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関口さん。2

カランから細く水が流れる。

逆さ吊りになった首の無い全裸の少女がぶら下がっている。

首があったところからは血がとめどなく落ち、水と一緒に排水溝に流れていた。

背筋を伸ばし気をつけの姿勢のまま、その身体は重力を間違えたかのよう。

私は脱衣所に丸いいすを持ち込んで、浴室で行われている血抜きの様を眺めていた。

私は共犯者なんだから死体を見ておく必要があるの、何かあったときに言い訳にも使えるから、と総一さんに言い張った。

「気持ち悪くないですか?俺はもう食べ物にしか見えないから平気だけど、ひよこちゃんには刺激が強いと思うんです。」

なんて言ってくれたけど、私はそれでも見たかったのだ。

生きていた人が、私のための肉になる様を。

「大丈夫です?気分は悪くないですか?つらくなったらすぐにお部屋に帰ってくださいね」

うん、と私は返事しながら死体から目を離さなかった。

肌は白く透き通ってきていて、生きている人間よりきれいだった。

そんな私を心配そうに気にかけながら、そばの洗面台で総一さんは手を洗う。

首を埋める作業はつつがなく終わったらしい。

「それにしてもびっくりしちゃいました。この子、ひよこちゃんの友達だったんですね」

総一さんは無理やりに笑ってそう言った。優しい人だなぁ。

ただのクラスメイトですよ、と答えると総一さんはそうでしたね、と返してくれた。

首の無くなった少女は園田さんで、私は園田さんを初めて愛おしいと思っていた。

おいしくしてくれる人に会えてよかったね。

心のなかで、園田さんの死体及びもうなくなってしまった命に話しかける。

そして、ごめんね、とも声をかけた。もちろん心の中で。

私はずっと、園田さんを食べたいと思っていた。

制服のスカートから伸びる足がとてもおいしそうだと思ったのだ。

だから私は、彼女を食べられる確立を少しだけあげることにした。

総一さんに出会ってから、私は行方不明になっている女の子の特徴を調べてみた。

自分が食べられちゃう確立を減らすためだったんだけど、そんなことはしなくてよかったみたい。

だって共通点はすごく分かりやすくて、まるで私と正反対。

健康で活発で、髪の短い女の子ばっかりで、超インドア派な私とは間逆だったから。

適度に締りのある肉はやはり健康な身体から。

運動部でバリバリって感じの子は一人もいなかったけど、その代わり皆友達が多かったり、そうでなくても外に出ることの多い子たちだった。

この子を探しています、の写真は皆健康的な肌の色をしていて、全身の写真にいたっては皆すらりとした足を持っていた。

やせぎすの女の子はおらず、髪も染めてはいないようだった。

そして、みんな、とってもおいしそうだった。

私は、きっと総一さんとおんなじ感性を持っている、これはもう揺るぎの無い事実だった。

だって食欲をそそられるんだもの、総一さんだってそうだった。

そしてきっと、園田さんを見た総一さんはきっとおんなじ様に彼女を食べたいって思うはず。

そう思ったらいてもたってもいられなかった。

性格はあんまり得意じゃなかったけれど、食べるための人だと思ったらさして問題は無かった。

それよりもどうやって総一さんに彼女を見つけてもらうか、それが問題だった。

とにかく長い髪を切ってもらわないと始まらない。

私はだから、それを伝えるチャンスを逃がさないようにした。

昨日、あの電車が一番自然だったと思う。

話題に困った園田さんに助け舟を出すふりをして、私の欲求を満たすための一手を打った。

でもまさかこんなに早く決着がつくなんて。

誘拐方法を聞いて、納得はしたけど。

総一さんには黙っておこう、彼女の気分が悪くなったのはあの人肉ベーコンのせいだ、って。

そうそう、何で私がこの血抜きの現場を見れたかっていうと、ベーコンのタッパーを返しに来たからだった。

玄関に女の子の靴があったからお客さんかと思ったし、総一さんは困った顔をしていたから。

お客さんがいるならすぐに帰りますよ、というと首をゆるく振ったのだ。

「とってもおいしそうな女の子を拾ったんです。今から殺して処理をするので、今日はおもてなし出来ないんです」

と、ひどくしょんぼりとしていた。

私は私で、園田さんを食べる機会を逃しちゃったなぁ、と思いしょんぼりした。

そしてしょんぼりしつつ思ったのだ。

じゃあせめて、社会科見学として食肉加工の様をみたい、と。

そのままいうと案の定総一さんは嫌がった。でも私だって負けない。

私は共犯者なんですよ、それくらいの権利はあります!と強気に出たのだ。

もともと優しい総一さんだ、すぐに折れるだろうと思ったし、実際すぐに、ものすごくしぶしぶと了解してくれた。

「いいですか、警察に何か聞かれたら俺に見せつけられたって言ってくださいね。自分から見たいなんて言ったらいけませんからね。」

総一さんは何度も何度もそう言って私を応接室まで通してくれた。

応接室って言うのは大げさなんだけど、ソファがあってテレビがあって、このおうちで一番広いお部屋のことで、まあ要はリビング。

その長椅子に眠っていたのは、あの、園田さんだった。

私は彼女を見つめて、そして園田さん、と呼んだ。

声は、はずんでいたと思う。

「…お友達ですか。あっ、食べない方が良いですか、今なら間に合いますよ」

あわあわ、と総一さんは慌てていたが、私はゆっくりと首を横に振った。

そして、総一さんを見つめて微笑んだ。

彼女、おいしそうでしょう、食べてみたかったんです。

そう言うと総一さんは言葉を失ったみたいで、ぽかんとした総一さんがなんだか可愛かった。

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