総一さんふたたび。1
拘置所、と言うところはひどく殺風景だ。
食事もひどいし、嗚呼、こんなことなら首でも吊っておけば良かったなぁとぼんやりと思う。
まあ自殺は思い留まらないといけない。
俺が死んでしまってはひよこちゃんが完全なる被害者にならない。
俺だけで良い。俺が巻き添えにしたんだから。
麦ごはんは好きだし、おかずもまずくは無いけれど、でも、ひどい食事だとふと思ってしまう。
多分ひとりだからだ。
家にいるときはひとりでも、今度ひよこちゃんとあれを食べようこれを食べようと思っていたから平気だった。
人肉以外もたくさん食べた。
ミートボールのスパゲティ、鶏販、そうめん、寄せ鍋、チャーハン、サンドウィッチ。
甘いものがお互い好きで、色々作ってみたりもした。
シフォンケーキ、ショートケーキ、スコーン、フルーツケーキ、アップルパイ、いちごのタルト、マドレーヌ。
外に出かけたことも何度かあった。
クレープ、パンケーキ、焼肉、焼き鳥、カオマンガイ、ケバブ、たこ焼き、チョコレートフォンデュ。
何もかもがおいしかった。
何もかもが素晴らしい味だった。
一度食べたことのあるものも、ひよこちゃんと食べるとおいしくて。
嗚呼、人を食べたりしなければ出会わなかったのに、人を食べたことをこんな形で後悔している。
部屋の隅に丸まってそんな事を考えた。
あれからしょっちゅう丹羽が面会に来る。
食べ物の差し入れが主で、使い捨てのタッパーに沢山詰めてやって来る。
「こんなところのメシなんて食べる必要ないよ。お前は快楽殺人鬼じゃなくて、ただの猟師みたいなもんなんだから」
丹羽は、俺の行動を正当化しようとしてくれた。
幼馴染がカニバリストという現実を彼なりに受け入れようとしているんだろう。
無理しなくてもいいと言いたかったが、その代わり俺はありがとう、と返している。
丹羽の作るおかずはおいしいし、ごはんも炊き込みご飯だったり中にのりが挟まっていたりと凝っている。
おいしくいただきながら、丹羽のごはんを食べているときは楽しいと思った。
目の前に丹羽がいて、この煮物はああだ、その佃煮はどうだと講釈をたれているのが目に浮かぶ。
俺は煩い黙って食え、とか心の中で言っていて、横でひよこちゃんが楽しそうに笑っているのだ。
勿論これは空想で、はたから見たら獄中でにまにま笑いながら食事を摂るサイコパスにしか見えないだろう。
でもそんな空想が現れるのは丹羽の作ったものを食べているときだけだし、愉快なので放置しておく。
おじいちゃんとおばあちゃんはあの家で暮らしているらしい。
少しおかしくなってしまったのか、裁判の間二人とも笑ってばかりいた。
しかし、それは間違いだった事を、後の面会で知る。
「じいちゃんはやらなかったがお前は行動に移した、それだけだ」
「本当、おじいさんにそんな映画ばかり見せた私が悪いんでしょうけどね、二人でよく話してたのよ。人っておいしいのかしら、って」
「小さい頃、お前にも言っただろう。そうしたらお前、きっとすごくおいしいよって返してきたんだから」
「だからこれは、私達の責任でもあるんでしょうけれどね、でも、なんだかおかしいわ、あんな昔のことがこんなに影響を与えていたなんて」
俺はなんども瞬きをして、そして思い出した。
小さい頃、まだ両親が生きていた頃、あの家で、家族で映画を見ていた。
おじいちゃんが気に入ってビデオまで買った映画で、人間を食べる外科医が出てきていた。
それを見たおじいちゃんは人間はおいしいのかと言い出して、おばあちゃんはたべてみないと分からないと言い、父さんは雑食はまずいらしいと言って、母さんはおなかを壊さないかしらと首をかしげた。
全員が全員、食べないという選択肢は持っていなかった。
俺は、嗚呼そうだ俺は。
鬼も悪魔も巨人も人間を食べようとするんだから、きっとおいしいよって、返したんだ。
忘れてた、そんなこと、と笑えばおじいちゃんも笑った。
「10年以上前だからなぁ、覚えてないだろうよ」
俺のカニバリズム人生はここがスタートなのか、と俺は一人納得したのだ。
おじいちゃんとおばあちゃんは俺に差し入れとして大量の肉料理をおいて行ってくれた。
俺の好きなフィレ肉。香ばしくて中は赤い。
ありがと、と笑って受け取る。
基本は拘置所のごはん、時々ぜいたく。
いい生活かもしれないなぁ、と思っている時点で俺もだいぶ狂ってきている。
実際、ここでは何日たったかと言うのがとてもあやふやだ。
丹羽が来たのはおとといで、おじいちゃん達はもっと前。ひよこちゃんに会ったのはだいぶ前、法廷で。
嗚呼おなかすいたな、と俺はごろんと寝返りを打つ。
明日は裁判。俺が色々しゃべらないといけない。
言い訳は苦手なんだよなぁ。言いたいこと言わないとなぁ。
俺の今の行動理念は、ひよこちゃんを助けること。
みんな俺を甘やかしてくれるけど、それじゃ駄目なんだよ。
俺は自分のわがままで肉を食らい続けた食人鬼。
みんなから見放され見捨てられどうしようも無いサイコパス。
ひよこちゃんは、被害者。
何の咎も負ってはいけない。
演じなければ。
考えれば考えるほどお腹がすいてくる。
嗚呼、ものすごく。
たべたい。
拘置所と言ってますが彼は今拘留所にいます。
彼は今、場所の違いが判っていません。
注釈まで。




