第百七話 前人未到の山中(15)
第百七話です、よろしくお願いします。
今回もフェリシアの受難が続きます。
零達はフェランドグッドを目指して山を歩いていた。
そんな中、1人だけフェリシアに運んでもらっているのが居た。リリアンである。
「あ~~、楽ちんなのです~~」
「リリィちゃんいいなぁ~」
フィオナがそれを羨ましそうに見ている。だが、これにはちゃんと理由がある。
「これは仕方がないのです。私はまだゆっくりと歩くのがせいぜいなのです」
まだ長時間の魔力欠乏での衰弱から回復しきっていないリリアンが、山道で他のみんなに追いつけるはずもなく、遅くなるのも困ると運んでもらっているのだ。
「贅沢を言えばお姉様と一緒が良かったのですが、お姉様に山道を運んでもらうわけには行かないのです」
「あたしなら良いっていうのね?」
リリアンのその言いように運んでいるフェリシアが反論する。
「アンタは今回の騒動の原因なのです。だから良心は全然全くこれっぽっちも痛まないのです」
「ぐぬぬ……」
リリアンがあっさりと言ってのけるとフェリシアは歯噛みをするしかなかった。
――――――――――――――――
「やっと着いた~!」
フェリシアは町の入口付近でリリアンを降ろして一息ついた。
「フェル、お疲れ」
「まあ、アタイらも荷物を運んでたんだけどな」
妖精2人がフェリシアをねぎらっている間、零を除いた4人は妖精の町をみて感心していた。
「おぉ~! おっきな町だねぇ~!」
「こんな町が山の中にあるなんてびっくりよ」
「意外と建物が大きいのです」
「じゃが、人が入るにはちっとばかり小さそうじゃな」
「あ、やっぱりみんなもそう思うんだ?」
考えることは同じなんだなと零は妙な関心をした。
その後、フェリシア達の案内でフェリシアの自宅まで通された。
そこにはフェリシアの両親であるリーフェとヨリックが居たのだが、出発時には居なかった4人を見て驚いた。
「フェル、お帰―――……そ、その4人は一体……」
「あらあら、その一緒にいる子達はひょっとして……」
フェリシアは両親に軽く説明をする。
「ただいま。……うん。昨日話したレイと一緒に旅をしてる4人ね。えっと名前は――――」
フェリシアはう~んと頭を悩ませた後、「……なんだっけ?」と言った。
全員が思わずコケそうになりつつも、気を取り直して本人から名乗ることにした。
「コホン、妾はイヴァンジェリンと言う。紹介のあった通りレイの望みを叶えるために一緒に旅をしている最中じゃ」
「わたしはセアラよ。レイが今住んでる家の家主の娘よ」
「フィオナだよぉ~。このサラちゃんのお姉ちゃんなんだよぉ~」
「わたしはリリアンなのです。冒険者ギルドでは一応レイとほぼ同期で、今回の旅には……その……無理やりくっついてきた形になるのです」
リリアンのセリフに疑問点があった零はこっそりとリリアンに尋ねる。
「あれ? リリアン――――いや、リリィが大分先輩になるんじゃないの?」
「下級からが本登録なのです。だからレイとは数日差になるのです」
「あ、そういうこと」
零が納得をすると、リーフェとヨリックからフェリシアにまた街から連れてきたのかと質問が飛んだ。
それにフェリシアがボソボソ経緯を答えると、答えを聞いた2人はいい笑顔でフェリシアの両腕をがっしりと掴み、零達に会釈をしながら家の中へと引きずっていった。
零の頭の中に思わず売られた仔牛の歌が思い浮かぶその姿が見えなくなった少し後、何やら怒鳴り声のようなものが聞こえてきて、その後何事もなかったかのような表情で両親が出てきて家の中に案内をした。
フェリシアの友人でリーフェとヨリックの事もよく知っているはずのヤコミナやショルシーナさえも息を呑む中、零達は恐る恐る家の中に入っていった。
イヴァンジェリンとリリアンが入り口で頭を打ちそうになり、フィオナやセアラが窮屈そうに頭を下げて部屋の中に入ると、そこにはにこやかに出迎えるリーフェとヨリック、そして部屋の隅で震えてつぶやく何かが居た。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
みんなしてブツブツとそればかりを繰り返す何かに一度目を向けた後、イヴァンジェリンが代表してそれの両親に問いかける。
「あー……あれは一体……どうなったのじゃ?」
「ああ、気にしなくてもいいです。いつもの事なので」
「そうそう。それよりもお茶にしましょうね」
いつもこうなるまで怒る両親に対し戦慄を、そこまでされてもなお似たようなことをするフェリシアに呆れを覚えつつ、半ば強引に談笑の時間に入るのだった。
「へえ、聖獣の森に」
「そんな所に何をしに行くの?」
「レイの要望で聖獣達と戯れに行くのじゃよ。なんでも生きた動物の毛を撫でたいとかでの」
「そ、そりゃまたずいぶんと変わった理由で……」
旅の目的を聞かれて答えるイヴァンジェリン。聞いた当の妖精達はなんとも言えない理由に苦笑していた。
「でも確かにあの毛並みは良いものね。上で転がっていると思わず眠気を誘われるくらいにね」
「ほう、会ったことがあるのかの?」
リーフェにイヴァンジェリンが聞き返す。
「会ったというよりも、通り道で疲れた時で勝手に上に乗っただけね。向こうは姿を見れてないと思うわね」
「それだけかの? しかし、妖精相手では森の警備も意味なしじゃな……」
「そうそう、そういえば森の周りにはそんなのが居たわね。でも、だとしたらあなた達はどうやって森に?」
イヴァンジェリンが複雑な表情で考えていると、リーフェから質問が飛んでくる。
「あぁ、それならば心配はいらぬ。妾は少し手続きをすれば入れるからの。レイ達はその同行者として連れていく予定じゃ」
「あの警備をかんたんに通れるのね。……ひょっとして結構なイーヴァちゃんって人なのかしらね?」
「ふふふ、それは内緒じゃよ」
と言った風にお茶会自体は終始和やかな雰囲気であった。……ただ1人忘れられている物を除いては。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
なお、正気に戻ったのはお茶会が終わって夕食になる少し前であった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この話に出た仔牛の歌は、収容所に送られる情景を暗喩した物……でもあるとか。