第一話 ここはどこ? 僕はだれ?(1)
初投稿作品です。
遅筆ですが完結まで目指して頑張りたいと思います。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
「久々に大物がきましたね」
防御システムに強い反応があった為、彼女は現場へと急行する。大物と言っても動きは単純であり、普段なら簡単に排除して終わる筈だった。
しかし、今回はそれまでの相手とはパターンが違っていた。彼女が近づくと突然向きを反転し、防御網から反応が消てしまう。
「――っ、逃げられるわけには行きません!」
ここに被害が出なかったのは良い物の、あれは彼女が今まで見た中でも特に危険な部類の物だった。逃げたまま放置する訳にも行かず、ここの防御を強めると共に彼女は追跡を開始した。
追跡を開始してしばらく立った時、彼女は防御システムの綻びのある場所を発見する。綻びは自然発生した物で暫くの間補修がされていない様だったが、一部に真新しい痕跡が見える。そして、反応はこの中にあり、侵入された事が伺えた。
ここの管理者は彼女のよく知る者でもある。この相変わらずの管理の杜撰さに呆れながらも、彼女は中に入り追跡を再開した。
――――――――――――――――
(うーん、なんか寝づらいな)
なせかベッドが固い感じがして、ザーザーと騒音まで聞こえてくる。
「うぅ……」
だが、頭痛や悪寒を感じる為、風邪でも引いたのかと思い彼はこのまま寝る事にした。
しかし、下半身が濡れている事に気づき、漏らしたかと思い彼は飛び起きる。
そして、彼が目にしたのはベッドの上に大きく書かれた地図――では無かった。
「……何この状況」
彼が目にしたのはのは川、そして周囲を囲む木々。川の下流側は木々が少なく向こうには広大な平原が見えていた。
漏らして無かった事には安堵した物の、彼は今の事態が飲み込めずにいた。
状況としては、川の上流から流されてきてこの川岸に引っかかって止まったと推測出来た。しかし、その前に何があったのかが全く思い出せず、更には自分が何者なのかも分からなくなってしまっていた。
(ひょっとして記憶喪失? こんな場所で冗談じゃない、何か少しでも思い出せないか? ――うん、何か物凄い衝撃を受けた気がする。頭痛や記憶喪失はこのせい?)
他にも思い出せないかと思ったが、これ以上は何も出てこなかった。
自然に思い出すのを待つには安全が確保できてなく、安全を確保するには情報が無さ過ぎる現状に彼は焦っていた。そしてそのうちに現実逃避の様に一言つぶやいてしまう。
「……あーあ、記憶がすぐに思い出せる様な物があればなぁ」
その時、彼の視界の端におかしな物が映った。彼は見間違いかとも思ったが、それは視線を動かしてもピッタリとついて来た。
どう見てもそれはウィンドウだった。書かれている文字は記憶がなくても見慣れないと感じるものだ。それにも関わらず彼には何故か意味が理解できた。
《指定のコマンドを実行します》
(何これ? コマンド? ――っ、うわっ!)
突然、頭の中を直接触られる様な違和感に襲われて、彼は思わず頭を抱えて蹲ってしまう。そんな中ウィンドウが次々と開かれては閉じて行き文字を映しだしていった。
《指定のプログラムを作成しています 終了まで9秒》
《記録情報管理プログラムの作成が完了しました》
《記録情報管理プログラムを実行します》
《記録情報が接続されていません 検索を開始します》
《記録情報を確認 接続を開始します》
《接続中……》
《接続が完了しました》
《記録情報の検査を開始します》
《アイドルスキャン中…… 終了まで1時間27分34秒》
(……うえぇ、気持ち悪い、今のは一体……ん? あ、あれ? これってひょっとして)
「僕の名前は宇野 零。歳は15歳。兄弟は居ない。父さんの名前は礼司で、母さんの名前は玲香。ペットには猫のチマがいる」
(間違いない、僕の記憶だ。ひょっとして今ので思い出せるようになったとか?ホント僕に一体何があったんだ?)
