……失礼な」
「え? いやその……、二人にもちゃんと効果はある筈だから」
零は取り繕うように返事を返した。ただし、心の中で「少しは」と付け加えてはいたが。
クローシェとアビーはそんな零を疑わしそうに見ながらも、話を進めることにした。
「……まあいいわ。それで、その下着を作ることにしたから、あなた達にも試作の為に協力して貰いたいの」
「俺は構わない。みんなもいいよな?」
エリンが答え、残りの三人も頷いた。
「ありがとうね。明日から始めたいからお願いね? そうそう、お願いと言えばレイの事なんだけど、男ということは言わない事にしたから、みんなも絶対に話さないようにしてね?」
「勿論だ」「分かった」「分かりました」「了解っ」
「あと、レイの部屋を掃除しないといけないから、その間レイにはここに泊まってもらう事になったわ。みんな、レイをよろしくね?」
「お、レイもここに泊まるのか」
「あ、うん。よろしくお願いします」
「みんな、後はよろしくね? 私はそろそろ帰らないといけないわ」
零があいさつを済ませたのを見届けて、クローシェは席を立ち食器を片付ける。
「ああ、早く帰ってあげた方がいい」
「早くフィーが元気になるといいね」
「ありがとう。また明日ね」
クローシェは一度振り返って返事をして休憩室から出て行った。
「ねえ、フィーってひょっとして」
零は気になった名前について聞いてみた。
「ああ、クローシェさんの娘だよ。フィーは愛称で名前はフィオナだ」
「やっぱりそうか。……早く良くなるといいね」
零は心からフィオナの回復を祈った。
「……それが、今まで多くの治療師に見てもらったんだけど原因がよく分からないし、一向に回復しないの」
「それどころか、ゆっくりとだがだんだん痛みが増していってる。一緒に元気も無くなってな」
症状が痛みと聞いて、零は思わず場所を聞いてしまう。
「痛み? どこが痛いの?」
「場所はお腹って聞いたんだが」
「ひょっとして、レイなら治せるとか?」
期待を込めて言われたものの、零には医学の専門知識がある訳ではない。テレビやネットで見た知識がある程度だ。
「悪いけど僕に専門知識はないよ。見聞きしたことがある物が少しは役に立つかもしれない程度かな」
「駄目かぁ。……わりいな、無理言って」
「別にいいよ。期待させるような事を言ったのは僕だしね」
零はそこまで言った後、他にもできることに気がつく。
「あ、でも、病気の状態を詳しく診るのは出来るね」
解析を使えば異常部分がどこで、どんな状態かを調べることだけはできる。
「本当?」
「それは間違いなく。でも、診てから何が出来るかは分からないけど」
「それだけでも十分役にたつはず」
「うん、明日相談してみるよ」
クローシェにフィオナの診察を持ちかけることにして、食べ終わった後の片付けを始めた。
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片付けが終わった後、零は巾着袋を手渡される。
「レイ、これを受け取ってくれ」
中からジャラリと音がして、そこそこの重さを感じた。
「これは……、お金?」
「そうだ。大きすぎても店で使いづらいだろうから、銅貨100枚と銀貨20枚を入れてある」
「ええっ!? ちょっと待って! なんでいきなり!?」
お金を渡される理由に心当たりがなかった零は驚いて尋ねた。
「今日ここに来るまでに盗賊に会っただろ。そいつらの賞金から皆で決めたお前の取り分を渡しただけだ」
「……取り分って、まさか……」
「レイが隠れてた一人を倒したんだろ?」
零はその時の光景を思い出して、食べたばかりの物を吐き出しそうになる。
「っと、悪かったな。……だが、これだけは言わせてくれ。あの時レイが倒さなければ俺達はみんな無事じゃなかった筈なんだ。お前のした事は間違ってない。感謝する」
感謝の言葉を言われて少しだけ心が落ち着いたレイは「……分かった、ありがとう」と答えた。
その後、零がちゃんと落ち着くまで四人から背中や頭を撫でられ続けた。
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「あのー、もう大丈夫なんだけど」
「そう? ……でも、落ち着くからこのままで」
「僕が落ち着かないんだけど。さっきまでとは別の意味で」
零が落ち着くまでの間、動かなかったのをいいことにアビーがいつの間にか零を膝の上に乗せた状態で椅子に座り抱きついていた。
大人をそのまま縮小した外見のため、零より10cm程は背が高いものの、地球での同じくらいの背の子供に比べて更に細い。零を上に乗せて大丈夫なのか少し心配になる。
また、今は装備をつけていなく普通の服一枚だけの状態だ。正直な所、体の凹凸はクローシェの比率よりも更に少ないが、それでも密着状態なので否が応でも二つの膨らみやその頂点の感触が伝わってくる。
