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第十話 常識違いで大苦労(1)

第十話です。よろしくお願いします。

今回、設定上仕方が無いのですが、誰得な部分があります。


一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)

話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。

そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。

また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。

「クローシェさん、あと少しで街よ。そろそろ着替えた方がいいんじゃない?」

「あっ、痛くないから忘れてたわね」

「あたいが交代するよ」

 血のついた服を着替える為、御者を交代してクローシェは馬車の中に入った。そして、荷物の中から服を取り出すとその場で服を脱ぎ始めた。零は慌てて顔を背ける。

「レイ? 突然どうしたんだ?」

「顔が赤い。何かの病気?」

「いやいや、見てちゃマズイでしょ!」

 クローシェが肩の傷を確かめようと服をずらした時、下に何かを着ていた様には見えなかった。当然、脱げば全部が見えてしまうことになる。

「あら? レイはどうしたの?」

 着替え終わったクローシェも零の様子を不思議そうに見ていた。

「さあ? 何故か、着替えを見たら駄目な様な事を言ってるんだが」

「男が女の人の裸を見てたら恥ずかしいでしょ?」

 零が尋ねるものの、周りの反応はピンときた様子はない。

「うーん、これも世界の違いなのかしら? 私達には普通の事がレイには違うとしたら、一体何を教えればいいのか分からなくなるわね……」

 クローシェは困った顔をして呟いた。次にドワーフの人が質問に答える。

「あー、レイ? 俺には兄がいたんだが、別に水浴びの時とかも一緒だったぞ」

「……それって、小さい頃の話じゃないの?」

 なんとなく認めたらマズイ気がした零は、よくあるオチを言ってみた。

「いや、成人した後でもだ」

「……成人の歳がすごく低いとか?」

 零は再度抵抗を試みる。

「成人は15歳からだ。お前も成人だぞ。そうは見えないが」

 しかし、あっさりと切り捨てられる。それでもまだ疑問が残っている。後半の言葉には目をつぶり、零は三度(みたび)抵抗する。

「で……でも、前に叫ばれた後で蹴り飛ばされたけど?」

「オイオイ、一体何があったんだ?」

「こっちに来た時、川に流されて滝壺に落ちて、必死に上がったらそこにたまたま女の人が……」

「……それは、災難だったな」

 運の悪さに零は同情された。

「でも、それは関係ないだろ?」

 しかし、これもまたすっぱりと切り捨てられた。

「えっ? なんで?」

「お前は男に見えん。相手は確実に女に見られたと思ってる」

「ちょっ! ひどいよ! あんまりだ!」

 あまりにもストレートに言われて、零は顔を真っ赤にして抗議した。

「あ、悪かった。……だがまあ、そいつの反応は俺らから言えば普通じゃないのは確かだ。参考にならん」

 零にはもう抵抗できそうな事が思い浮かばなく、黙りこむしかなかった。その時、クローシェから聞きたくなかった言葉が発せられた。

「……まあとにかく、ここでは親しい人なら裸を気にすることはないのよ。レイもそれに慣れておいた方がいいわね」

「うあぁぁぁっ!! やっぱりぃぃぃっ!!」

 零は嫌な予感が当たっていた事に思わず大声を上げてしまう。そして、これからもまだまだ常識の違いに悩まされそうな為それを考え憂鬱になっていった。


――――――――――――――――


 馬車はその後、何事も無く進んでいった。

 そして、太陽が傾き始めた頃、道の先に壁が現れた。

「ようやく見えてきたな」

「レイ、あれが私達の住んでる街エクセブラよ」

 先に見える壁はまだ地平線近くにある。しかし、それでも視界の端からはみ出すほどの長さがあった。

 想像以上の街の規模に零は興奮を隠せなかった。

「何あれ!? ひょっとして、あの壁で街を全部囲ってるの!?」

「そうよ。エクセブラは国でも有数の城塞都市なのよ」

 馬車はそのまま壁に近づいていく。壁は高さも相当なものであり、目測で15mはある様に見え、正面に見える門も5mはありそうな程大きなものだった。

 門では人や荷物の検査をしているようで、この時間でも門の前には馬車が十数台は並んでいた。待つこと二十分程ようやく零達の番になる。

「馬車を検めさせてもらう」

そして、検査が始まったが、当然学生服の零は目立つことになり尋ねられる。

「なあ、この変な服の子供は一体どうしたんだ?」

 零がどう答えようか悩んでいると、クローシェが代わりに答えを返した。

「この子は盗賊に襲われてたのよ。それをたまたま通りかかった私達が助けて保護することにしたの」

「そうか。それで盗賊はどうしたんだ?」

「馬車の後ろよ」

 やはり、あのつつみの中は盗賊の一部のようであった。門番はそれを確認すると納得したようで残りの荷物の検査にかかる。

 その後は特に問題は無かったらしく、零たちは門を通りぬけ街の中に入っていった。