まるで自分がパソコンにでもなったかの様な感覚に戸惑う零。しかし、思い出せる様になったのには間違いない。
未だ視界にあるウィンドウを眺めつつ、零は自分に何が起こったかを知る為に今朝からの事を思い出す事にした。
(えっと今日はチマに起こされて――)
――――――――――――――――
「まったく~、まだ6時なのに~」
言いつつ零は、緩んだ顔で飼い猫のチマを抱き上げる。名前と裏腹にやけにデカイこの猫は、人が寝ているとその上に乗る癖がある。今回は顔の上に乗られ、息苦しくて目が覚めてしまったのだ。
再び寝るのにも微妙な時間なので、零はチマで暇をつぶすことにした。
「そんな悪いニャンコは、こうしてやる! こうしてやる!!」
少し雑な感じにかき乱しながら撫で回す。チマに起こされた時の恒例であった。毛の中がさっぱりするようで、これをやってもらいたいが為に上に乗ってくるのは分かっていたが、零は構わずに続けた。
結局零は、母親に呼ばれるまでチマをモフり続けていた。
「おはよ~」
「おはよう零、チマと遊ぶのはいいけど時間は忘れないでね? 学校は今日まであるのよ?」
今日は中学校卒業式の日、休みは明日からというのについついモフり過ぎた様だ。
「はーい。あれ? 父さんは?」
「もう食べ終わって準備中よ、零も早く食べなさい」
言われて朝食を食べ始める零。その様子を見つめながら感慨深そうに母親がつぶやいた。
「零ももうすぐ高校生かぁ、早いものね」
「ホントにそう思ってる?」
この歳になっても両親共に小さい頃と扱いが変わらない。そのため、零は母親の言葉に疑問を返す。
「当たり前でしょう」
「その割にはいつも子供扱いなんだけど?」
「それはそれよ、可愛い息子なんですもの」
「そうそう、親からすればいつまでも子供には違いないしな!」
母親の言葉に同意しながら出て来る父親。既に礼服を着こみ手にはカメラを持って、もはや準備は万端な様だ。
そして、いつもの様に零の頭を撫でる母親。両親と仲が悪いわけでは無いのだが、15歳にもなってこれは恥ずかしいと零は日頃から思っていた。
「頭撫でるのはやめてほしいんだけど」
「だってこんなに小さくて可愛い子が目の前に居るんですもの。撫でたくなるのは当然よ!」
「その通り! 自分の息子ながら贔屓目を抜いても、アイドルにも勝るとも劣らないぐらいの可愛さがあると断言できる!!」
「それ、全然嬉しくないよ!?」
零は背が高くない――どころかとてつもなく低い。父親の礼司は170cm代で、母親の玲香は160cm代。そして零は悲しい事ながらたったの135cmである。実の親子であるのにもかかわらずこれである。
更には童顔で女顔なので、まず間違いなく幼女と勘違いされるというおまけまであり、零は自分の容姿ながらかなり恥ずかしい物があった。
ただ、肩まで伸びた髪については女に見えると本人も思っていたが、短くした時に余りにも似合わなかったために仕方なく妥協していた。
「礼司さん、これはもしかして反抗期なのかしら?」
「心配ないよ玲香、ただ恥ずかしがってるだけさ」
「あぁ、良かったわ。でも、ちょっと寂しい物があるのよね」
「その分、俺がもっと付き合うよ」
「礼司さん……」
反抗期への心配をしたと思えば二人の世界へと入り込む両親。零が物心ついた時から全く変わらない夫婦仲である。
そんな二人を見て既にお腹一杯な気分になりながらも、この隙に逃げるために、零は急いで食べることにした。
「気をつけて行ってくるのよ?」
「変なやつを見つけたら、すぐにその場から離れて誰かと一緒に行動しろ」
「誰も居ない様ならブザーをちゃんと使いなさい」
余りにもの過保護っぷりの様にも思われるが、零のこの見た目のせいで今までに何度か変質者に出くわしているので、この心配は当然とも言える。
幸い逃げることができたり、人が駆けつけ無事ではあった物の、その気味の悪さが零の軽いトラウマになってしまっていた。
「うん、もちろん。それじゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「俺らも時間前には向かうからな」
いつもの様に両親の見送りで出発して、いつもの様に学校を目指す。
しかし、零はその途中でおかしな事に気がつく。いつからか人を全く見かけなくなっていた。車も一台も走っていない。
(あれ? なんで誰も居ないんだ? ――はっ! 変質者っ! ……も、居ないみたいだね)
余りにも静かで不気味ではあった。しかし、卒業式だと言うのに遅刻する訳にも行かなかったため、零はそのまま登校する事にした。
校門に辿り着いた物の、ここにも誰もいなかった。零は日にちを間違えたかとも思ったが、昨日はなかった卒業式の飾り付けがされている為、それは無いと思い直した。
ひとまず校舎の中に入る前に、零は外の様子を見る事にする。しかし校庭にも、式のため開いていた講堂にも、建物の裏にも誰も居ない様だった。
外は諦めて校舎内を探そうと向かった零。しかし入口前の広場に入った時、それは校舎の影から這うようにして現れた。
(あれは……、何?)
突然現れた真っ黒な丸い塊、大きさは2m近く、何の質感も感じず、ただそこにあるのが分かるだけの何かが零の視線の先にある。
(おかしいな、ぼくはまだ寝てるのかな? 道にも誰も居なかったし、これはやっぱり夢なのかな?)
呆然と塊を見ていると、それは木の植えてある方へと動いていた。塊は実態がないかのように、木にぶつかってもそのまま動き続ける。そして、根本が塊で隠れて少しすると、まるで木が塊に飲み込まれるかの様に沈み、消えていってしまった。よく見ると塊が動いた痕も抉られた様になっていて、同じく消えてしまっていた。
現実離れした光景に思わずカバンを落としてしまった零。しかし、それが災いしたのか黒い塊は零の方に近づいてきた。
状況を理解した零は慌てて向きを変え、カバンを拾うのも忘れて校門に向かって走りだした。
しかし、まるで無駄だと言わんばかりに、塊は地面を飲み込みつつ這い出し、あっという間に零の周りを囲んでしまう。そして、それはまるで壁の様に高く伸びて、雪崩れ込む様に零を覆い尽くした。
黒い塊の中で、零が意識を手放すまでに時間は掛からなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今日は第二話も投稿しますので、良ければそちらも読んでやって下さい。