そのせいで零の顔は隠しようもなく赤くなっていた。
「私は家族でも仲間内でも一番年下。だから、こうしてると妹が出来たようで嬉しい」
「妹って……。僕は男だけど……」
「それは内緒の話。言うのは禁止」
「うっ、……分かった」
つい反論してしまったが、これからは男とばれないようにする必要がある。指摘はもっともな事だった。
「そして、早く慣れる為にもこれは必要」
「分かった……でいいのかな? これは?」
好意を無下にできない事と背中に伝わる感触で思わず返事をしてしまうが、このままじゃ駄目だという葛藤も混ざり中途半端なものになった。
「おい、そろそろいいか? 渡しただけじゃ分からないだろうし、レイにお金の説明をしたいんだが」
「私は元から大丈夫」
「えっ、僕は――」
そこで零を抱く力が強くなった。
「――おねがいします」
アビーに放す気は無いようだと悟り、零はそのまま説明を受けることにした。
「まず、お金の種類からだ」
そう言って、目の前に順番に並べられていく。5種類で大小二つがあり合計10枚だ。
銅貨、銀貨は見ればわかる。しかし、その他に陶器製と思われる黒色・灰色・白色の物があった。銅貨等と同様の模様がある。
「一番価値が低いのがこの黒貨、その上が少し大きめの大黒貨だ。『大』と付くのが一つ上なのは他でも同じだから省略する。次は灰貨で、その次が白貨、更に順に銅貨、銀貨だ。まだ上に三種類あるんだが今は手元に無い」
零は黒貨・灰貨・白貨を手にとって見る。
「へぇ、これらもお金なんだ。多分次は金貨だよね? その上は?」
「輝貨と閃貨だ。輝貨はミスリル製の模様が入った銀貨で、閃貨はオリハルコン製の模様が入った金貨だ。模様は他とは違うらしい」
いかにもファンタジーらしい金属の名前が出てきた。今まで調べたものは原子が地球の物と変わらなかったが、この二つは地球の何かに当てはまるのか。
疑問に思ってもみんなは多分答えを知らないだろうと思い、いまは考えるのをやめて本題に戻った。
「それぞれの価値と単位は?」
「黒貨が1アルムで灰貨は10アルムと次の種類は前の種類の10枚分だ。『大』と付くのは付かない方の5枚分だな」
輝貨で1000000アルム、大閃貨では50000000アルムとなる。
地球でも日本とお金のレートが大きく違い、大きな数字のお金を使う国があるが同じ様なものかと思い、零は訪ねてみた。
「ねえ、店で食事をする場合はどれぐらいいるの?」
「安い所なら300から500アルムぐらいだな」
ところが、帰ってきたのは零の考えと逆の返事であった。
零は他にも何個か地球にもこちらにもありそうな物の価格を聞いていった。
それらを元に零は頭の中で計算する。計算が正しければ1アルムはだいたい2円から3円ぐらいの扱いになる。
だとすると、先に貰ったお金は銅貨100枚と銀貨20枚で1000アルム×100枚+10000アルム×20枚=300000アルムだ。日本円に直すと安くても600000円になる。
「……え、えええええぇぇぇぇぇぇええぇっ!? ちょ、さっきのお金、貰いすぎだって! 返すよ!」
今まで扱ったことのあるお金の10倍以上を渡された事に気が付き、零は今の自分が扱っていい量のお金じゃないと心からそう思った。
「駄目だ。それはお前に対する正当な報酬なんだ。俺らが受け取る訳にはいかない」
「でも、こんなにも持ってると危なそうだし……」
「なら、クローシェさんに預けたらいい。あの人ならちゃんと管理してくれる筈だ」
「……分かった。これも明日相談してみるよ」
クローシェは補助金を諦めてもなお零の面倒を見てくれる程の人だ。信頼出来ないわけがなかった。
「さて、渡す物も渡したし、レイはもう寝室に行って寝ておけ。旅の後だから疲れてるはずだ。俺達はこれから交代で警備だからな」
「あれ、みんなも疲れてるんじゃ?」
まず、間違いなく零より動いてるはずなのだ。慣れていても疲れはある筈だ。
「まあ、これが仕事だからな。心配しなくても俺は食べる前に仮眠はしてある。みんなは、レイを案内してやってくれ。ついでに先に寝てこい」
「じゃあ一緒に行きましょうか」
「時間になったら呼んでくれよ」
「お先におやすみ」
エリンを除く三人が席を立ち休憩室を出て行く。
零はと言うと、まだアビーに抱きつかれたままだった。
「え、このまま? 足が届かないんだけど? 自分で歩くよ?」
しかし、その言葉は無視されることになり、零はそのまま寝室まで運ばれて行った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回から次の日になりますが、街に出るまでに少し会話を挟む事になるかな?
話が進むまでにもう少し掛かりそうです。




