第百六話 前人未到の山中(14)
第百六話です、よろしくお願いします。
PCを買い替えました。ちょっとキーボードの勝手が違うので、キーの押し間違えが多いです。
フィオナとフェリシア、そしてリリアンの状態が落ち着いてきた頃、零は山に盛られた食材を袋の中に入れている最中であった。
なぜ食材が外にあるのかといえば、セアラたちを受け止めるために袋を使おうと中身を急いでぶちまけてせいであった。
零が一人で黙々と中身を戻していると、真っ先に手の空いたイヴァンジェリンが零の隣にやってきた。
「レイよ、妾も手伝うのじゃ」
「あぁ、ありがとう。じゃあ、そっちの袋にお願い」
「これじゃな?」
イヴァンジェリンが別の袋にポイポイと食材を詰めていく。
しばらくすると、とあるものがイヴァンジェリンの目に入った。
「このトゲトゲしい物は……たしかウニじゃったか?」
他の方もそれぞれ済んだのか、イヴァンジェリンのつぶやきに反応して近寄ってくる。
「サラちゃん、ウニってなぁ~に?」
「ごめんお姉ちゃん、わたしも知らないわよ」
「わたしも聞いたことがないのです」
ウニを知らない三人にイヴァンジェリンは説明をする。
「これじゃよ。水中で採れる食材で、中身を食べるのじゃ。まあ妾も国外に行った時に、採れた後運ばれてきたものをひと目見ただけじゃがな」
堂々とそんな説明をするイヴァンジェリンに零はツッコミを入れる。
「あの~、それ、ウニじゃなくって栗って言う木の実なんだけど……」
「『クリ』……? 木の実じゃと……?」
イヴァンジェリンはギギギと音がなりそうな程、ぎこちなく零の方に顔を向けた。
「まあ、栗はこの山でしか採れないって言ってたから、間違えても無理はないと思うけど。でも、ウニは海の水でしか生きられないから、こんな山の中の水辺じゃ見つからない物――――」
零が説明をし直すと、イヴァンジェリンの顔が段々と赤くなっていく。堂々と間違いを説明してしまったことが恥ずかしかったようだ。
零はマズかったかと思い、早くウニから話を逸らすことにした。
「ま、まあとにかくこれは木の実なんだよ、うん」
「このトゲトゲが木の実なのですか」
「こんなのが美味しいの? 味わう前に刺さっちゃうわよ?」
「手も口も血だらけになっちゃうよぉ~?」
一応みんなの興味が栗の方に向いてくれたため、零は内心でホッとしながら説明を続ける。
「トゲの部分は食べないよ。中に入ってる実の部分……実際には種なのかな?を取り出して食べるんだ」
零は殻の少し割れているものを探して取り出し、中を見せる。
「この茶色のがそうなのですか?」
「でも、これも硬そうよ?」
「バリバリかじるのぉ~?」
「まあ、茹でたり焼いたりしてからその殻も向いて食べるのが普通かな?」
「殻が2つも……なかなか面倒な食べ物なのです」
「まあ、食べればわかるけどそれだけの価値はあると思うよ」
「はぁ~いっ! フィー食べてみたぁ~い!」
フィオナはそう言うやいなや毬栗を一つ取り出して魔法で焼き始めた。
「まだかな、まだかなぁ~?」
「ちょっ、フィー!? いきなりそんなふうに焼いたら――――」
火加減が強めだったのもあり、零の予感通りに栗がパァンと爆ぜてしまった。
「あっつぅ~いっ!!」
「あ~あ、やっぱり……」
「お、お姉ちゃん、大丈夫!?」
「な、なんとかぁ~……」
いきなりの事態に栗を知らない人たちは慌てふためいた。
「く、栗が吹き飛んだのです!?」
「栗ってそのまま加熱すると殻が爆ぜちゃうんだよね」
「レイちゃん、先に言ってよぉ~……」
「その前にお姉ちゃんが焼き始めたんでしょ?」
「フィーの栗……あ」
フィオナがしょんぼりとうつむくと、足元に爆ぜた栗の一部が転がっていた。
中を見てみると2つあった実の内一つはまだ原型を保っており、殻が軽く割れている程度であった。
「あぁ~っ! あったぁ~っ!」
フィオナは少々熱がりながら残った実を取り出し、殻の裂け目にそって割り開いた。初めてとは思えないほどに器用に甘皮も剥き、フィオナは栗を口の中に頬張った。
「アツアツ…………おぉ~! 甘くっていい香りがしておいしぃ~っ!」
「んなっ!? その実だけで甘いのですか?」
「そうだよぉ~。フィーこれ大好きぃ~」
「お姉ちゃんいいな~。レイは詳しいみたいだし、ちゃんとしたのを作ってみてよ」
「さすがにここでこれ以上は火事が怖いからやめておくよ。町に着いてからね」
そんなやり取りをしていると、妖精達が感心して零をみていた。
「へ~、レイって栗の名前だけじゃなくって、爆ぜることまで知ってるんだな」
「今日始めて見せたのに……びっくり」
「あたし達の知らない『ウニ』の事まで知ってるし、ほんと物知りね」
妖精達がそうつぶやいたのを聞いて、リリアンとイヴァンジェリンが不思議に思った。
「あれ? この栗というのはここでしか採れないと言っていたのです。 今日見たばかりのレイはどうしてそれが爆ぜることを知っているのですか?」
「それにウニも妾以上に知っておるようじゃし、一体どこの出身なんじゃかの?」
零はしまったと思い、少々冷や汗を流しだした。
そこでフィオナとセアラが口を出した。
「レイちゃんはぁ~、とぉ~っても遠いところから来たのぉ~」
「そ、そうよ。……『ニホン』だっけ? 大陸から見えない位置にある島から来たって話よ」
……嘘はついていない。ただ大陸から見えない位置と言うのが、世界ごと別であることを言っていないだけで。
だが、そんな説明でも一応2人はは納得してくれたようだ。
「ふむ、そこにはウニも栗もあったということかの?」
「それより、レイはそんな場所からこの内陸までやってきたのですか!?」
「っと、そうじゃったな。道中はさぞ大変じゃったろう」
「はは、まあちょっとね……」
零は2人の想像するおそらく大変の方向が違うだろうなと思いつつ、ごまかしてくれたフィオナとセアラに目配せで感謝を示すのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
栗を焼くときは水蒸気が殻の中に充満して最後に破裂します。レンジで卵が破裂するのも同じ理由です。
栗を自分で焼くときは殻に包丁等で切れ込みを入れたほうが安全です。卵は……固まった部分ごとが水蒸気を閉じ込める役割をしてしまうので破裂するときはしてしまいます。