 門をくぐり抜けると、そこは大通りの様だった。馬車同士が余裕ですれ違っても人が通ることのできる広さの道に、木の骨組みと石組みの壁の建物がズラリと並んでいる。

 既に夕方に近い時間ながらも人通りは多く、活気に満ち溢れている。

 子供が少し多い様に見えるがゴブリンの人も混ざっているのだろう。そして、男が生まれにくいと言うのは本当らしく見渡す限り女性しか居ないように見えた。

「男が少ないのは本当だったんだ。女の人しか見えないね」

 零が感想を言うと、クローシェは横に首を振る。

「少ないけど、この中に男の人もいるわよ」

「えっ? どこに?」

 零は再び辺りを見渡すが見つけられない。

「ほら、あそこよ」

 クローシェが指で指し示すが、そこは零も既に見た場所だった。しかし、それでもクローシェを信じてその辺りを探すと何か引っかかるものを感じる。

 零はそこを注視した。そして、違和感の元の人物がこちらの方に向きを変えた。

「……い、いた。いたんだけど……」

 零はクローシェの示した男を見つける事が出来た。だが、そのせいで目が点になってしまう。

 その人物は確かに男だ。おそらく40代と思われる渋さの(にじ)んだナイスミドルといった顔つきだ。

 しかし、なぜ見つけられなかったかと言えば、その人の服装のせいである。

 別に全身を隠すようなローブを着ていたりと体や顔を隠すような服装ではない。地球で言う中世ヨーロッパ前半辺りの、至って普通の町人服である。ただし、その服が周囲の人と似たような物であり紛れてしまっていただけで。

 そう、その男の着ている服は()()()にしか見えないものなのである。

「見つかったようね。まだ数人はいるわよ」

 零はクローシェに言われて他の男も探してみる。

 そして、あわせて五人を発見したが、いずれも女性用の服装にしか見えなかった。その内の四人は下がスカートで、残りの一人もレギンスの様なズボンである。

「……なにこれ。ここじゃ――」

 零は「――女装が流行ってるの?」と続けたかったのだが言葉に詰まってしまう。

「どうしたの?」

「えっと、男の人が女の人の服を着てるんだけど」

 零は何度目かの嫌な予感を感じながら質問をする。なぜなら、先の質問をしようとした時に『女装』という単語が出てこなかったのだ。さらには今の質問でも『女性服』が出てこなかった。これらがあらわす事というのは――。

「女の人の服ってなあに?」

「……うん、予想はしてた。……服に男女の区別が無いんだね?」

「男で専用の服があるの? うーん、需要がなさすぎるわね」

 百数十人は見た中で、男がたったの五人しか居ないのだ。しかも、あの服装が定着してしまっている。確かに作っても殆ど売れないだろう。

 そして、服に男女の区別が無いということは。

「……ねえ。やっぱり、僕もあれを着るの?」

「そうなるわね」

 零はガックリと肩を落とす。

 零の容姿が容姿なだけに、今までに何度も周囲から女物の服を一度でいいから着て欲しいと言われてきた。

 しかし、零はどんな条件があっても(かたく)なにそれらを全て断り続けていたのだ。だが、ここではそもそも男性服という選択肢自体がないという。

 しかし、零はふとクローシェの職業を思い出して尋ねる。

「僕用に特別に作ったりしてくれない?」

「だめよ」

 即答だった。

「どうして?」

「実物は知らないけど、男専用がコンセプトの服なんでしょ? 最低でも出身を隠さないといけないあなたが悪目立ちしてどうするの?」

 それを言われると零としては全く反論できない。

 まさかこんな理由で女装をする羽目になるとはと零は盛大にため息を付いた。


――――――――――――――――


「着いたわ。ここが私の店『クローシェ洋裁店』よ」

 こっちでも名前を店名に使ったりする様で、ここまでくる間にも同様の看板があった。

 店構えを見ると中々に大きく、二階建てで間口が20mはあり、販売スペースだけで奥行きが同じぐらいある。販売スペースに階段が見えないことから更に奥にも部屋があるのだろう。

 店には今でも多数の客がいて、服を手にとって確認しているのが伺える。

 零は店の様子に圧倒されつつ、クローシェに尋ねる。

「なんか、思ったよりも凄い店なんだけど。儲かってないような事言ってなかった?」

「この店は良い物を安く提供するのが自慢なのよね。だから、客が入ってもそこまで儲けは多くないのよ」

「薄利多売なわけね」

「それに、娘の治療費も回復魔法が珍しいせいで凄く高いのよ。店を持ってると言ってもも中々厳しいわね」

「うわ、そんなに?」

「あなたも回復魔法については使うときは注意した方がいいわよ」

「分かった」

 零とクローシェが話していると声がかけられる。

「クローシェさん。そろそろ馬車を返しに行きたいんだけど」

「盗賊の件や荷物の整理もある。私達はそちらに向かいたい」

「あ、ごめんなさいね。お願いね?」

「よし、じゃあ行くぞ」

「あたいは荷物整理だな。いってらっしゃーい」

 店先に零、クローシェ、イーディスを残して馬車が出発する。それを三人は見送って店の中に入っていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

オヤジの女装で誰が喜ぶのやら。しかも、あまり出さないとはいえこの世界の男全員という……。

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